薄暮の独白 ―深淵を覗く―
春の宵、朧月夜は、まるで私の心の裡を映し出すかのようだ。
気怠く空に浮かび、輪郭は曖昧模糊としている。
咲き乱れる花の香も、所詮は刹那の夢幻。
美しく咲き誇ろうとも、やがては凋落し、土に還る運命。
嗚呼、美しきものは、常に哀愁を帯びている。
遠い昔の残響か、それとも忘却の彼方へと消え去った歌か。
風の囁き、草木のざわめきが、ひどく郷愁を誘うのは、私がもはや、帰るべき場所を失ってしまったからだろうか。
白き霞が、頼りなく山々を覆い隠す。
消えゆく人影を追慕するは、畢竟、徒労に終わることを知りながらも、抗えぬ衝動に駆られるのは、何故だろうか。
時の流れは、残酷なまでに静謐だ。
あたかも、何もなかったかのように、冷酷に過ぎ去っていく。
後に残るのは、朧げな記憶の断片のみ。
それすらも、時の奔流に呑み込まれ、やがては消え失せてしまうのだろう。
朝露が、刹那の煌めきを放ち、たちまち消え去る。
あの儚き美しさが、私の胸を深く抉るのは、私が、生への倦怠感に苛まれているからに他ならない。
嗚呼、厭世的な世の中だ。
それでも、朧月夜は、かくも美しい。
深淵を覗き込む時、深淵もまたこちらを覗き込んでいるのだ。
私は、一体何を見ているのだろうか。