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少年呼びのお姉さんを書きたかったから書いたやつ

作者: 山本航

 放課後、少年は一人で家路を歩いている、つもりでいる。


 最近買ってもらったばかりのスマホに目を奪われていた。チャットアプリで同級生の集まるルームや学校SNSを出入りしている。覚束ない手つきで操作し、周囲への注意も散漫だ。険しい目つきで画面の上の文字を読むことに意識を奪われている。


 季節は春。桜の花は過ぎ去ったが、未だ涼やかな風が冬の殿を務めている。新年度が始まったばかり。中学二年生になりたての少年だ。クリクリの目。赤い頬。年齢の割に幼い顔。同級生に比べて身長が少し伸び悩んでいるようだが、髭はうっすらと生え始めている。


 ふと画面上の文字列に目を留めた。スマホの中では元クラスメイトの雑談が行われ、学校とは無関係な話題へと移り変わっていた。


『この前、ソウタを見かけたよ』

『ソウタ? 誰?』

『ほら、私立受験したソウタだよ』

『あれ? 引っ越したわけじゃないのか』

『そうそう。少し遠いけどバスが出てるんだよ。そのソウタをさ。カルパ館で見かけたんだ』

『カルパ館! 懐かしい! 昔はよく遊んだなあ』

『まだ一年くらいしか経ってねえよ」


 カルパ館というのはかつてこの街に唯一存在したショッピングモールだ。しかし全国を席巻する大手がこの街に進出し、その際には地元密着型を標榜して必死の抵抗を試みたが、あえなく打ち倒され、いまや廃墟が残るのみだ。


 この地域の子供たちはその廃墟に侵入して遊んでいる。主な年代は小学生の高学年だ。低学年に廃墟は恐ろしすぎる。中学生ともなると生きたショッピングモールに生息域を移すのが常だ。フードコートとゲームセンター、シネコンをたむろしているものだろう。


 少年は二度三度とその噂を読み返し、歩を止める。そして少し躊躇いつつも決心した様子で、家路を外れるべく一歩を踏み出した、つもりでいる。




 少年は慣れた様子で錆びた金網を越えて、カルパ館の敷地内へと侵入する。アスファルトの隙間から雑草の生えた空疎な駐車場にはなぜかいくつかの車が止まっていて、何年もの間放置された廃車は錆に、屋根の下であれば埃に覆われている。


 シャッターと自動ドアが開きっぱなしになった出入り口が南東に、鍵のかかっていない蕎麦屋のテナントが北にあることをこの地域の子供たちはみな知っている。少年は後者を選んだ。


 廃墟は灰褐色の静寂に沈んでおり、少年の目には何者も映らない。同学年のソウタも、廃墟で遊ぶ小学生の姿もない。実際には不思議な生態の生物や微かで幻想的な存在がカルパ館の廃墟をねぐらとし、少年の様子を窺っているのだが、少年は気づいていない。


 蕎麦屋の店内側出入り口を抜けてフードコートに足を踏み入れると、少年は足を止めて感慨深そうにあたりを見渡す。このような場所に懐かしさを、しかも経った一年足らずで感じるとは思わなかった。当時は何とも思わなかったが、今は不気味な雰囲気を醸している、ような気がしないでもない。


 少年はソウタを探しに来たことを思い出し、恐る恐る足を踏み出す。そもそも今日この日、ここにソウタが来ている保証は何もない。しかし少年には、ソウタに会うために彼の家を訪れる勇気はないらしい。不気味な廃墟を探索する方が心理的にはずっとましなのだ。はっきりとは分からないが、心理的な障壁があるようだ。


 埃っぽいショッピングモール内はかなり荒れている。食品売り場の商品は――少なくとも少年が“利用”を始めた時には――存在せず、ほぼ全ての棚が空っぽで、並べ替えられて迷路が形成されている。サッカー台近くには積み重なった買い物かごのピラミッド。ショッピングカートのレース場。中央にあるはずのエスカレーターのエリアはシャッターで完全に閉ざされていて、中を見た者はいない。


