ホーンドトール、本田さんになる
「当然とはいえ、一応聞くが、彼女を通したのはルシテアくんなんだね?」
「……ダメだったらいや、このまますぐに帰るんでごめんなさい」
とっさに立つ。
「いやいや、確認だけなので、そのままどうぞ」
偉そうな口ぶりの彼、別に厳しくはなさそう。
「彼はあちこちで気になった人に喋りかけるもの好きで有名なのでね」
「ギルマスの物好きよりは前向きな趣味ですよ?」
「どっちもお気楽ですよね、いつも……」
話がはずんでいる。
そうか、ここってどこかのギルドの作戦室とか、そういうところか。
「……でも……聞いてた範囲のつつましく遊びたい目的にしては、目立つ姿よね…」
近くにいて一緒に話を聞いていた中の一人、女性の人が疑うトーンで口を開く。
ま、すんなりすべて正直に話してると思うのが変なのだ。
真摯に対応して信用を得る方向が吉である。
「職…の関係ではしょうがなくて…」
「……おっぱいとか……」
そっちかーい!
「これはその友人がやったんです! 何がしたいか迷ってる間に見た目をやたら忠実に……」
「忠実に?」
「……ワスレテクダサイ」
リアルに寄せてディフォルメしたのを、開けっぴろげに言って回るのは、なんというか…ネットリテラシー的な何かに、よくないと思います。
「とにかく、私がやってれば完全にデフォのままスタートしてます! 信じてください!」
「…っつったってねぇ……」
総勢で私を見ている視線を感じる。
貴様見ているな!
総勢で、特に胸のあたりを!
「で、お名前もそのご友人が?」
「いえそれはリアル系をちょいちょいもじって自分で」
その辺はまぁ公言していいだろう。
「な、なるほど、ちょいちょい隠していたりすると」
「そんな感じで」
「じゃあ、仲良くなった記念でちょっと借り行こうか本田さん」
「本田さん!?」
ユメージ・オブ・ジ・ホーンドトール。
長いが、ホーンドトールは昔fpsで鳴らしてた頃のエンブレムとして私の外せない思い出だ。
夢、という本名をちょっと入れたつもりなのだが…。
まさかホーンドトールで本田トオルあたりを実名と…?
いやそんなわけは…。
ないよな?
「行きますか本田さん」
「中級者向けの賑やかなとこで遊んでみましょうか本田さん」
「思うまま暴れてみてくださいよ本田さん」
「だれだよ本田さん!」
たまらず叫ぶことになるが、否定してもじゃあ何と突っ込まれるだろうし…難しい。
なので…。
「まぁ、わかりやすいなら…それでいいか」
初手の処世術、その名も…。
あきらめる。
「じゃあ今更ですが自己紹介しますか、まずこれが、ここのギルドの立ち上げをした、オージン=モゲッサ」
「そしてルシテア…は最初にあった時名前くらいは言ってるか」
「はい」
たしかに、耳打ちから出会って、最初に名前は言われた。
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なまえ オージン=モゲッサ
レベル 60
しょくぎょう ウイザード
ちから 19
ちえ 76
きよう 60
すばやさ 37
たいりょく 8
うん 30
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なまえ ルシテア・コーカ・ルクト
レベル 73
しょくぎょう アルケミスト
ちから 10
ちえ 80
きよう 91
すばやさ 27
たいりょく 42
うん 55
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「彼がサブマスだね、そしてイン頻度が極めて高い良き友人のふたり」
「マジです」
「小石アイテイル、だよ」
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なまえ 小石アイテイル
レベル 49
しょくぎょう プリースト
ちから 34
ちえ 50
きよう 40
すばやさ 22
たいりょく 40
うん 39
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なまえ マジボルケーノ
レベル 35
しょくぎょう バーサーカー
ちから 61
ちえ 7
きよう 28
すばやさ 22
たいりょく 30
うん 9
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「メンバーは後四人いるんですが、流石にずっとはいないので、今日は無理ですね」
「まぁまぁ、軽い顔なじみ程度で私はいいんで…」
気を遣ってくれているのは感じて、心地いい。
ただ、なんかギルド入りの顔合わせ前提とか、急いでる感じをされても、ちょっとたまらんと言う感じ、今は。
何より、フリーで彷徨ってみたいんだ。
急な絆に慣れていないのもあるけど。
それも強いと逃げたくなってしまうけど。
なんだかんだ、ちやほやはいい気分。
彼らのことは、好きになれそうではある。
みんなで装備品の新しい一式など、結局えらい数のものもいただいてしまったし。
遊ぶ程度の狩り、たのしゅうございました。
そんなで…。
わりと、心安らかに落ち着いて、遊んで終われた日ではあった。
そこまでが地獄だった割には。