ゲーム初日だった日の夢
本田さんは今日もふて寝しています。
朝霞さんの回想を、もうちょっと見てやってください。
「なんじゃこれは…」
「なんじゃって、キミだが」
「いや、それはそうとして…」
チュートリアルエリアは主観視点のみで自分の姿を見る機会がないまま突破したんで…。
ボタン説明などを知ったうえで待ち合わせし、たどり着いたあたりで初めて見る、自分の姿。
…やたら私に似せてない?
「いやぁ、いいねえ異世界転生の気分だね!」
「…転生しても私は栄養状態関係なくこの胸のままなんだ…」
「わかりやすいだろ?」
「人を胸だけしか目立つところないみたいに言わないでくれますか!」
このあたり、マイクからの文字書き出し、それの即時人工音声出力という無駄な手間の技術で相手に伝わっているらしい。
それがデフォで、文字の入力だけをするのもマイクまんま出力もできる。
プライバシー的な何かからすると、これが一番無難なのだろう。
女が中身だからって付きまとわれたり、周囲の女性がすべて野太い声だったりしても嫌だもんねえ…。
真実より夢、が、ネットの世界観としてはたぶん大事。
賛成です私。
「まぁいいや、それでね、他にも待ち合わせしてるんだけど」
「ほかに何もないと言いたげなはぐらかし方!」
「そんなことぁないぞ、揉ませてくれるし」
「結局それだけかよ!」
それ引っ張らないでと言ってるのに!
ともかく、薄着の私に似た何か…これは変に思われないかが心配。
いや、世の中意外と自分そっくりに作って、リアルとバーチャルの反復横跳びを楽しんでいるのかもしれない。
「おぉ、ここだったか」
「結構久々だよねえ、マリア、さん」
「顔見せには、ちょいちょいいたよ」
男たちが大量に。
どう見ても、即座に殺されそうな怖い装備してんですけど…。
そして、やっぱりみんな人種様々で緑や青の髪して…どう見たってリアル寄せる気はねえな!
わかってたけどな!
「で、そのひとはウチに入れる候補生なんです? それとも飼育です?」
何かしら不穏なこと言われてる気がするのと、そんなに仲がいい感じがしないな。
いや、開けっぴろげに話せる空気は仲がいい証拠なのか?
友人多くないからわかんないや。
「役割きっちりできるか、みんなで見てもらわないと仕方ないでしょ、私にも決定権流石にないよ」
「そりゃそうでしょうねぇ」
「マスターのお気に入りとはいえ、知人いくらでも入れられて身内で固めるようなギルドじゃねえですもんね」
「とにかく、マリアさんのお友達なんだし、他で鳴らしてるんでしょうかね」
マリアって、チカちゃんの名前か…?
後年気がつくことだが、こういうゲームで短いよくある名前って、実はステータスらしい。
名前重複がワールド内で認められてないゲームは多く、要は先着順。
リカなり、ミクなり、アニメキャラの本名なり…。
すぐ出てくるもの、有名なものは取られたら無理なわけで、サービス開始時の取り合いが待っていることも少なくない。
そうでなければ、名前を記号で囲む、よくあるやつだ。
…一部そのほうが有名でとられやすそうなのもあるが。
つまり、このくらい漫画アニメでよく出てわかりやすい名前って、それだけで古参だろうな…になる。
おそらくは、この集まりの中でも。
後から来た待ち合わせの人たちは合計六人いるが、皮肉はあっても真正面から反対はいない。
「とりあえず、太刀とテーシアに手伝ってもらって、彼女に爆速でアイテムマスタリーと商人と錬金見習いのサブ職取ってもらうから、そのあいだに皆で即死城いく装備と編成してもらおうかな」
「ああ、いいね」
「金効率ならあそこ、わりと使えるからな」
即死?
