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第87話 未来への旅立ち

儀式が終わり、光が消えた。奥宮の中は月明かりだけになり、九枚の鏡には新たな映像が映っていた。それはルカとクロミカゲ、そして周囲の人々の未来の姿だった。写真館での日々、共に過ごす時間、そして微笑む人々の姿。そして、その先には「心の欠片」「形の欠片」「霊の欠片」「封印の欠片」が霧梁の彼方に浮かぶ景色も映し出されていた。鏡の一つには現像室の扉が映り、「ルカの記憶が次の試練を呼び出す」という言葉が聞こえた。


静江は安堵の表情を見せた。


「これで、すべてが元あるべき形に戻った」


彼女は微笑み、「欠片の旅はまだ続く」と静かに付け加えた。「失われた村に心、霊、封印の欠片が眠っている」


蓮は驚きと感動で言葉を失っていたが、やがて口を開いた。


「信じられない…科学では説明できないことが、目の前で起きた」


彼は震える手でノートを閉じ、眼鏡を直した。


「祖父がずっと追い求めていた真実…ついに見ることができました」


クロミカゲは彼に微笑みかけた。


「科学と神秘は、表裏一体だ。風見蓮、お前の目は真実を見る目だ。記録し続けなさい」


蓮はその言葉に力強く頷いた。彼の目には新たな決意が宿り、科学と神秘の境界に立つという覚悟が感じられた。


「わかりました」彼は真剣な表情で応えた。「祖父が残した使命を引き継ぎます。科学で測れるものと測れないものの間に橋を架けるために」


チクワがルカの足元から立ち上がり、クロミカゲに近づいた。猫は一瞬警戒するような仕草を見せたが、やがてその足元に座り、喉を鳴らし始めた。チクワの金色の瞳が輝き、魂写機の写真を守るように前足を置いた。猫の背中の毛は青く輝き、その瞳にはクロミカゲを認める光があった。


ルカはクロミカゲの手を取り、奥宮の外へと歩き始めた。


「帰りましょう。写真館へ」


四人—そしてチクワは、月明かりの下、山道を下り始めた。ルカの心には、失った記憶の代わりに、新たな希望が宿っていた。彼女の表情には、これまでにない穏やかさと確かな強さがあった。感情を抑え込む必要はもうない。すべてを受け入れることができる。姉のいない10年間の記憶を代償として差し出した代わりに、姉と過ごした記憶が鮮明に蘇り、これからの記憶を共に作っていく約束を得たのだから。


「また一から始めるのね」


「いや」クロミカゲが優しく言った。「続きから始めるんだ」


クロミカゲの姿が月明かりに照らされ、淡い影を地面に落とす。その影は人と狐が交互に入れ替わるように揺れていた。一瞬、クロとチヨの二つの意識が交錯するような表情が浮かび、次の瞬間には調和した穏やかな表情に戻る。二つの魂が一つになる過程はまだ完全ではないのだろう。


「私も...まだ慣れていないよ」クロミカゲは自分の姿を見つめながら呟いた。「チヨの意志とクロの本能が...時に衝突する。でも、お前のためなら、私たちは一つになれる」


月が空高く昇り、霧梁県全体を銀色に染めていた。新たな物語の始まりを告げるように。


静江は二人を見送りながら、静かに呟いた。


「記憶は消えない。形を変えるだけだ」


下山する道で、ルカはクロミカゲに問いかけていた。


「残りの欠片は...本当に夕霧村にあるの?」


「ああ。封印の影響で、奥宮から村の記憶に移ったようだ。心の欠片は村人たちの絆の中に、霊の欠片は村の守護者の魂の中に、封印の欠片は...」


クロミカゲの声が途切れ、その表情に一瞬、不安の色が浮かんだ。


「...それを見つけるのが、私たちの次の旅になる」


蓮がノートを開き、「夕霧村の地図を手に入れる必要がありますね」と言った。「祖父の記録によれば、北部の山奥に位置し、霧に閉ざされた村だと...」


彼は懐中時計を取り出し、表面を撫でるようにして言った。「祖父の遺志を継ぐためにも、真実を突き止めなければ」


月明かりの中を歩きながら、ルカは新たな決意を胸に抱いていた。父の「写真は記憶の結晶だ」という言葉と、母の「感情を恐れないで」という教えが、彼女の中で一つになっていた。


そして、クロミカゲとの新たな旅が、すでに始まっていた。チクワが先を行き、蓮が地図を広げ、新たな仲間として加わるように映る彼の姿に、ルカは心強さを感じた。科学と神秘、記憶と忘却、失うことと得ること—すべてが彼女の人生を形作っていく。


記憶に消えない一瞬として、この夜のことを心に刻みながら。

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