 少年は一階をぐるりと、隈なく探すがやはり誰もいない。上の階に昇るために非常階段へ向かおうと思ったその時、少年は足早な足音を聞いた。そちらの通路に目を向けると、一瞬、何者かが角を曲がって姿を消したのが見えた。ソウタの背格好に似ているような気もした。少年はその場に立ち止まったまま、声をかける。


「ソウタなのか?」


 上擦っていて、その場にいる人にかけるような声量だった。足音は遠ざかり、聞こえなくなる。そうしてようやく少年の心の裡に足音を追いかける勇気が湧いてくる。同じ角を曲がるが姿は見えない。とにかく突き当たりまで真っすぐに進むとエレベーターホールまでやってくる。やはり誰もいない。どこかで曲がったのかもしれない、と戻ろうとしかけたその時、少年は信じられないものを見る。


 エレベーターの階数表示が灯っており、三階から二階へと移り変わったのだ。そして一階へと降りてくる。逃げ出したい気持ちはあったが、足が竦んで動けなかった。それがこのショッピングモールカルパ館に関わる大人だとして、碌な目に遭う気がしない。しかしエレベーターの扉は無慈悲に開く。


 現れたのは一人の女だ。白いTシャツを前後裏表に着、ダメージジーンズを履いている。ダメージを受けて露わになった膝小僧の絆創膏は血が滲んでいた。長い黒い髪には枝毛があり、元々薄い顔には化粧っ気もない。タバコを咥えて少年を見下ろしている。


「やあ、少年。ようやく来たね。待ちくたびれたよ」


 そうして少年は私に出会った。


 目を見開き、口をぱくぱくとする少年の前で扉が閉まり始めたので、私は慌てて手を出して扉を開く。少し指を挟まれてしまった。痛い。


「なぜ僕の名前を知っているのか、そう言いたいんだろう?」と言いながら私はエレベーターを降りる。

「……え? 知ってるんですか?」

「あ、うん。そうだった。私、まだ言い当ててなかったね、ユウマ君」私に言い当てられてようやく少年は、なぜ僕の名前を知っているのか、という顔になった。「少年がここに来た目的も知っている。ソウタ君、だったね。それらしき人影を見かけたよ。私も色々と噂を聞いてここに来たんだ。そして少年の手を借りたくて、待っていた」


