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くろいかさ

駄文ですがよしなに。

 雨が降っていた。

 

どうやら大雨注意報が出ていたらしく、電車は遅延し、待たねばならぬバスに鬱屈としていれば、いつもなら出発している時間なのに、大学行きのバスは温情で止まってくれていた。

 

 後ろに人もいるので水気をきるのも程々に、手を雨で濡らしながら傘をたたみつり革の下に立つ。

 

 車内は乗車率が東京近郊の朝並みになり、このまま大学まで耐えるのかと、大勢の服が放つ湿気を感じ、やはり鬱屈としていく。

 

 とはいえ晴れの日だろうと豪雨だろうと変わらず、皆首つり死体の如く首を前に垂れ、光る板で網膜をブルーライトにさらしていた。

 

 

 停車し、ドアの圧力の抜ける音が鳴り、高いのか低いのかいまいち掴めない電子音とともにドアが開けば、押されるようにというか、事実押されて外に強制降車させられた。

 

 アマゾンのような湿気から解放されたは良いものの、やはり学校という時点で鬱屈とならないはずもなく、授業までの数十分、どうにか気を紛らわそうと自販機を探していれば、バスの前方扉に不審な青年がうろうろしていた。


「あ、すいません。くろいかさ、見ませんでしたか?」

 

 どうやら車掌も遺失物の相談に来られるとは思ってなかったのか、少し動揺しつつ、


「あぁ、えっと?バスに置きっぱだった感じかな?この車両じゃ見てないなぁ。黒い傘ね。見つけたら学生課の方に届けとくよ」


 青年は少し残念そうに、


「そうですか、や、どうも」


 と言うや、雨に濡れるのに耐えかねたのかそそくさと、建物の中へ入っていった。

 

   ・

 

 昼食に学食のリーズナブルが取り柄のラーメンを食べ、

 季節が春を過ぎ夏にかかってるのではないかと思えるような気温であったことを失念していた自分は、上着を脱ぎながら、炒飯にしとけば良かった。なんてどっちでも結果が変わらないことを、汗なのか雨なのか分からない液体でぬれた額で後悔していると。


 彼の青年が、仕事中であろう初老に案内されていた。


 まだ傘は見つかっていないらしい。


「——んでここが、落し物のある場所ね」


 バスの運転手が休むとこだろうか?こんなところにあったのか。


 なんて新発見を楽しみつつ、暇ゆえのピーピングトムに徹する。


「柄まで真っ黒な()()なんですけど……」


青年は特徴を呟きつつ落とされた傘を物色する。


「んん、無いみたいだね。まぁ、見つかったら学生課の方に送っとくから帰りの時に拠ってみて」


「はい、いや、どうも。すんません付き合わせちゃって」


どうやらここにも無かったらしい。


思考の隅で気に掛けといて、見つかったら彼に教えても良いかもしれない。課題とかももう済んでる訳だし。


  ・


翌日も、翌々日も、一週間くらいだろうか?流石に運転手に聞くことは無かったが、彼は傘を探しているようだった。


別にストーキングをしてるわけじゃない。行き帰りが同じバスな所為で、いやでも視界に入るのだ。

と、そろそろ興味が薄れてきたあたりで、ぱったり彼を見なくなった。


くろいかさが見つかったのだろう。


きっと、あの時間帯のバスに忘れたから同じ時間のバスに乗っていたとかなんだろう。

なんて思いつつ生活するも、如何せん、彼の姿は大学のどこにもなかった。


ふと、頑張って早起きをし、大学行きの始発のバスに乗り、一限のぎりぎりまでバス停が見えるところで茶をしばいていたが。ついぞ彼の姿は眼には写らなかった。


一ヶ月経ちそろそろ梅雨に入る。病に臥せているのか、なんなのか。流石に早起きは一週間で限界になったが。ここまで見ないというのがよく解らない。


取り敢えず、良く知りもしない彼を心配になったので、人に聞いてみることにした。

彼について知っていることなんて一つしかない。


「くろいかさ、見ませんでしたか?」


むしゃくしゃしたので書きました。

後悔はしていません。

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