本音
「とりあえず、どこまでも気に入らないって言うなら、かまわないから殴ってきたらいい」
いくつかアイテムをポイ捨てして、インベントリに空きを作って鎧をポイと脱ぐ。
「やれるならやっていいってだけで、反撃しないってわけじゃないからね」
多少のハンデは見せるようにするならこうだろう、というわかりやすさを選んだが、しょっぱなにやることではないよな。
脱ぐのが趣味とか、そう思われないだろうかと少しだけ心配ではあります。
当然、正直に切りかかってくるのも数人いるが…残念だ。
満足してくれているならいいが、一撃で死んでるからには、そうは思っていないだろうなぁ。
「……ま、いま、同じような立場じゃないって言うならそうかもしれんよ、あんたらは掲示板でさらし者になって、何千人にぶっ叩かれたりしてないもん」
「そんなん知らねえよ!」
「同じって思いたいならそのへん含めてだろうって!」
こっちだって言いたいことはあるのよ?
「私は自分は運が悪いと思いながら、まぁひどい目にあったりしたけど、仲間としてはいい人と出会ったりいろいろあったさ」
「だから何だって…」
「でもね、君ら、私らと出会ったときは、私も不条理一つなかったら、みんなみたいにポーション渡して内職して満足してたって、本気で思ったよ」
こいつらの装備を見ればわかる、皆、上級職すら一人もいない。
上級になれば、装備一つとっても、同じ装備でも装飾や襟、袖のあたりが追加で細かくなるもんだ。
「そうとしても、お前らはいい思いしてるよ…私は同期になるような、一緒の初心者語りできる友達、まったく今も、いねえもん」
本音言うと、ちょっと寂しい気持ちがあった。
「上級のダンジョン経験して、称号でニコニコした後は同期で初めての初期ダンジョン攻めて全然思い通りにならないで、苦労したりさあ…順番に難易度上げたり楽しいだろうな、一緒に成長する仲間ってさ」
さすがに、もう言葉もかけず殴るのはいない。
後ろに控えてる、非戦闘員も、割と黙って見ている。
そっちにこいつらが一目散に行ったら、そりゃもう容赦なく蹴散らしてたろう。
やはり『私たち』は甘い。
「私は、みんなから見てどう見えてるのかわかんねえけどさ、私は正直、逃げないように縛られて担ぎ上げられて、しんどい気持ちだってあるし、同じじゃないならだいぶそっちのほうが幸福度高いぜえ」
「こっちのこと知らないで言ってるだけじゃないか!」
「そっちだっていい思いはしてるだろ!」
「適当なことばっかり言って!」
割と適当なことは、いってるよ。
「そうやって、お互いのことを言い合っていくのが楽しいんだろうが?」
「これが楽しいのかあんた!」
「ばかにして!」
「残念だけど、私のレベルじゃ結構楽しいんだよ今!」
たぶん、変だろうけど他人のPC見てて一番感情移入したいの君らなんだから、楽しいんだ。
残念だけどさ。
「でも、みんなでさぁ、今の自分ら見てみろよ!」
やっと言いたいことが言える。
「お前らさ、ここに来いって言われたのが命令なのか頼みなのか知らないけど、兵隊として使われるのに何か貰ったかね!?」
「それが何かに関係ある話かよ!」
「手持ちで来て、私や私の近くの、ある程度戦力あるとわかってるのにぶち当てる、それな、捨て駒って言うんだよ!」
「……そんなの…」
武器も装備も、本当にドロップアイテムで何とか揃えました程度の奴。
微笑ましいというか、段階を踏まえて色々試せることに、むしろヨダレが出るのよね、こっちは。
それはそれとして、相手ギルドも、何かの武器くらいは仕立ててあげればいいのにと。
レベル差がある人用の特殊な効果の一つくらい、たぶんあるだろう?
そこも踏まえて…。
本当に、扱い酷くなってたもんだなぁ。
私も初心者期間終わったし、彼らの中にもそれは多い、という想像はつく。
それが切れたら、あとはポーション取れないんで活躍したら優遇してやると無理難題でその気にさせて捨て駒にしてやる。
もしかすると違うかもしれないが、そんなところじゃなかろうか。
もう置いておくメリット無いから捨てるというのにも、それなりに理由は必要だからそれをセットしているが、そこにまず気が付かなくて真面目にやっている皆様…。
なんとも情けない私たち。
全力で当たって清々しい気持ちにしてやれない私も、ともすれば十分情けない。
殴りあって笑える友情みたいなの、私には全くわからんので、そこは心底すまん。
「そこ、皆なりに理解できそうかい?」
「そうだとは別に決まってないだろ!」
「絶対違うと思ってるなら、侮辱すんなって殴り掛かるところだろ?」
返答はするが、相変わらず動かない。
「私にごめんなさいとか言う必要も、考える必要もないけどね、だいたい状況が言ってる通りだなと思ったら、商人連合たちの元本陣のあたりに行って、最後までのんびりしとけ、みんな」
「…なにいってんの」
「あの、それ敵じゃないんですか!? いちおう、その、お知り合いだとは思ってみてますが」
「…残念だけど、ちょっと話したことがある程度で、私が妙に入れ込んでるだけなんだよ」
後ろからも、とうとう突っ込みが入る。
「前も言ったけど、言ったはずだけど…あのポーション人数分の個数だけでも恩になる分は十分返せてるよ…あれがいくらで取引されてるか知ってたら、私の言い分だって、ちょっとはわかるはずさ」
値段で動いてほしいって話ではなく、そんな価値を求めて囲ってたと言う事実と、それを得ていた際限ない欲望の根源を冷静に見て判断してねって話だからね?
