バカが遊びにやってきた
思えばかわいそうなもんだ。
取り合えずストーリーのボスとしてイベントに出たにもかかわらず、前座以前に本番の足かせとして文字通り処理されるボス。
まともにやれば強いのだろうけど、本番のために回復を万端に整えたいので削るだけ削って残しておくありさま。
悲しい以外に何が言えるものか。
でもまぁ、もう必要ないことだけは私としても変わらない。
サクッと倒そう。
そしてやってきた、対人バトロワのステージ。
オルアラ勢が上、商人組合が下側の陣取りなのも決まっているらしく、移動選択で場所を選ぶ。
もう一つ二つ、戦闘系ギルドで独自戦力の団体はあるが、この取り決めで一番と言えてないで挟み撃ちの状況に妥協するとなると、立場は強くない部類なのだろう。
これに、参加猶予時間として30分くらい待ち時間があるようで、これを終えると出入り不能な対人戦開始、となるらしい。
全部の団体、ルールを守ってボスを同時撃破。
そして集合を整えているようで、秩序正しい殺し合いでほっこりするような気すらする。
「ぽよぽよ、ずっと待ってればいいの?」
「姫は大事だからね、このままここにいたほうがいいかもしれないね」
「夢……えじ、さんはここに座ってないのですか?」
「私は端っこの方から遊撃隊で切り崩しに動いてくよ」
「……大将さん…ですよね…?」
姫とノネが不思議そうに見ている。
だがまあ、死なない自信があるのと、一緒に遊ぶと言った以上後ろにも居づらい。
優先して前線にいるほうが私らしいと言う判断はミカさんもわかってるらしい。
「ギルドが残ってればミスしても私に管理権来るから、ばっちり姫の警護お願いねぇ」
「わ、わかりました」
リア友であるこの二人。
向こうの陣営に行くかと思ったが、チカの要望もあって私のサポートという形に落ち着いたらしい。
むこうに付いても、忙しくてかまってる暇が今回はないから、他でまとまったほうがいいと言う話で。
そんなわけで、私は「クラス↑アップ↑メイト」というギルドを作り、即席で二人を入れてリーダーになった。
……それを聞いて、即、いつものを抜けてクラスメイト以外の枠に入り込んでる奴が一人いるのだが…。
ついでで、あの時だけ入ってきた二人も入れてるから、ほぼ半数がすでにクラスメイトじゃねえ。
企画倒れである。
「妻の警護は完璧にするので、まっかせてほしいニャ↑~!」
「アテクシも、今回ばかりは最高の活躍して差し上げますわぁ!ホホホホホホ!」
「自分のレベル見て言えよな」
対人すらまともに経験してないわ真面目に戦おうとしてる人相手にはレベル差あるわ。
付いてくる気らしいが、どう考えてもにぎやかし役以上にはならない。
……ま、気軽に盾にしても気に病むことがないだけありがたいか。
それくらいの考えで取り合えず突撃。
数で言えば生産職連合が一応上らしいが、戦闘メインの人員じゃないからねぇ…。
しかも私が要らんこと言ってちょっと返してたりもするし。
…これは意図的だからしょうがないか。
そして、開始のログの直後。
「お邪魔するよー」
「え!?演説やってたやつ!?」
「範囲化!スキルエンハンス!!人殺し!!」
ぼくのかんがえた、対人で一番効果ありそうな組み合わせである。
範囲スキルに変更して自己バフ上乗せして、PCに上乗せ効果がある人殺しから叩き込む。
やっぱり名前変えてほしいなぁ…マンイーターの付与スキルオーブの名称、人殺し。
まず第三勢力相当に当たる、中間位置に陣取ってた人たちに私が突っ込む。
二つの陣営に直接挟まる位置ではなく、うちから向かってだいぶ左側だったのだが、これが丸ごと商人連合の真横にくる移動をすると厄介そうなので位置確認を兼ねてつぶす。
「大将自らとは、うちも見込まれたもんだな」
「オルアラと対決しに行くのに目を奪われるのが多くて、不意の犠牲が横から増えたらかわいそうだからねえ」
「今からでも味方に付くって言っていいニャよ↑~」
「そんな返事よりも『楽しみたい』のだろう?」
漁夫を狙いに来たどこかのギルドマスターじゃないかな、と思った。
意外に気が合いそうに思ったが、横に別のギルドが動いているのも見える。
これに長く時間かけることはできない。
「スキモンそうじゃないの、つまり一騎打ちしたいんだよねえ?」
「軍団の大将を仕留められるとは、ずいぶん運が回ってきたもんだと思いますよ」
「じゃ、行きますか」
数人、攻撃をやめて輪を作るように立っているのは、同じギルドの子だな?
