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第24話 破られたページ

日記をさらにめくる。日付が飛んで、夏のページになっていた。


「七月二十日。今日、影向稲荷の神主さんから話があると...」


その先のページが破られていた。ルカは眉をひそめる。


「ここから先は?」


「破られたんだろう」クロの声には苦さが混じっていた。「チヨ自身が...あるいは」


「どうして」ルカは日記を強く握った。「こんな丁寧な字のあの人が、自分の日記を破るの?」 声が震える。「それとも……誰かが破った?」


クロの紋様が激しく脈打ち、彼は顔を背けた。


ルカはふと、引き出しを再び開け、底を調べてみた。薄い紙片がこぼれ落ちてきた。破られた日記のページの一部だ。文字の断片が読める。


「...神主さん、狐神のこと...村で奇妙なこと...記憶が...時間の流れが...朽葉温泉で強い記憶が...」


「狐神が村に影響を及ぼし始めたときの記録だ」クロが静かに言った。「チヨはすでに気づいていた」


「この時...何が起きていたの?」


「村人たちの記憶に穴が開き始めていた。大切な人を忘れたり、道に迷ったり...」


その言葉に、ルカの中で河内佐助の写祓が蘇った。黒い狐が記憶を操っていた—それはクロなのか、それとも狐神そのものか。そして朽葉温泉—その名前が、ぼんやりとした記憶を呼び覚ます。


■家族写真の記憶


ルカは壁に飾られた写真に目を向けた。そこには川辺で遊ぶ二人の少女の姿があった。写真に触れると、水の音と笑い声がルカの耳に蘇った。川のせせらぎと、風鈴の音色。二人の少女の笑い声が、遠い記憶の底から浮かび上がる。


「これは私と...チヨ」


写真に写る年上の少女は、優しく微笑んでいた。短い黒髪、穏やかな目、写真館の現像室で一瞬見た幻影と同じ顔だ。涙がまた溢れ、写真の上に落ちた。その瞬間、ルカは久しぶりに自分の感情の強さに驚いた。長年抑え込んでいた感情の堤防に、初めての亀裂が入ったような感覚。その痛みと解放感が入り交じる不思議な温かさに、彼女は戸惑いながらも身を委ねた。


「この時、私たちは何をしていたんだろう」


「フィルムの洗い方を教わっていたのさ」


クロの言葉に、ルカは驚いて顔を上げた。


「あなたは知っているの?」


「俺は...あの日の全てを見た。だから知っている」


クロは写真の方に一歩近づいたが、まるで見えない壁に阻まれたように、再び足を止めた。


「お前は覚えていない。チヨは現像液の調合を教えていた。『ルカ、この液体は魂の記憶を固めるんだよ。だから優しく扱うの』と」


その言葉を聞いた瞬間、ルカの脳裏に声が響いた。チヨの声だ。温かく、優しく、時に厳しい声。遠く、時間の軋むような音が鮮明になり、部屋の壁が振動するように感じられた。床の隅から青い光が漏れ、一瞬、色彩が反転した——白い壁が黒く、チヨの写真の笑顔が悲しみに変わるような錯覚。


「そうだった...」ルカは震える声で言った。「姉さん、いつも私に教えてくれた。写祓の方法を...」


一瞬の静寂。その間にも、ルカの中では記憶の断片が少しずつ組み上がっていく。だが、まだ全体像は見えていなかった。

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