余話 彼女は演技をしている。
人生のすべてを演じている。
芸歴=年齢。
私生活も含めたすべてを演じられる生き物。
人はそう言う。
つまりそれは、華やかで楽し気で、すべては嘘と言う言い方もできる。
本音がない人間。
紋多那ベルテは、そういう見方で通されている女性。
外から始まったのか、自分の内から始まったのか。
それはもう思い出せない。
しかし、引き返せるものでもない。
年相応ではない理想的な応対に、それそのものが気に入らないと言う先輩たちもいた。
その一方で、現場のスタッフや演出などからは一切とがめられたことはない。
人付き合いに、正解を見定められないままで、一度は引退したりもした。
親といる時間が増えて褒められる以外は、子役の仕事をしている中で、たとえ天才と言われようとベルテにメリットなどなかったのだ。
多少悩みは抱えようと、理想的な明るい少女、その役は降りなかった。
悩みをぶちまけるより、なんとなくだが、私生活もかつてやっていた役を演じるほうが楽だったのである。
そんな中で。
感情も本音もぶちまけられるタイミングがあった。
それは、自分の立場も顔も経歴も、何も見られることはないネットの中。
無邪気な質問も、イライラも、小馬鹿にしたような嫌われる態度も、何でもできて何でも受け入れられて、何からでも逃げられた。
自分であっても、自分の中で作る何であっても、変わりはしない。
明るく学校で演じる自分と、何でも吸収しようと文字相手にのめりこんでいく自分。
二重人格かと疑われるような全く違う存在を入れ替え続ける。
楽しかった。
特に、相手は同じ年くらいの人たちと、顔も何も出さずに意見を出し合える配信などは。
お気に入りの配信もたくさんできた。
なんなら、使っていない子役時代の収入で欲しいものを投げつけて驚かせるくらいは普通にやった。
だいたい怖がられるのだけど。
……が。
幸せで充実した時間は続かないものだ。
ひそかに、一番お気に入りだった配信がいきなり消えた。
名前と配信のアドレスまでばっちり覚えているのに、チャンネルごと消えた。
ネットから、そもそもの存在ごと、知ってる人が消えている。
初めての経験なので、それはショックだった。
初めて親に異常を気取られるくらいに、態度に出た。
明るい家庭と理想的な親、理想的な子供の関係を演出できないことに気が病んだ。
しかし…。
それでよかった。
子供だから甘えていい。
子供だから頼っていい。
その時に初めて知ったことは多い。
そんな話を含め、ベルテは、その時のお気に入りの配信の人に感謝を忘れることができなかった。
さて。
そこからは、ベルテと言う存在のベクトルが変わる。
甘えていい、頼っていい、使っていい。
失わない、失わせない、欲望は人間にとって、出さずに引っ込めておくべきではない。
どうにも、人間というものは、弱みや歪み、欲というものを見せるほうが安心する。
そして楽しませる意味での人を寄せ付けるウケがいい。
理想は理想で褒められるが、しっかり自分は違うと異物アピールするほうが場所によっては好感を得られる。
空気読み次第だが、これで死角を消すこともできる。
これらの体感を体得した。
こうして、芸能に復帰したベルテ。
親が引き取ってしまった老朽化が過ぎた建物付きの土地を生かすため、押し付けられたビルの解体を自身のアピールに使おうと事務所に企画を出したり、派手すぎる動きを始める。
インパクト重視。
もっともっと貪欲に。
食べられるものは何でも食べる。
それをモットーにする若手の劇物、紋多那ベルテ。
前よりさらに、自分と言うものを虚像で固めた気はするが、もう気にしない。
それがベルテというキャラクターなのだ。
しかし、あまりに貪欲なので、JC相手の恋仲騒ぎで迷惑をかけることも少なくなく…。
男性相手に共演NG枠を多く作られる羽目にもなる。
親御さんが海外出身ぞろいで見た目はすでに大人で構わないくらいではあるが、それで通せない問題はあるのだ。
そうなると相手は…。
「あらあら、新人さんなのね、緊張してる顔もすごい美人さん!」
「……は、はじめまして!」
「大丈夫、オーディションの時に全員分見てたから、だいたい知ってる」
「て、テレビでよく見てます! お会いできて…!」
ベルテは必ず、まず手を取る。
初対面に対しては、ほぼ儀式にも似た様相だ。
誰も彼も年上だが、だいたい大御所と言える人たち以外は変わらない。
なぜなら、事務所が出している芸歴でベルテを上回っている人間など、ごくごく少数なのだから。
「私の印象、どう? 今と比べていい感じ?」
「と! ……とっても、かわいくて、すてきだと思います」
「うれしいわぁ、じゃあ…歓迎会したりしようかしら?」
「始まった…」
周囲から、ちょっとピリッとした反応が来る。
「………私の家で二人きりで」
「えええっ!?」
ことあるごとに、自分のマンションに人を呼び込みたがる。
しかも大人数はだいたい事前お断りだったりする。
周辺では有名で、食欲のベルテなる陰口まで存在するとか。
……実際にやることやってたら、もれなく同意であっても犯罪であろうことなので、どこも口を開かない話ではあるが。
成人後は一体どうなるものか。
今から周囲の恐れるところでは、ある。
こんなベルテではあるが。
こう振り切れたのは、理由がある。
目標もある。
一つは、今の恩人に恩返しをしっかりしたい。
具体的には、今の事務所の社長に。
仕事の経歴は輝かしいし、親身になってくれた感謝もあるし、今の立場になったのは業界を諦めるひとを減らしたいという純粋な優しさという気持ちを支えたい。
しかし…今の社長、彼女には絶望的に商才がない。
切り込みしていく事務所間のやり取りは、ほぼベルテ。
投資を決めるのはベルテ。
新業態の企画提出を各所に出しているのはベルテ。
名前を借りてやるには、あまりに多くを動かしまくっている。
動き出した後に丸投げしても維持してくれる管理職はいるので、こんなでも何とかなってはいるが。
そうしてしっかり収入もいただき、ベルテはもう一つの目標を突き進む。
それは、投資。
社長の恩返し部分からはみ出した分も使いながら、大株主を目指して買いあさる。
どこの?