礼儀正しさに敬意を表して、こちらも剣を抜いてエモートしてあげる。
が。
そんな隙に起こる爆発。
「ひ、卑怯…もの…!」
「……うちの嫁に傷つけようとしてるのを黙ってみてると思うニャよ?」
「ごめんあそばせ、アテクシこういう仕事をしておりますので」
「ぶち壊しだよ!!!?」
リングまで作ってもらったのに、うちの方の二人が全力で後ろから殴りおった。
もうめちゃくちゃである。
そこから複数の個別ギルドがわって入って、かたき討ちと観客と金星狙いが大乱闘である。
そいつら同士でもダメージが入っているらしく、まぁ正しく阿鼻叫喚だった。
「…そっか、陣営で勝手にシステムが判定してくれるわけじゃないから、パーティ以外はほとんどすべて攻撃は入っちゃうんだ…」
『ミカさーん、開始からの情勢はどう?』
『おおむね静かな動き出しだよねえ、相手が交戦から不自然なくらい下がっていってるからラインがまだ決まってないね』
『了解でーす』
横に挨拶に行ってる間に大ごとになってはいないらしい。
「こんな状況で芋ってんじゃねーぞオラァ範囲化メンタルブレイク!」
散って様子見していたり、倒せる分はなるべく仕留める。
「わるいごはいねがぁー!」
「いたら出てくるニャ↑~!」
可能な限り陣取り、こっちの方向に来ないようけん制したら、次は向かって右に移動し、不意打ちかましながら攻撃が激化したころオルアラさんの軍団に切り込む姿勢。
粘れるうちは、彼ら自身の戦力でやってもらうつもりだ。
……だったが。
「いやぁ、見ましたよ?ネットであの演説のリアルタイムを」
「あらあらありがとー、まぁね、味方には気の毒な言いたい放題しちゃったけど」
「何か仕掛けがあると思ってたら、あんなん笑いますよねえ」
「だろお?」
わりと、敵ではあるが楽しくしゃべりながら切りあったりしている空間もある。
ゆるい。
それができるのは、同行の二人と、それ以外にもちょっと増えた何人かが脇で戦っているおかげなのだが。
…意外と強いよな。
実は、見てない間にトレーニングでもしてたのか?
特に貧乏貴族。
「それじゃ、今度はちゃんとパーティ組んで遊ぼうぜえ」
「やれるといいっすねぇ」
そういって、会話してた彼は笑いながら倒れた。
これだけ楽しめてたら、味方に付けと言っておけばよかったか。
意外と犠牲は少なく、フリーのギルドとのぶつかりは優勢気味に進行。
奥のほうは、動かないでこっちの共倒れを狙うのもいそうだが、それはそれでいい。
要は、こっちの優劣がわかるまでは監視してればいいだけだから。
「何分くらいやった?」
「三十分も経ってないですわよ」
「体感五分くらいなんだけどな」
「楽しいんニャねぇ」
まぁな。
ちょっと回復の確認もしようかと、物陰で落ち着こうとする。
そこに。
「なんですの!?」
「ここらへん、だいたい狩ったと思ってたにゃ」
悲鳴だ。
周囲を見ると、私と一緒に何の気もなくついてきた人たちの数人が倒れている。
知らん人も、倒れている。
隠れてこっちを狙っているのがいたのか。
いや、それにしても、そんな急に増えるような…。
「…こんな不用心に出歩いてるなら、もう戦いの勝敗は、付いたのであるなぁ」
「げ…」
見たくない、すごい目立つのが、そこにいた。
太刀。
オルアラ本体のギルドメンバー…いや、オルアラの中心人物のひとり。
元ゲーマーとかいう、会いたくなかった奴である。