 まだ信頼を得られていないことは一目瞭然だったが、少なくとも少年は話を聞くつもりになったようだ。


「僕に何の手伝いを?」

「話が早くて助かるね。もちろんソウタ君探しだよ。私は君たちのような無謀な少年たちに注意喚起しに来たのさ。霊能者としてね」


 少年は再び胡散臭いものを見るような目になった。




「上へ参ります」私が言った。少年は何も答えなかった。「とりあえず二階から順番に探していこうか」

「どうしてエレベーターが動いてるんですか?」

「電気工事士の資格を持ってるんだ」

「へえ」少年は素直に信じた。

「あ、嘘だよ、嘘。私も何で動いてるのか分かんない。不思議だよね」

「……そうですか」

「……二階、衣料品のフロアでございます」誰も返事しない。私も少年も無言でエレベーターを降りるが、私はすぐに口を開く。「ソウタ君ってどんな子?」


 少年は不思議そうに私を見上げる。


「それは、幽霊か何かと関係があるんですか?」

「あるかもしれないし、ないかもしれないね。それを探るため、とでも考えてくれ」

「それは言い当てられないんですか?」少年は値踏みするような視線を私に向ける。

「いや、まあ、言い当てられるけど。会話をすることで親交を深めようと、だね。……まあ、いいや。友達、なんだろう? 小学校の時の」

「今も!」と声を大にして言いかけて、少年はトーンを落とす。「友達だと思ってます。最近は遊んでないけど」


 私と少年は衣料品店の間を歩きながら探り探り言葉を交わす。


「この廃墟でよく遊んでたんだろう? 君たちに限らず、ここいらの小学生には大人気のスポットのようだからね」

「はい。僕とソウタと他にも何人か。毎日放課後に入り浸っていました。中学に上がってからは全く、ですけど」

「懐かしいな。中学生になると行動範囲がぐんと広がるよね。お小遣いが増えたりして、できることが増えていく。だろ?」

「そうですね。それも、理由の一つかも」


 十字路に行き当たるたびに周囲を見渡すが、人影は見えず、足音も聞こえない。もちろん、少年の方は、だ。

 しかしフロアの半分も過ぎた三番目の十字路で異音を聞く。ガラガラというけたたましい音。ショッピングカートの走行音だ。私たちが道を譲るように下がると満載のカートが右手から左手へと走り去って行った。

 少年はカートの行方を、私は来た方に目をやる。


「今の見た?」と私は少年に尋ねた。

「え? もちろん。ソウタでしょうか」

「……いや、違うね。随分乱暴な運転ではあったけど」


「つまり、いる(・・)んですか?」

「うん。うじゃうじゃとね」私は少年の顔色を読んで付け加える。「ああ、いや、ほとんどは無害な連中だよ。ただ訳も分からず存在しているだけ」

「でも注意喚起に来たって」

「まあね。見えない内は無害なんだ。今のだって何も知らなければ、誰かの悪戯かなって思うだけだろう?」

「うーん」と少年は首をひねる。「まあ、そうかもしれませんね」


 もうショッピングカートが走ってくる様子はないが、私たちは赤信号の横断歩道でも渡るように歩を進める。


 少年は私の煙に眉根を寄せるが文句は言わない。私も遠慮しない。


「うじゃうじゃって、例えばどんなのがいるんですか?」と少年はほんの僅かに声を震わせて尋ねる。

「ん? そりゃあ、もう、色々だよ。こっちを指さして笑ってるのとか。わけわかんないことを言いながら転がってるのとか。背中にぴたりとくっついてるのとか」少年は声にならない声を出して両腕をぶんぶんと振り回す。「あはは。逃げてった逃げてった」


 私が笑っていると少年は顔を顰めて睨みつけ、無言の文句をぶつけてくる。


「いや、言ったろう? 無害だって」私は付け加える。「背中、何ともないだろう?」

「そうですけど。……そうですけど!」


 私たちは二階のフロアも一周し、しかし生きていて肉体のある者は誰も見つけられなかった。階段と非常階段はどこも閉ざされているので再びエレベーターホールへ向かう。


「そもそも僕の何の助けが必要なんですか? 力になれてます?」

「なってるよ。ここには誰もいないんだろう?」

「ええ、そうですけど。そんなの見れば誰だって……、あ、そういうことですか」


 少年は合点がいったという様子で私を見上げる。


「うん」私は自虐的に乾いた笑いを零す。「うじゃうじゃいるからね。誰が誰だかって感じだよ」

「生者と死者の区別が付かない、と」

「いやいや、付く付く。もちろん付くけど、こんだけ沢山いると一人一人じっくり観察してたら日が暮れてしまうからね」

「言っておきますけど、ソウタは指さして笑ったり、わけわかんないことを言いながら転がったりしないからね」

「え? じゃあ、さっきの――」私は来た方を振り返る。

「背中にぴたりとくっついたりもしません!」


 私は最後の煙を吸い込んで、タバコを携帯灰皿に押し込む。


「じゃあ、どんな子なんだよ。話を戻すけど」

「……良い奴ですよ。友達想いというか。少し引っ込み思案なところがあったけど、仲良くなれば付き合いは良くて。たぶん僕が、一番仲が良かったはずで……」


 二人の足音だけが響く。少年の耳には、だ。


「どうやら悩みでもあるらしい。一人でこんな廃墟にやってくるなんて、小学生の時もなかっただろう?」

「悩みというか。謝りたかったんです。いや、謝られても困るかな。一番仲の良かった、親友だった、ので違う学校になってしまったのは悲しくて、寂しかった。あ、ソウタは受験して、私立の中学に行ったんです。別に引っ越したわけではないので、放課後には変わらず遊べると思っていました」


