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74.戦場に咲く炎花

「おっしゃああ!久しぶりに良い所魅せてやるぜゴノヤロォォォオ!!!!」


 そう腹の底から叫んだ俺は、早速ナツキさんに最低限の指示を出す。


「ナツキさん!ここからは俺がスキを見て一気に攻め込みます!サポートできる所があればサポートお願いしますよ」


「あぁ、任された。君のスピードに合わせてみせよう」



 そう言ってナツキさんは刀をグッと握りなおして、攻撃の態勢を整える。

 だが彼女にはほとんど仕事をさせるつもりはない。ここからは俺の時間だ。



「スゥゥゥウ…………ふぅぅぅううううう!!!」



 深く大きく息を吸った俺は、目をガッと見開き、そして体の力を極限にまで抜いていく。

 これは俺の肉体の活動スピードを最大限にまで高める準備のようなモノだ。


 さぁ、そろそろいくぞ!


【タンッ】


 地面を必要最低限の力で蹴った俺は、一瞬にしてシェルドムートとの距離を詰める。

 その距離、約4m。

 だがさすがにシェルドムートも魔王軍の元幹部だ、俺のスピードに反応出来ないはずがない。


【シュババンッッ!!】


 再び俺の四方八方から、長く細い腕が一斉に襲いかかってきたのだ!

 だが今の俺は、ナツキさんからの”期待”と”愛(仮)”を受けている。この程度の状況、ピンチですらない。



「遅いなシェルドムート!お前の腕が止まって見えるよ」



 そして俺は手のひらに触れないように、腕の側面の部分を蹴り、そのまま進む方向を変える。

 そして凄まじい速度で襲い掛かる腕を器用にかわして、再びシェルドムートへと向かっていくのだった。


 だがその距離が3mほどになった所で、再び腕が四方八方から襲い掛かる。

 いや、焦るな、焦るなサン・ベネット。

 もっと意識を研ぎ澄ませろ。1cm単位でも良いから、とにかくヤツとの距離を詰め続けろ!!


 もっと早く、もっとしなやかに、もっとシンプルに…………!


 ナツキさんも、邪魔にならない程度の遠距離攻撃で援護をしてくれている。

 ヤツの腕は一瞬で生え変わるが、この一瞬一瞬のチャンスを逃すな!


 もっともっと、もっともっともっともっともっともっと………………



────



【ガシィィイ!!】


 …………ん?何だこの光景は?

 俺は意識がなくなっていたのか?今までの俺は、一体何をしていたんだ?

 とりあえず俺の右手が握っているのは、まるで木の枝のように細いシェルドムートの首であり、俺の空いている左手は何も握ってはいなかった。



「あれ、これってどういう状況?」



 理解が追いつかない脳みそをフル回転させ、俺は一つの結論を導き出す。

 それは俺の両サイドから向かってくるシェルドムートの両手のひらだ!


 とりあえず"これを避けないと死ぬ"という事だけはスグに理解できた!



「ヤバいって…………!」



 俺は右手で握っていたシェルドムートの首を離し、両手の攻撃をよけるべきだと"判断しようと"した。

 だがその判断を俺が下す、ほんの直前の出来事だった。


【スパァァアアンッ!】


 突然キレの良い刀の音が、鉱山内に響き渡っていたのだ。

 そしてその1秒後、シェルドムートの両腕が再び切り落とされている事に気付く。

 そう、今の俺のピンチを救ってくれたのは間違いなくあの人だ!



「ナ、ナツキさんっ!!」


「そのままシェルドムートの首から手を離すなサンッ!私が決める」



 そして彼女は刀の(きっさき)に魔力を込めたかと思えば、そのまま炎へと変換し始めていた。

 すると鋒の周りに、花火のような炎がボッと咲き乱れる。


 ────そこからは、まさに一瞬だった。


 鋒に咲いた花から、突然シェルドムートに向かって一直線に炎の一本線が突き進んでいたのだ。

 まるで刀から赤い花が生まれたのかと錯覚してしまうような、この美しい技の名前は…………。



一華(ひばな)



 ナツキさんの一撃はシェルドムートの腹部を貫通した所で止まり、そこから体を引き裂くようにして炎が広がっていくのだった。



────



「見事だったぞサン!百雷鳴々を使わずとも雷のような速さだった。刀を吹き飛ばされた時はどうなる事かと思ったが、そこから素晴らしい動きだったよ。いやぁ本当に素晴らしかった」



 珍しく俺に対して”本気で感心した表情”を向けているナツキさんは、右手で刀を握りながら簡易的な拍手をしてくれていた。

 そして俺はここでようやく戦いが終わったことを理解する。

 なにせナツキさんの言う”雷のような速さ”になっていた時の記憶が全く残っていないのだから。


 おそらくだが、極限まで集中力を高めた影響で、俺の脳ミソが”使う必要のない分野の機能を停止”させて、シェルドムートの高速攻撃を避けることだけに処理能力を全振りしていたのだろう。


 いわゆる”ゾーンに入る”というのは、これの事なのかもしれない。



「いやぁ。何はともあれ、最後にはナツキさんに助けられましたね。やっぱりナツキさんがいないと危険度Sランク級か、それ以上の敵を1人で倒すのはまだまだ難しそうです」


「いや、君が使い慣れた刀を使っていれば、1人でもシェルドムートに勝てたかもしれない。それぐらいに君の速さと身のこなしは素晴らしかったよ」


「もっと、もっと褒めてください!」


「いーや、最後のツメの甘さは見過ごせないな。褒めるのはこれぐらいで十分だ」


「え~~…………。普段褒めてくれないから、こういう時ぐらいは甘やかして欲しいんだけどなぁ。まぁ別にいいですけど~」



 そう言いながら俺はシェルドムートの分離した身体に視線を移す。

 ナツキさんの炎によって見事に真っ二つに焼き裂かれたヤツの身体は、最早再生など出来ずに…………。


 あれ?何かがおかしい。


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