表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/119

第10話 忘れられた真実

少年の感情が高まるにつれ、現像液が沸騰し始めた。青みを帯びた泡が立ち上り、部屋に異様な香りが広がる。湿板のコロジオンが少年の強い感情を吸収し、硝酸銀の滴りが写し世の境界を不安定にする。チクワは低く唸り、毛を逆立てた。猫は何かを感じ取っているようだ。


「名前を教えて」


ルカは冷静さを保ちながら、少年に向き合った。写祓の途中で止めることは危険だと、本能が告げていた。湿板の15分制約が迫る中、彼女の集中力が途切れそうになる。


少年の口が開く。「忘れられた...」かすかな声が聞こえた。それは水中からの声のように、遠く歪んでいた。


「みんなが忘れるなら、私も忘れたい!」


少年の感情の爆発と共に、鏡の一つが軋む音を立てて割れた。ガラスの破片が床に落ち、チクワが鋭く鳴いた。写祓が危険な方向に進んでいる。このまま少年の怒りが溢れれば、写し世の亀裂から現世へと漏れ出し、河内家に災いをもたらすだろう。ルカは動じずに、三枚目の湿板をセットした。時間が迫る。冷静さを保つことが、すべての鍵だ。


「あなたの痛みを感じる。私も…誰かを忘れた気がするから」


彼女の言葉に、少年の怒りが一瞬和らいだ。遠く、時間の軋む音が響いた。


カシャリ。


光が閃き、少年の存在がより濃密になる。彼の周りの空気が震え、色彩が戻りつつある。瞳に感情が宿り、肌に血の気が戻ってきた。


「河内...佐」


ルカは眉を寄せた。少年の声は断片的で、苦しげだ。まるで重い水の底から言葉を押し上げようとしているかのよう。


「河内佐? 河内佐...助?」


少年の目に光が宿った。「佐助...そう、僕は佐助」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