それは、ネット配信系の某社。
その昔、いろいろな影響を受けたある人が配信していた場所。
恩があるから、とか、人情にかかる話ではない。
そこそこの株主として名前が認識されるようになって、そのうえで、偶然のようにそこの仕事がいくつか転がり込んでくれるだけでもいい。
コネが作れるか、内部に一度触れる機会があればいい。
買い続けて社内に知人を送り込めるまで待ってもいい。
データサーバを一度弄れればいい。
過去のデータは基本、日本の会社は軒並み残しているものだ。
知っている配信、知っているアドレス。
その一つだけを、何らかの伝手でデータベースから拾い上げたい。
それができたら、あとは有望な市場に乗り換えてもいい。
欲しいものは一つ。
消えてしまった思い出をもう一度手にすることと。
そして、その原因になった、見ることのできなかった最後の「事件」が見たい。
消したアカウントの情報も、その時書き込んでいたやつらのIPや登録情報も見たい。
噂でしか今は知ることができないが、ずいぶん追い詰めてくれたらしいじゃないか。
それらを知るために、それを抜き取るための金のために、復帰してやってきた。
それが、今のベルテの主目的となってした。
なので、身の回りは固めるし、どん欲だし、事務所は大きくするために私物化に近い事すらする。
そうして。
「やっと……見つけられたよ、『カスミのユメミガch.』さん」
あの時の配信者。
もはや、会員登録情報から取れてるから配信内容で確認するようなものもない。
でも、思い出して昔を思い出せるものは手にしている事実だけでもたまらない。
思い出すと涙すら出る。
そして、愛おしくすらある。
既にそれは、数年ぶりに恋した人を見つけたよう。
その気持ちをかみしめながら、新しいプランとして出した、ライバー育成プラン方針。
声で仕事したり演技ができる人を集めているのだから、劇団などとは別の商売も目指していいだろうという案。
単純に感極まって、あの人のやったことを別の建前を作って似たようにやってみたかった、という話でもあり、存在のすべてを仮のものとして発散できる場所として自分に必要だと感じたのもある。
軌道に乗るまでは自分だけで通してみたが、トラブルなどはなく進められそう。
親身になってくれる知り合いもできた。
「いやあ、チカちゃんは色んな期待にしっかり応えてくれる便利屋さんみたいニャ↑~!」
「……それいい意味じゃねえよ、ベル……」
「まぁまぁまぁ、今はセイノじゃなくてもいいニャよ?」
「そのうち、リア友も紹介するけど、ただの高校生同士って間柄のほうがいいよね?」
「……そもそも、どうしてわっち、チカちゃんに中身知られたニャだったかニャ…」
「声真似じゃなかったら一人しかいねえだろって間柄が暗黙の了解だったとしかいえんよ」
「でしたニャ~」
第一発見者くらいのタイミングで出会って以来、チカとベルテは気が合う存在だった。
どっちも小手先のいたずらが好きで、それに気が付いて反応しあえる、いわば視点の近さはとても貴重であった。
そこから、弄りやすい小石ちゃん、やたら動じないオージンとルシテア、ギルドの知り合いなどなど…という存在を経て。
(チカさんのリア友ねえ…)
話として知っていても、いささか不安はあった。
その姿を見るまでは。
本人をモデルにして、似せるように自分が作ったと予告されてはいたが「これが現実に!?」という衝撃を味わう。
初恋の人との再会を不意に見たかのような衝撃。
そこから、動揺を抑えられず…。
二度三度引っ込んで、誰かとの会話中に、こそっと入っていったのも、なかなか勇気のいること。
かつて、頼み込んで非常用にゲットしたチカの電話番号に質問を投げつつ、悪いと思いながら電話番号から個人特定の依頼と交友関係調査をスタート。
「……本当に…あの人と一緒だったんだ…私…」
朝霞夢。
探していたあの配信の登録アカウントと同じ名前を見つけた時、運命すら感じた。
「いやぁ本田さんがね、好きな人の荷物をどうしても取り返したいって頼むから…」
「ニャ!? それって!?」
相思相愛じゃないですかニャ!?
もう、言いたくてたまらなかった。
その名前を知ってから二日も経ってないのに、ずっと追いかけようとしていた人が好意を持ってくれているとは。
もう、これはモノにするしかないんじゃないか!?
前のめりしかできない感情が溜まっていく。
でも、そんなにずっと引きずっていたとは、さすがに言うのは気恥ずかしい。
さて、それでは、彼女を前から知っていた理由は、どうやんわりとしたものにしたものか…。
紋多那ベルテ。
相変わらず、彼女は嘘で出来ている。
評価を入れてくれた方が一人いらっしゃったり、思うより読んでくれた人がいたようで、ありがとうございます。
ということで、一つ、某所では考えただけで踏みとどまっていた外側の話を投稿してみました。
某所では、区切りはつけたいけど早く終わらせたいとだいぶ端折った部分の一つです。
では残り2話とエピローグ話くらいですが、お付き合いいただけると幸いです。




