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第80話 祖父・風見柊介の運命

静江はルカを見つめた。


「さあ、封筒を開けなさい。チヨからのメッセージを読む時が来た」


ルカは震える手で封筒を取り出した。「ルカへ」と書かれた姉の筆跡。これまで彼女は約束通り、三つの欠片を集めるまで開けなかった。そして今、五つ全てを手に入れた。封筒を手にすると、懐中時計が脈打つように温かくなった気がした。まるで姉の鼓動が伝わってくるような感覚に、胸が締め付けられる。


「読みます…」


封を切り、中から一枚の手紙を取り出す。それは薄い和紙に、美しい筆跡で書かれていた。インクの香りがかすかに残り、ルカの鼻をくすぐる。父が写真館で使っていたインクの香りに似ている。手紙を広げる手が震え、記憶の奥から抑え込んでいた感情が湧き上がる。


『愛するルカへ


もしこの手紙を読んでいるなら、あなたはすでに多くの真実を知ったことでしょう。そして、欠片を集めているはず。私が記憶から消えると予感したとき、この手紙を書きました。


あなたには本当に辛い思いをさせてしまったね。ごめんなさい。でも、あなたが私を忘れても、いつか思い出す日が来ると信じていました。あなたは強い子だから。


さて、欠片について説明します。それらは狐神の力の分身です。九つで一つ。そのうち五つは「記憶」に関わる欠片(声、願い、時、光、影)。残りの四つは「力」に関わる欠片(心、形、霊、封印)です。心は絆を、形は存在を、霊は魂を、封印は均衡を司る。あなたの集めた五つの欠片を使えば、封印の鍵が見えるでしょう。


そして選択の時が来ます。封印を強化するか、解くか。もし強化するなら、私はこのまま写し世に留まり、記憶の守護者となります。もし解くなら、私は現世に戻れますが、代わりに狐神の力が解放されます。どちらを選ぶかは、あなた次第。私はどちらでも後悔しません。


ただ、忘れないでほしいのは、すべての選択には代償が伴うということ。力を使えば使うほど、自分の記憶が霧に飲まれる危険があることも知っておいて。


残りの欠片は、記憶を失った村で待っています。それを見つけるのは、あなたの使命かもしれません。


そして最後に——あなたを心から愛しています。感情を表に出せなくても、それはあなたの弱さではなく、強さなのだと知っていてほしい。私の妹、ルカ。あなたの選ぶ道が、あなたの幸せにつながりますように。


チヨより』


ルカの声は最後の方で震え、次第に涙で曇った。手紙を読み終えると、彼女は言葉を失ったように立ち尽くした。チヨの言葉、手紙に込められた思いが胸に迫る。幼い頃、チヨが髪を撫でてくれた温かさが手のひらに甦る。


「姉さん…」


彼女の手が震え、手紙を強く握りしめた。蓮が彼女の肩に優しく手を置き、静かに支えた。その手から伝わる温もりが、彼女をこの場に繋ぎとめる。


「あの地下鉄建設跡での出来事…」ルカは落ち着かない様子で言った。「鉄川さんの言葉『選択を誤るな』が頭から離れないの。チヨの手紙の重みを改めて感じる…」


青い欠片が照らす蓮の表情には、深い共感が浮かんでいた。両親を亡くしているという点で、二人には共通した喪失感があった。


「選択が人生を決めるんですね」蓮は静かに言った。「祖父も選択を迫られたのかもしれません。彼が最後に残した言葉は『時を越える選択』でした」


彼の科学者らしい冷静さの奥には、ルカと同じような心の傷が隠されているようだった。


静江は沈黙していたが、やがて静かに言った。


「それが、チヨの最後の言葉だ。彼女は選択をお前に委ねた」

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