余話 みなきゃよかった
「それで?」
正座している。
ここはゲームの中?
ゲームの中なら確かに何度かしている。
本田さんは、装備全部脱いで土下座状態もしたな…。
現実じゃないから、別に抵抗もなかったんだけど…。
「……本当に申し訳なく…」
「それは私らじゃなく、信じてた皆に言わんといかんのだがなぁ」
チカちゃんも、ちょっとキレ気味だ。
割と本気に。
「ぽよぽよは、もうぽよぽょしないままなんだ?」
「まぁ、そううことではありますよね」
「ほんと、ご迷惑かけます」
何一つ言い返す言葉がない。
「それで?つまりあの、島の更新やってるの…誰なの?」
「ま、間違いなく運営だよね……要望投げられて時間関係なくそれ受信できるのと反応して対処できるの、ずっと一人で出来てたら、ほぼ人間じゃないもん」
「そういうことなんだよなぁ、やっぱ」
目の前に立ってるチカちゃんが頭を抱える。
「あんだけやって、運営の好感度上昇になっただけなのが何とも言えない気分だわ」
「そういえば、見えないところでいろいろしてた気配はあった気はするけど…なにしたのよチカちゃんは」
このタイミングがないと聞きにくかったので、出来れば掘り下げたい疑念。
「言っちまえば、リストの件は相当頑張ったぜ?」
「あれミカさんじゃないの!?」
「ミカ…さん、が、あんなのに積極的になるわきゃない、っつっても、そこまでいろいろは知らんか、ゆめっちからしたら」
「…そりゃまぁ、夏休みの一カ月ちょっとだけが本番でしたから」
「あれはねぇ、ゆめっちからしたら、ルシテアとオージンが懸命にうちのギルド説得して作ったやつだよ、私がきっかけではあったけど」
「な!?」
そうえば、言ってたなぁ。
いつもののギルドの正体の話も、私が忙しかったから細かく聞けないときに。
思いがけないところに、そんな助けられてたんだ…?
「あれ自体は、内部データにあって紐付けされてないレアアイテムってだけだから、そのうち実装されるだろう物品たちだからね」
「一つを除いて・・・」
「それが実装されたら、裏でバカ高く売ってるのがパーになるわけだから、早めに広めてもっと売りさばいてしまえって意見は前からあったんだよ、テーブルゼロ武器類」
「もう、言ってることが一から十まで怖いんだよね」
お前らのギルドのやってること、一線のギリギリ手前ってレベルじゃねえぞ。
「そこを汲んで、大型アプデでもう間がないから情報ばらまいてしまおうと言う流れと、ゆめっちの大炎上をうやむやにしようって空気を混ぜて固めたのがあのリスト」
「そりゃ大変お世話になりました…」
もはや何の迷いもなく土下座である。
心の中まで、この瞬間は本田さんだ。
「ハクヤクはほんとに気に入ってたんだと思うから心配してたんだよ? 次ちゃんと会えたら、しっかり頭下げときな」
「ルシテアさんは、そうでなくても最初から頭上がんないよ」
正直言ってちょっと淡い恋心すら持ち上がっておかしくないくらいは、優しくて好感度高かったんだよね、ルシテアさん。
いや、とはいえもう一人のキャラでも同じような気持ちになれるかは、正直微妙ではあります。
「でももう本田さんとしては会えないと思うんで、よろしく言っといてください…」
「それで、そっちの本題、聞こうか」
チカちゃんが容赦ないなぁ。
まぁ、裏切りみたいなもんだから仕方ないが。
「……BANされました」
※BAN MMOで言われる用語で、ゲームできなくなる形にアカウントの凍結などをされる運営からの措置。
「ゲイズオブロードスのせいではないはずだよねぇ、一体だから、何が理由なわけなのさ」
白状する。
もうどうしようもない…。
「…で?」
「ゴメンナサイ」
bot。
それは、あちこちで動き回り、単純な行動を行ってアイテムを合付けたりする自動のキャラクターたち。
プレイヤーではあるが、簡単なマクロで弱い敵を殴ったり、メンテで強制的に弾かれるまでアイテム収集などを続けるやつら。
命令によっては、誰かの倒した後のドロップだけを狙って奪うプログラムされたのが出てトラブルになったりする迷惑なPCどもをそう言っていたりする。
「本田さんをbotにしてたわけじゃないんだよな?つまりそのツール…?」
「まぁはい」
あまりに濡れ衣でイライラしていろいろネット巡回している間に、つい見つけてしまったのは…。
いや、自分でbotを使ったり、アイテム取りつくそうとしていたわけではない。
いくらなんでも、イライラしたからってそんなルールを完全破壊するツール使うほどゲームを嫌いになってたわけじゃない。
……のだが。
つい、ネットを深堀して見つけてしまったものが…ありまして。
それは、実験という名目で配られていたもので、そのbotを見つけてクリックすると強制でパーティとして入り込めるというもの。
ゲームの仕様の穴というかバグ利用にちょっと細工をした程度のものだろうが、これがわりとひどい。
説明によるとそれで、botは自動でやってるので経験値が上限キャップ、つまりクエストしないとそこ以上上がらない状態でさらなる手間をかけないのを利用。
そこで上限のまま取得される経験値や金をパーティ分配の設定の穴で総取りできるのだという。
一度botを見つけてクリックすると経験値がひたすら放置でもらえるボーナスタイム。
しかもそこに一つバグがあり、いくらでも複数に加入可能で何人もの経験値を見つければ見つけるだけ、クリックすればするだけ倍々入手可能。
そんな夢のようなことを書いてるサイトを、つい見つけてしまった。
…悪気はなかった。
なかったんだよ?
