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Page.3 ふたつの景色

「俺たち…...知らないことってあんのかな?」


「ホクロの場所…...とか?」

神崎茜、高校三年生。無事進級できてほっとした直後。新年度最初の班での授業。


「いやあ、今更自己紹介なんてのもねえ…...」


「いやいや、神崎さんもいるんだからしなきゃダメでしょ。」


…...過去一気まずい時間を過ごしています。


いやいやどうしてこうなったの!?仲いい四人に混ざるの難しいよ…...!あたしなんかしましたかね神様!


「神崎さんって、二年の終わりに転校してきたんだよね?」


「あ、うん!そうなの!この学校に来て三か月くらいで冬休み入っちゃって、正直友達も対してできてないというか…...」


「へえ、じゃあこういうのはちょうどいいんだね!」


「そ、そうだね…...」


いや無理!あんたたちの間に入っていくのは正直難しいよ!幼馴染と許嫁なんでしょ!?入っていくところが無いよ!

…...あたしは、はっきり言って誰とでも仲良くなれる方だ。普段から周りの空気を読むようにして生きてきた。あはは、そうだね、私もそう思う、そうやって色んなことを切り抜けてきた。だから…...


――やっぱりそういう目で見てたんだって!茜もそう思うでしょ?


友達なんて、そんな距離感の近い関係なんて、いらない。上手く切り抜けて、今度こそ何事もなく平穏な学校生活を送る。とにかくあたしは今日この場をどうにかするんだ!


「俺、桜庭夏希。趣味は運動、最近はランニングにハマってる。夏希って呼んで!」


「私小緑春香!小さい緑でオロクだよ!夏希とは幼馴染で、ランニングに付き合って二、三日筋肉痛が取れなかった!運動はちょっと苦手で…...」


…...付き合いで苦手なことまでするんだ、良い関係なんだね…...


「僕は白星秋斗。白星財閥の一人息子だ。このことで態度を変えられるのが嫌だから最初に話すことにしてる。趣味は…...そうだな、何かを集めるのが好きだな。」


「紅野冬雪。秋斗の部屋に行ったときにとんでもない種類のペンがあって正直引いた。趣味はダーツ。よろしくね、茜。」


「…...引かれてたの?」


「ふっ…...空き缶よりマシだろ…...くくっ…...」


「空き缶…...?」


紅野さんの顔が若干引きつった。知らなかったみたいだ。空き缶…...


「ふふっ…...」


「お、やっと笑ってくれた!」


「あっ、え、馬鹿にしてるわけじゃないからね!」


「いや違うんだよ、春香たちと、紅野さん気まずいんじゃないかって話をしてたんだよ。」


「ちょっと夏希!それ言わなくてもいいでしょ!」


私の事を…...気にして…...?

正直初めてだった。というか、多分気付いてなかったのかもしれない。今までのあたしは周りの目と顔を気にするばかりで、こんな風に言われてもなんとも思わなかった。


この人たちを知ったのは、転校してきて一か月くらい経った時の事。校内で、成績もよければ運動もできて顔もいい…...そんな四人組がいると、有名な話だとクラスメイトが話しているのを聞いた時だ。

気になって名前を聞いて、クラスや放課後に目で追うようになっていた。

有名になるほどの文武両道な人たち。話を聞けば聞くほど、お堅くて、真面目で、生きるのに悩みもない…...そんな人たちだと思っていた。だけど…...


――秋斗、初詣冬雪と行ったんだろ?どうだったんだよ。


     どうだったもなにも、毎年変わらないさ。初詣の想像する通りだよ。


  んだよ、変わったことの一つや二つあると思ってたのによ…...

 

     っはは、僕たちは何かないとそんなにおかしいかな――


…...心からの笑顔だと感じた。その時も、今も。この人たちはお互いを大切に思いあってる。別に確証があるわけでも、本人たちに話を聞いたわけでもない。それでも、ただ輝いて見えた。

あたしには出来なかったことだ。あたしは逃げた。でも、間違ってるなんて思ってない。あたしは正しい。これで良かった…...


「…...いいな…...」


「っ、紅野さん?」


今、あたし…...


「…...っあ、なんでもないよ、ごめん!」


そのあとも、彼らはいろいろな話をしてくれた。たくさんの『好き』の話、『嫌い』の話、本当にいろいろな話をしてくれたことだけは分かる。でもあたしは、自分から溢れて出た感情の整理が出来なくて、会話のほとんどが上の空だった。


「お前らぁ、そろそろ授業終わりだ。机元に戻せ。」


先生の号令で授業が終わり、各々の日常に戻っていく。あたしを除いて。


「…...茜、ちょっといいか。」


「努先生…...」


――――――――――――――――――――――


「…...まだ、気にしてるのか。」


「そういうわけじゃ…...いえ、気にしてるのかもしれないです。」


「何度も言うが、茜は何も悪いことはしてないだろ。」


努と茜の間に冷たいような、暖かいような空気が流れる。

努は、少しの沈黙の後、それを静かに、丁寧に壊すように口を開いた。


「お前じゃなければ、最後まで黙っていたはずだ。最後に勇気を出した。それが出来たのは他ならない茜だからだ。誇ってくれ。」


「…...先生にいくら言われても、あたしは自分を許せないです。ごめんなさい。」


「…...そうか。」


先生は、とても悲しそうな…...いや、あれは後悔だろうか。いろんなものが入り混じった笑みを浮かべて話題をわざとらしく変えていく。


「あの四人、良い奴らだっただろう。」


「そう…...ですね。今日改めて、素敵な人たちだなと思いました。もしかして、同じ班になるようにしてくれたんですか?」


「…...たまたまだよ。」


先生の表情が二段階くらい柔らかくなった。これは安堵だ。素敵な人たちだと言ったことを嬉しく思っている…...そんなところだろう。

茜は努に軽く一礼してその場を後にした。二人の話が終わりきるよりも少しだけ早く、近くの柱の陰から離れていく影があった。


「茜…...私でも何か力になれるかしら…...」





――冷たい夏も、熱い冬も

    僕たちの経験そのものだ。

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