テーブル・ゼロ
伝説がある。
忘れ去られた伝説が。
この世界には開発者が、強大すぎるアイテムの出現率をテストするために作られた、特別なドロップテーブルが存在すると。
それは5000万分の1であるとか、1億8000万分の1であるとか、そんなレベルの確率。
そこに伝説級のアイテムを置き、通常ドロップはすべて存在せず、数年でユーザーがどのくらい手に入れられるかテストした。
そんなドロップテーブルがあると。
そして、それは通常アイテムを落とさないボス敵に実は残されていて、出先が謎のアイテムとして流れていると。
それは、通常何も出ないテーブルであるということを指し。
テーブルゼロとよばれていた。
そんな、開始当初に流れていた伝説。
誰もがないと、すべてタワゴトだと捨てたうわさ話。
ドロップテーブル・ゼロは、そんな伝説。
「なんだろうねぇ、この状況」
超をはるかに超えたようなレアアイテム。
それを誰かが手にした時、世界にあふれるのは称賛一色ではない。
知り合いで、しかも、持っていて当たり前と思われる実力か知名度があれば別だ。
私はそれらはない。
初心者枠ですもの。
どうにも、アイテムが出たあのムービーの時に…。
『ユメージ・オブ・ジ・ホーンドトール さん が 神器 ゲイズ・オブ・ロードス を 入手しました』
そう、ログインしている全員にシステムメッセージで流れたらしい。
緊急メンテのログアウト催促通知とかの、あの枠で。
そんでもって、その3本の神器の1つはかつて、初期イベントの最優秀者に商品として与えられている。
レイジ・ザ・カイゼル。
所持者は、例の悪名高いギルド、オルアラのギルマスに現在着任している。
だからなのも後押しし、イベントでしか出ないものがこんな時期に出るわけがない。
……まぁ、それは当然思われる。
そう私も思う。
なので…。
上から下まで、公式の掲示板も外部の掲示板も、メッセージアプリも、このアイテムはチートで出したの声一色だ。
あの瞬間、テレポートできるアイテムで脱出したはいいものの、それも評判の一因だったんだろうか…。
あれからというもの。
名前は設定で表示しないようにしても、これを持っているのがわかると公然とPCの罵声が止まない。
狩場に行けば自分の真下に何度も範囲魔法かけられて妨害が入ったりするし、休んでいればサマナーのテロが頻発する。
一種、恨みをぶつけられる対象にされているような形だ。
こうなると、誰かと一緒にいることも危うい。
当初、すぐ騒ぎは過ぎ去るだろうと没落貴族のハウジング住宅にかくまってもらう気でいたのだが…。
そういえばあれ、外から声が聞こえるくらい風通しがいいんだよ。
関係者にされて没落貴族まで一緒にヘイト対象になるだけだ。
そんなわけで、今はいる場所もなく使ってない廃屋などに居たりする。
レア狩りで人の多いところに自分から出向くのも、当然今は自殺行為だ。
やれたことといえば、試し切りは一応したのと、対人設定をやっとPKしない設定に変えたこと。
個人的には、この逃避生活と逃げ場探しは、知らない場所を見るという意味で少し楽しかったりはする。
が、他人にひたすら嫌われるのが楽しいという人、そんなに多数派とは思いたくない。
楽しい一瞬を感じた後は、むなしさと悲しさが来る。
すると、どうしても頭をもたげてくる話。
『なんでログインしてんの?』
そうなんだよな…。
問題の元になったアイテムを眺めるためだろうか。
言うほど満足感はないな。
モード変更、解放状態という欄があったりはするが、触っても未実装ですと出るだけ。
本当に、出す予定ないアイテムなんだと見るたび思い知る。
攻撃力は高いが、あまり、これで何でもできるという感はない。
剣らしいので、キミの職では装備できませんと言われないだけまだマシと考えることはできるが…。
これで今までの生活環境ぶちこわされたの?
そう思うと、逆にこれが押し付けられた貧乏神くらいに思って、ことさら沈む。
なにしてんだろうと。
ルール違反な怪しいゲーム内の操作なんてしてないはず、なんだけど…。
それを訴える場も、あったりはしない。
あっても、そこまで人の注目集めにこの状態で行けというのは単純にパスだ。
なら、こんなゲーム…。
………ひどいこと考えたな、今。
それなりに人と知り合って、その人たちは、この状態でも声をかけてくれて優しかったりもするのに…。
だからこそ、打開してなにか…この状態を終わらせて知り合いに被害が出ない策を、常に考えないといけないが。
いけないが…。
あるかなぁ。
伝手が広くあるわけでもない私に、あるかなあ。
相談し続けるのも迷惑だと思うし。
気楽な関係というのが変化するのも、私が一番好ましくない。
だから考えた。
できることを。
やっぱりこれくらいしかないな。
影響がどうとか、周囲がどうとか、策略をこの頭と初心者がすべきではない。
仕方なしで、私は知り合いの少なめの一人に連絡をしてみることにした。
ひとりは、自警団のギトギトくんだ。
そして…。