不穏だが、みんな行きたいっぽいから、安全に狩れる実力があるのだろう…。
たぶん。
「というわけで頼むね、テーシア、太刀」
「まぁいつもやってることだし、ぱっぱといきましょ」
「ですな」
「キャラ作成で見た目そんな拘ってるんだし、腕も気合入ってるかもな」
「追い越されたらどうしようね」
ああ、女の人もいたのか。
衣装がパワー系過ぎて性別がかすんでしまう。
そして何人か笑っている和やかさに、その時は安心感すら持っていた。
ちなみに、この時の私は知らない。
この「いつもやってる」が、全容知ると怖い意味になることを。
初心者を最低限育てるのを常にやってるというのは、つまり…。
と、いうことで、最短のマニュアルがあるのだろうという手早さでチュートリアルの職業なし状態からいくつかの職業入手、サブ職設定開放、サブ職複数入手を終わらせ、即死城なるものへというルート決定。
サブ職設定のクエストついでで回っていた不帰の森の湖ダンジョンをRTAよろしくダッシュ攻略。
これを経験値稼ぎと複数のサブ職のためなのか二度やって、数人のNPCに話しかけて合流。
これ以降即死城しかやってないので、ダンジョンは二つしか知らない変な初心者の出来上がりである。
そして、少しやり方を解説したこともあった気がする。
デバフが入場とともに全員強制的にかかり、解除のためのキーアイテムが必要。
ただし限られた数で配分を決めなくてはならず、デバフ全解除すれば次へは進めず、ただ進むだけではアイテム入手のフラグに回せず旨味がない。
そのため、デバフすべて被ったままの要員は強さに関係ないので初心者枠に。
私はキーの提供とステには関わらない固定回復のポーション係として雑務をする。
火力や最低限の回復を、フルメンバー全力でなくても確保できるなら、そういうやり方ができるのだ。
そして、その数日で、ずっとお味噌なのは自覚していた私。
彼らにとっては、私がどう成長するかには興味はなかったろう。
ポーションをうまく投げられると楽になるから、そこを徹底してくれればうれしくはあるが、勢力が欲しいから連れまわしている穂家では確実にない…。
そこを、知らない私。
そこで勘違いをした哀れな私。
きっと、アルケミストくらいが望まれる発展形だったかもしれない。
わたしはそこで、ダメージがえらいことになってるのを見て、皆を守れればもっと役に立つのではないかと。
いや今思うと、どう見ても火力だろって話だが。
そう思い、スキル成長でポーション効果のアイテムマスタリーなどを上げず、可能になった二次職につぎ込む。
しばらくメイン職として使い続けることになる、ガードナイトになったのである。
狩りの終わった、ちょっとした間に。
…思えば。
あのあたり、如実にシテンとハクヤクさん、態度変わった…。
自我出しすぎたのが悪いのか。
望みもしない職を伸ばしてもう味方の戦力として使えないと思われたのか…。
ニコニコでみんなに話していた私。
さぞやむなしく見えたろうか…。
そうした時間を経て、ついに5日目くらい。
特に私には言わず、ギルドメンバーとするにはあまりに居場所がない扱いを受ける空気の私の立場に、マリア…。
つまりチカちゃんが「あいつ抜けるってよ」に近い決断をした、わけだ。
雑談しながら二人で会話する間に、ちょっと設定してほしいことがあるんだと言われ。
長い警告を何度も知らずに解除してPK可能設定を変更し。
さっくりと…やられ、追い出されるような形に。
そこでみんなフレンドリスト解除済ませてるんだから、みんな思い入れはなかったんだろうな。
シテンさん、ノーニさん、テーシアちゃん、オオイさん、ハクヤクさん、太刀さん。
私としては、今でもそれなりに見たくもないという相手じゃないのだ。
仲間として一緒になれるなら、今でも心強い。
会ってさらりと殺していったノーニさんは、ちょっと謝るくらいはしてほしいかな…。
思い出すと、それでも悪いもんじゃなかった。