「でも徐々に、疎遠になっちゃった?」

「はい。約束したとかじゃないんですけど、でも、約束を破ってしまったような気分です」

「なるほどね。誰が悪いわけでもないんだろうけど。申し訳なく思っている、と」

「それで、ここに来て、偶然(・・)会えたなら、スマホ買ってもらったんで連絡先を交換したりして、そしたらまた……、って考えたんですけど」そう言って少年は溜息をつく。

「もう暗くなってきたね」と私は呟く。


 薄汚れた窓から差し込む陽光が赤みを帯び始めている。


 少年はスマホを取り出し、画面を光らせた。「もうこんな時間か。……ここって圏外なんですね」

「ショッピングモールが圏外なんてことないよ。君にも分かりやすい不思議現象だね」

「ショッピングカートが暴走していた時点でもう疑ってないですよ。……あ。ソウタ」


 通路の先に少年の視線が釘付けになった。


「どいつ?」

「まっすぐ前です。二十メートルくらい先。ソウタに間違いないです、かなり身長が伸びてるけど」

「頭が天井を突き破ってるね」

「そいつじゃないです」


 少年が一歩進むと背を向けて走り去る者がいた。私と少年も駆け出す。私のくたびれたスニーカーの擦るような甲高い足音が廃墟に響く。ソウタが真っすぐに逃げた先、エレベーターの扉は閉じている。しかしソウタは少しも歩調を緩めることなく、エレベーターの扉にぶつからずに擦り抜けて消え失せた。


「え! ソウタ!?」


 答えを求めるように少年は霊能者の私を振り返る。


「死んだわけじゃないし、そうそう害はないよ。生き霊ってやつだね」

「……生き霊。幽体離脱ですか? 眠っている間に、っていう」

「そのパターンもあるし、本人は普通に生活してる場合もあるね。この場合はドッペルゲンガーと呼ばれることもある」

「ドッペルゲンガーって出会ってしまったら死んじゃうんじゃ……」少年の顔が少しばかり青褪める。

「そうだね。でもそれも必ずしも因果関係があるとは限らない。多少無気力になる傾向はあるけど、それは生き霊と同じく原因ではなく結果でしかない」


「どういうことですか?」

「死霊と同じだよ。生きながらにして、だけど、未練がある、ということ。その未練が、悩みや苦しみが、死を引き起こすこともある、ってわけだね。だから、放ってはおけない」

「未練……。それって一体……」

「そればかりは本人に聞くしかないね。まだいるかも。呼びかけて御覧」

「ソウタ? 聞こえてるなら返事してくれ」

「……ユウマ。久しぶり」


 ソウタの声がどこから聞こえてくるのかは私にも分からなかった。天井から降ってくるようにも、地面から湧いてくるようにも聞こえる。


「うん。久しぶり。会えてよかった。また一緒に遊びたいと思ってたんだ」

「一年間ずっと?」

「いや、それは、その……」

「いいんだよ。お互い様だ。新しい友達だって出来ただろう? 俺もそうだ。だから、お姉さん、俺には未練なんてないと思うんだよね」

「まさか」と私は乾いた笑いを漏らす。「悩みのない人間なんて私は見たことないよ」


「そうかもしれないけど、だったら誰もが生き霊になるのか?」

「まあ、そういうわけではないね。外部的な要因もある。たとえばこの場はうじゃうじゃしてるからね。引き寄せられたって面もあるだろう。とはいえ、自覚してないのが大半さ。言語化しなきゃ始まらないよ」

