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第39話 チクワの導き

中に入ると、そこはまさに廃墟の王国だった。雑草が生い茂り、コンクリートが割れ、至る所に落書きが残っている。だが、不思議なことに壊されていない設備も多い。長い年月にもかかわらず、木馬たちの彫刻は美しさを保ち、観覧車のゴンドラも形を留めていた。


チクワがメリーゴーランドの周りを回るように歩き、時々立ち止まっては耳を動かした。何かを聞いているように見える。そして突然、猫は星模様の木馬に向かって飛びかかり、前足でなぞるような動きをした。その星の一つが、他よりもわずかに明るく光って見えた。


「星模様の木馬...」ルカはそれを見つめた。「あの中に欠片がある?」


「ああ」クロは頷いた。「チクワはそれを感じとったようだ」


ルカの足元を、小さな影が横切った。チクワだ。猫はメリーゴーランドの周りを回るように歩き、時々立ち止まっては耳を動かしていた。何かを聞いているようだった。金色の瞳が青く輝き、何かを感じ取っているようだ。


「誰も壊さなかったのね」


「この場所には…ある種の畏れがある。地元の人々は、夜になると遊園地が蘇ると信じている」


クロがそう言った瞬間、風が吹いた。妙に冷たい風だった。それは遊園地の中を巡り、古いチケット売り場のチケットを舞い上がらせ、観覧車のゴンドラを軋ませた。まるで何かが目覚めたかのように。


風が運ぶ匂いに、甘い記憶と懐かしさが混じっていた。使われなくなったレールや錆びた機械の冷たい鉄の香りが、かつての賑わいを伝える甘い匂いと入り混じり、矛盾した感覚を呼び起こす。


遠くから、かすかに子供たちの笑い声が風に混じって聞こえた気がした。それは過去の反響のように一瞬響き、消えていった。ルカは身震いした。それは恐怖ではなく、何か懐かしいものに触れたときの感覚だった。


ルカはお化け屋敷の前を通りかかった。壁には古びたポスターが貼られ、入口には「恐怖の館」と書かれている。内部はほとんど暗闇だが、月明かりが差し込む部分に、かつての展示の影が見える。


「ここも入ってみましょうか」


「無意味だ。必要なのはメリーゴーランドだ」


クロは進み続けた。だがルカは少し立ち止まり、その暗闇を覗き込んだ。すると、壁にぼんやりと子どもたちの姿が映っているように見えた。半透明の姿は、恐怖で顔を歪め、笑い、叫んでいる。かつて遊園地を訪れた子どもたちの恐怖の記憶が、壁に映っているのだろうか。


壁に映る子どもたちは、まるで映画のワンシーンのように動いていた。しかし、それは単なる映像ではない。写し世に残された記憶が、時間の狭間で物理的に干渉している現象だった。子どもたちの笑い声が壁を通り抜け、かすかに耳元で囁いた気がした。


「やっぱり…写し世の力が強いのね」


ルカが言うと、壁の子どもの姿が一瞬、彼女を見たような気がした。寒気が走る。


「そう、写し世の力は強い。特に人々の強い感情が残る場所ではな」


クロの言葉には、何か個人的な経験からくる実感が混じっていた。彼は自分もかつてこの場所に来たことがあるのだろうか。それとも、チヨと共に?


二人はメリーゴーランドに向かって歩いた。中央に位置するそれは、遊園地の象徴のようだ。十二頭の木馬が、様々なポーズで静止している。それぞれに個性があり、表情も異なる。喜び、興奮、驚き、そして…悲しみ?


「この中の一頭に、欠片が隠されている」


クロが言った。彼の声がわずかに震えているのに、ルカは気づいた。


「どうやって見つけるの?」


「月を待つんだ」


空の高み、滲む紫に溶けた上弦の月が、まるで遊園地の亡霊を照らすかのように光った。その光がメリーゴーランドの木馬たちに触れた瞬間、空気が震え、遠い昔の音楽が、風に乗って耳元をかすめた。上弦の月。半分だけ明るく輝いている。その光が増すにつれ、遊園地全体がかすかに震えているような錯覚がした。


二人はメリーゴーランドの近くのベンチに腰掛けた。ルカはカメラを手に取り、写真を撮り始める。カメラを構えた瞬間、写し世の匂いがした。現像液の微かに酸っぱい香りと、古い木材の温かみが混ざった、懐かしい匂い。それは幼い頃、父と一緒に暗室で過ごした記憶を呼び起こした。


「姉を救えなかった私が、こんな場所で願いを叶えていいのか…」彼女は小さく呟いた。


「何か言った?」クロが尋ねた。


「…いいえ。写真に何か映るかもしれないわ」


シャッターを切ると、何か違和感があった。フィルムが通常より早く送られる感覚。光と影が通常とは違う動きをしているような。ルカは眉をひそめる。


「おかしいな…」


「写し世の時間がフィルムに干渉している」クロが説明した。「過去の光景を断片的に記録している。だから異常に感じるんだ」


突然、チクワが鋭く鳴き、星模様の木馬に向かって飛びかかった。金色の瞳が青く輝き、木馬の背に描かれた一つの星を前足でなぞる。その場所だけ、他の星よりも鮮やかに光り始めた。


「あそこね」ルカは息を呑んだ。「欠片はその星の中にある」


チクワは確かに単なる猫ではない。写し世と現世を行き来できる案内者として、彼は重要な役割を担っていたのだ。

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