「………で、使ったんかツール」
「ゴメンナサイ」
本当にすごかった。
貧乏貴族とペアで本気で稼ごうとしても二日で一レベルも上がんなかったのがさ。
寝てる時も起動してるだけで、私は経験値の増加ポーションもフルで使うから数日でレベル98だった。
でも、それは不正であるbotとつるんでるとされるわけで…。
「それでBANか…こればっかりは濡れ衣ですらないから、本当にどうしようもねえなぁ…」
英雄と呼ばれて尊敬すらされるレベルになった今の本田さんがこれは、ちょっと言えない。
試しに、ちょっと本当か確かめたかっただけだったはずなんだけど…。
いや、言い訳か。
本当に返す言葉がないよ。
墓まで確実に持っていきたい。
「本当ならあれよ?ベルテにだって一日デート券あげなきゃいけないくらい心配させてんのよ?」
「えっなんで!?」
色々ななんでが重なっている。
もちろんケダモノの名前がここで出ることにしてもそうだし、チカちゃんなんでそれを呼び捨てなん。
言ったチカちゃん自身も、ちょっと言うの失敗したという顔つきになっている。
どういうことなんだ。
「言うなって言われてた気がするからその…あのリスト広げるために一芝居やって協力してくれたのは、言わないでって言われてんのよ、ベルテから」
「まぁた、チカ、新しい女なの!」
そこには稀ちゃんも食いつくのね。
「……まさか、配信でリストになんにゃそれとか、後で消すけどとか言ったあの話…」
「ああ見てたのね、まさにあそこよ、あれリストの話書き込んだの私」
「お前ら一体どういう…」
あの流れすら計画なのかよ!
あれで、リストに注目する人増えさせて流れ作ったってこと?
いや、あれを言わせたから、広い範囲のあのヘイトつぶしの流れを作れたということ…なのか?
そんなのを手配したの?
ケダモノが?
…細かく聞くのが怖いが、それやってたら本当にケダモノにすら足向けて寝られないのだが。
「まぁベルテは年単位でゲームの中では仲良くしてたけど…それ以外は別になんもナイヨ?」
「チカそんなかおしてほんとかなのー?」
「稀ちゃんは私と意見が同じで今日も頭もいいしかわいいよねえ」
「ぽよぽよと同じはちょっと嫌ぁ…」
「そ、そんなぁ!?」
「……ま、そこは深読みしても、そんなに埃は出ないと思うよ、私自身はベルテに会ったことはないしさぁ」
「…じゃあむしろ私は何なんだよ…」
小声でつい言ってしまう。
「まぁ本気で愛されてるのか…狙われてるのか…」
「やめてガチこわい!」
感謝する気が一瞬でなくなるよ!
「数日いないだけだったはずが、まぁいろいろ、みんなしてたもんだよね…」
「君がやった急なことが一番びっくりなのは、変わんないよ…?」
「びっくりはするけど、アイテム一個拾っただけと全員で努力して周り中おさわがせになったの同一で語るもんかね」
「…ゆめっちは、自分を過小評価と言うかなんて言うか、やったことをどれでもなんとも思わなすぎるとこ、やっぱあるよねえ」
「私にできることで他の人に不可能なんてこと、特にないでしょくらいは思ってるくらいでしょ?そんな不思議なことかな」
「ま、まぁ、いいや…」
諦められた?
いやそれ自体はどうでもいいんだけどさ。
「ともかく、本田さんてキャラは復帰しなさそうなのはよくわかった」
「諦めよう…本田さんは」
ごめんな本田さん。
運営的にも剣を含めてあれはストップが正しいよ、たぶん。
「本田さんはもう忘れよう、この戦いにはついてこれそうにないから、以降は新キャラで頑張ることにしようぜ!」
「「「オマエが言うな!」」」
「……ですよね」
様々な協力も、感謝も、土下座で済まない謝罪案件もある。
それでもさ、ゲームが好きならいつか何とか収束するだろ。
きっとなんか、そっくりさんを運営が出してイベントの主役したりすると思うよ、このままの方向性なら。
ケダモノがその時、アレ偽物だとか言わない限りは、たぶんそれでみんな幸せになると思うよ?
その日を信じて、私は邪魔しない程度の別キャラになってこそこそ生きるのだ。
私自身、そもそも楽しむだけで力とかいらないんだしさ。
それで、そのまま…。
納得するしかないという強制的な積み上がりで、リア友の中ではこの流れは了承され。
私は新しい何かになって、世界をさまようのだ。
あんまりユメミルを見かけても、本田さんをほめるような話は、出来ればしないであげてください。
バレそうになるんで。
そのかわり、みんなと遊んでみたいので、野良にもこれからは絡んでいきたい気はしています。
勇気があればな!
ちなみに、その後、本田さんが周囲の男と言わず女と言わず、際限なく好きだの惚れそうだの言ってたとか、自分が本命だという自己主張の対立だとか、色々発生するのであるが、それは全然別のお話。
ということで、いつかまた、という感じで…。
私たちは今日も『AHO』なことをしています。
最後にきて本田さん落とすだけみたいな話でしたが、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
ベルテや三人組などはさらっと流されましたが、続編ではユメミルが新主人公の師匠ポジになってさらに色々深い交流も…。
たぶんやりません。
構想と展開は考えてはいましたが、PV的にこれ以下が確実に続くだろうというものを書くのはちょっと、辛いです。
ということで、最後にもう一度、本当にありがとうございました。