「僕は!」とユウマが会話の舵をもぎ取る。「ソウタと遊べなくて寂しかったよ」

「でもユウマには他の奴らがいるだろ。大半が地元の中学に進学したんだから。俺のところは、知らない奴らばかりだ」

「分かってたことだろ。ソウタが受験したんだ」

「違う! 受験なんてしたくなかった! ただ、うちの親が望んでたから……。でも、俺も深く考えてなくて……。こんなに寂しい気持ちになるなんて……」


 そうしてエレベーターホールは静まり返った。


「……ソウタ? ソウタ!?」


 返事の代わりにエレベーターの扉が開く。中には誰も乗っていない。私と少年は誘われるままにエレベーターに乗り込んだ。

 エレベーターは上昇する。三階、四階、五階。

 階数表示はRで止まる。屋上だ。

 私は少年の強張った横顔を見て尋ねる。「屋上って何があるの? 駐車場?」


「いえ、屋上遊園地ですね。元々デパートだったとかで、改装してショッピングモールになった後は閉鎖されていたみたいですけど。僕たちも忍び込んでよく遊んでいました」

「そうなんだね」


「……どうしたんですか? 降りないんですか?」

「扉が開かないと降りられないよ」

「……僕には扉が開いているように見えます」

「じゃあ、少し危険だけど、君に頼むしかなさそうだ」


「どういうことですか? 扉の幽霊がお姉さんには見えてるんですか?」

「いや、気づいてないようだったから黙ってたんだけど、君も生き霊なんだ」


 少年は掌を見て、足を見る。透けていないし、両足は揃っているように見える。


「つまり僕にも未練が」少年は素直に呑み込む。「まあ、でも、だから僕はここに来たのか」

「この先は、つまり霊界みたいなものなのだろう。どうすればいいか分かる?」

「はい。友達なので」

「そうだね。君は一人じゃない。私も見守ってるからね」

「ありがとうございます。心強いです」


 少年はエレベーターの扉を擦り抜けて出て行った。




 屋上遊園地も当然廃れている。雨曝しの小さな観覧車が風に揺れてきいきいと唸っていた。ゴーカートの施設やゲームの筐体が静かに少年を迎える。しかし夕暮れは何処かへ去り、春の姿も消え失せた。夏の真昼、激しい陽光が降り注ぎ、明かりと影のコントラストが強烈に浮かび上がっている。少年が想像していた霊界とはかなり違っただろう。


 ぽつりと一人、腐った木造のベンチに座って待っていたのは小学生の頃のソウタだった。少年と大して変わらない背丈なのは、少年もまた小学生の頃の姿に戻っているからだ。


「未練とか、苦悩とかってさ」とソウタが口を開く。「分かったところで解決しない問題もあるよな」


 少年もソウタの隣に座る。何度となくソウタと駆け回った屋上遊園地だが、こういう風に語らうことはなかった。


「そうだね。今更地元の中学に転校するわけにもいかないだろうし」

「寂しいからってな」とソウタは自虐的に笑う。「そんなこと親に言ったら、何言われるか」

「でも、なんというか別のアプローチはあると思う」と少年は声を絞り出す。「僕も、二年のクラス替えで仲いい奴らが1人もいなくなったんだ。そりゃ、ソウタに比べれば、隣のクラスだし、どうにでもなるはずなんだけど、でも、わざわざそんなことする奴っていなくて。みんな新しいクラスに適応してる、というか」

「同じだな」ソウタにそう言ってもらえて少年は心底安堵する。


「だから、って言うとなんだけど、ソウタとはまた友達になりたい」少年は照れ臭そうに言い、照れ隠しに言葉を続ける。「スマホ買ってもらったんだ。ソウタは? 連絡先交換しようよ。メールでもチャットでもいいし、またソウタと遊びたい」

「スマホ持ってない」とソウタは突き放すように言い、しかしにやりと笑う。「でも、転校よりは無茶な願いじゃないよな」




 恐る恐るインターホンに指を伸ばす。その時、スマホの着信音が鳴って、指を引っ込める。画面にはソウタからのメッセージが届いていた。


『何時ごろに着く?』

『もう少しだよ』と返事を送る。


 そして再びインターホンに指を伸ばしたその時、呼び鈴が鳴る前に扉が開いた。


「やっぱりな」とソウタが笑みを浮かべる。「ユウマの考えそうなことだ」

「ばれたか」と言って僕も笑う。

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