ギルド初仕事は恋愛相談?
「新人だからと言うワケではないけど、相談あるの本田さん」
「新人って何だろう……あと本田では…」
すっかり同盟の仲間って感じに扱われている初対面の翌日の午後。
インしているのは目の前の小石ちゃんだけ。
ああ、彼女の名は小石アイテイル。
昨日お世話になっていたギルドの、回復担当だ。
回復担当の天使。
悪い人であるはずはない。
それが狙ったのか偶然なのか、待っていたのか…。
いきなりほぼ初対面の女子に、相談を持ち掛けられている。
「私ね、マジ好きなんだ…」
「誰のことかを本気で?」
「マジ!マジくん!です!一緒に組んだでしょ!」
ああ、名前か。
「マジボルケーノ…って名前なんだけどさ、2年になるくらいギルドで一緒でさ、浅く長く付き合ってるつもりなんだけどさ」
「さがおおいね…」
「本音で言うとゲーム内でいいから結婚したいくらい好き!」
「かなりマジだね…」
初対面から日にちも経っていないのに、よくこんなに心の内を明かしてくれるものだ。
それがこのヒトの付き合い方なのだろうか…。
「でも彼はかなりこれにどっぷりでさ、ずっといて頼もしいんだけど…知らない時間のほうがずっと多いしさ…」
「なかなか距離を縮めるタイミングが巡ってこないと…」
「私も頻度をかなりあげて、最近がんばってるのよね!」
ただの身の上話を聞かせたいだけなのだろうか。
とも思ったが、それにしたってそれはギルマスとか、よほど信頼してる人にやる物だろう、普通。
熱の入りが、その…。
「誰かと急に結婚とか言われたら、私、折れるしさ…さすがにさ……」
「そりゃ、長年の思いだと、折れるね…」
「そう思ったら、協力してくれたりする?」
ざざっと。
向きなおって、本気だよと態度でアピールするこの流れ。
それは、断れないわねえ。
「そりゃするよ!」
「やった!!」
ここで本田さん、気づく。
やったの言葉で気付く。
この小石さんのやった、は、仲間ができたことに対してではない。
ライバル減らしてやったぜ、の、やった!だ。
「マジくんがあんなに異性に興味あったんだってくらい、本田さんたびたびチラチラ…みるじゃないさ」
しらねえ。
それはしらねえ。
そんなにたびたび、狩りの最中も見てたの?
絶対それわたしのお……いやまあ、お胸のほうだよねぇ。
…………。
だからか。
彼が私に興味ありげに見えて、そうなって急接近しないよう、手を打ったか。
計画的だね…小石さん…。
私自身は興味ない話だから、頑張れとしか言えんが。
「……で、本田さん、もう友人だと見込んでお願いがあるんだけどさ」
「話の展開はや!?」
ほらきた、くらいのものとはいえ。
ライバルか疑う感じからの即友人の距離感の調整凄いね。
見習いたい。
そんなこんなで、凄い量のお願いを叩き込まれるわけだが……。
これを聞いてみて欲しい。
このくらいの距離がいい。
誰か親しい人の話があれば聞きたい。
タイプとか、私からは聞けない。
あれを聞き出してほしい。
こっちのことどう思ってるか、どうしても聞きたい。
正直色目使わないで欲しい。
etcetc。
正直、話し過ぎ。
横取りを狙うライバルだったら敵対していたのだろう。
しかし、それでないと確約できたのなら、大丈夫。
それ相応に仲良くなって、自分が出来ないことを羅列して叩き込む!
最近の女子は恐ろしい…。
これが最近の若いトレンドなのかい?
私は頭の中で、早くも疲れていた…。
のち。
「おそらく」彼女の退出からほどなくして、件のマジくんが入ってきて、ちょっとジョブ稼ぎにと言う運びになった。
マジ君は何気ないが、こっちとしては小石ちゃんが生活周期まで把握している雰囲気に、会った瞬間から冷や汗ものである。
そんなにガチなら早く告白して。
そんな私の気持ちを知らず、遊びという名の狩りは、進行していくのである。