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第91話 過去の映像

ルカは息を呑んだ。鏡に映るのは、彼女が体験してきた様々な場面だった。しかし、それだけではない。彼女が知らない、あるいは忘れていた記憶も映っている。時間が歪み、異なる時代の記憶が同時に流れている。


「姉さんと写し世へ行った記憶…」


一つの鏡には、幼いルカとチヨが手を繋ぎ、霧の中を歩く姿が映っていた。別の鏡には、初めての写祓の様子。そして、最も大きな鏡には、十年前の封印の儀式が鮮明に映し出されていた。父が魂写機を構え、震える手で最後の家族写真を撮ろうとしている。母が涙を堪えながらルカを抱きしめている。「現像室の魔方陣は夢写師の記憶を写し世に繋ぐ」というクロミカゲの声が、どこからともなく響く。


「私、あの時…何をしていたの?」


少女時代のルカは、儀式の傍らで何かを握りしめている。両親がルカを抱きかかえ、必死に押さえつけている。幼いルカの口から叫び声が上がる。「お姉ちゃん!行かないで!」


その光景を見て、ルカの胸に激しい痛みが走った。記憶が鮮明に甦り、当時の絶望感が彼女を襲う。幼いころの自分が感じた無力感、喪失感、そして深い悲しみ。両親はチヨを失った後、言葉少なくなり、写真を取ることさえ避けるようになったことも思い出した。膝が震え、彼女はその場にしゃがみこんだ。冷たい恐怖が心に侵入する感覚、写し世の脅威を肌で感じる。しかし、同時にそれは彼女が長年抑え込んできた感情の解放でもあった。痛みと共に、何かが解き放たれていくような感覚。


「あの時、私は…」


「耐えられなかった」クロミカゲが彼女の肩に手を置いた。「だから、記憶を閉ざした。それが、お前を守る唯一の方法だった」


彼の声には、チヨの優しさが入り混じっていた。まるで姉が傍らで囁きかけるような、温かく懐かしい声色。


涙が頬を伝い落ちる。これまで抑圧していた感情が、一気に解放されるような感覚。幼い頃の記憶に秘められた、深い絶望と喪失が彼女を揺さぶる。父がカメラを箱に閉まい、母が写真のアルバムを閉じて泣いていた日の記憶。そして両親を失った後、ただ一人写真館を守り続けた孤独な日々。影向稲荷の札を手に持つと現像室の光が安定する感覚があった。


「あの時計…」

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