一応だけど、言っとくね?
「このフィールドがバトロワ形式ならさ、生き残ったら勝ちなんだし、後に残ればそれだけで有利ってもんよ……だから最後のほうまで生きてな」
「そっちの団体さん、腐ってもオルアラ側の人じゃないんですか!?」
「私が死んだらどっちみち終わりだし、私は全員束になってもこいつらにはやられん、てことで勘弁してよ…このハンデ戦だって傷ついてないっしょ?」
この言い方だと、自分の価値だいぶ過剰に見積もって鼻伸ばしてる人だな。
しかも、私の軍隊って言ってるようなもんだし。
傲慢。
私の周囲からの見た目、これで文句が出なかったらだいぶ傲慢な人って見られてる。
「そんなにおっしゃられるんでしたら」
通っちゃったよ。
「むこう、倒れてるけどアイドルのライバーとかいるから、なんなら探してかまって差し上げといてよ」
我ながらすっごい適当なフォロー…。
「…まぁ、それじゃ、ラストまで生き残れるなら…それでいいですよ」
何人か、それなりにごちゃごちゃ言ってはいるが、おおよそ、私の意見は飲むようだ。
少しすると、移動が始まった。
こっちの集団に不意打ちする様子は…いまのとこ、ない。
「あの、ユメージさん!」
「えっなに!?」
多少、にらみを利かせるように立っていたら、いきなり集団の人から大声で呼ばれてビビり散らかす。
「右側にいった人、やられてます!」
……しまった、やらかした。
自分に浸ってたら、こっちが捨て駒、陽動とわかってて、あっちの戦力見るの忘れてた!
「案内!」
「はい!」
見送りもそこそこに、やばい空気を感じてなだれ込む。
「…ちょっと、姫!?」
こっちが本体なのは言うまでもないのだろうが、めちゃめちゃ人死んでる。
余裕かまして初心者相手にしてる場合じゃなかったぁ!
耳打ちくらいしてよ、誰か。
「よめぇ↑~!」
「オマエがむしろ生きてんのか!」
「服着て!服!」
「…あ!ごめん!」
趣味でやってんじゃないからね!
そうだよ、私あんなに真剣に語り場して真面目なこと言ってたのに全裸でやってたのかよ!?
…馬鹿だなあ、こいつ。
とはいえ、囮使った本体としても、それほどこっちも馬鹿強くはない。
ためる、人殺しで一撃にはできるくらい…だから、こいつらも同じ感じの捨て駒枠か。
だとすると、こっちの編成が最悪だったってことか?
回復にガンナーまでいるだろうって安心してた。
「あーもう、死なせてるほうも、キャラちゃんに姫にノネもごめんなぁ!」
入り混じって、もはや運んできた非戦闘員勢もどれだけ死んでるかわからん。
そこに…。
「おやおや、初心者ちゃん、いいところにいるじゃん、とりあえず倒せたら俺嬉しいから、また死んでくんないかな」
いやな言い方!
敵対したなら、いつかはそりゃ、会うんだけど。
同時に、なんかの攻撃スキルを一斉に受ける。
オーブ全開に取り付けているステだから死なないものの、ポーション切れてたら諦めてるザックリのダメージ。
「捨てていいの二つ置いて、ここからがようやく敵の本体か…そこに切り込みで入ってきてるのが…」
「僕だよねえ、大将が弱くて助かるよ、また島貰っちゃえるからさぁ」
ケダモノじゃ勝てない。
となると、一人でやるのか…。
あの時に追いはぎされたノーニさん、そして、今のスキルで周囲の本隊纏めてるの、オオイさんなの、ちらっと見えたぞ。
オルアラさんの本ギルドのメンバーだ、間違いない。
「ケダモノ、こっちに割って入らなくていい!」
「な、なんでニャ!?」
「絶対何か隠してるから保険になってな!」
「合点ニャ!」
「あと、個人的な恨みがあるから、この人とはこのまま…やらしといてね」
「…め、珍しいこと言うニャね」
「あらあら、結構根に持ってんだ?」
「ミカさんの装備間髪入れず公式掲示板に売却申請入れてりゃ、それなりに反感は買うのよ!」
「ぇー…いいじゃんかねえ」
まったくまぁ。
「……それじゃあ、僕たちの助けも、要らないですか?」
「はぁ?いいとこで、横から何言ってんのォ?」
不意な方向からの声。
「えーと…君らを参加させないように、って、わざわざ演説したようなもんなのに、なんでここで来るのかな?」
もはや目すら私は向けない。
言ったとおり、最初からずっと嫌いだよ。
「ユメージさんは、少なくともそこそこにファンがいるようですからね」
「そこそことは失礼ニャ!」
「…物好きは、うんざりなんだけどなぁ」
オルアラの本隊と私の間に割って入ってきたのは、嫌いだからと間接的に名指しした、自警団の皆さん。
にこやかに出てきたのは、ギトくんだった。
ケダモノ経由で配信を向こうもチェックしてたのだろうか、しっかり移動する隊を守る布陣も、何も言わずとも敷かれている。
戦い慣れしてると違うね、PKKの経験ある皆さんは。
「我々は、勝手にしますからご遠慮なく」
「あらあら、そこまで気を使われると惚れそうになるわね」
人殺しを付けたリーダーさんにひたすら皮肉を言ったつもりだったが。
なんか歓声が上がった。
…なんで?
なんでなん?
この人たちのノリ、やっぱついていけないよ、私。
余話として付け足すもの以外では、あと5話ほどで終わる予定です
お付き合いいただけると幸いです




