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70.ナツキ中毒者

「テザール鉱山の抗口は、ここから北に30分ほど歩いた所にある。そこから坑道に沿って歩いて行けば、いずれ魔者と遭遇するだろう。中でも最大の脅威である魔王軍の元幹部は、おそらく最奥の探索エリアにいると思われる」



 特級鍛冶の柳さんから聞いた情報を元に、俺とナツキさんは2人でテザール鉱山の入り口へとやってきていた。

 だがすでに鉱山の入口数百メートル前から規制線のようなモノが張られており、一般人では入れないようになっている。



「誰だお前たちは?死にたくなければ立ち去れ!!」



 すると突然、規制線の前に立つ屈強な男が俺たちに向かって怒声を浴びせてきた。どうやら鉱山に入る無法者たちを追い払う役目を与えられた警備兵のようだ。

 ここは言い訳してもしょうがない。ハッキリと目的を言ってしまおう。



「まぁまぁ落ち着いて。俺たちは特級鍛冶・柳綱秀から雇われた冒険者だ。鉱山内の魔物を討伐してくれという依頼なので、ここを通してくれないか?」


「なに、柳綱秀様だと……?そんな話は聞いていないが」



 すると俺の後ろに立っていたナツキさんが、スッと右手を胸の高さまで上げ、何かを警備兵に見せつける。



「緊急の依頼だからな。証拠にはならないかもしれないが、一応私も特級鍛冶ではある。できればコレを見て信用してくれると嬉しいんだが」



 そう言ってナツキさんは、特級鍛冶にしか所持を許されないゴールドで出来た首飾りを警備兵に見せていた。

 だが首飾りとは言っても、ナツキさんはそれを身につけてはいない。普段はポケットなどに入れているようだ。



「確かめさせてもらうぞ。………うーん、確かにこれは本物のバッジのように見える。分かった、通ってもいいぞ。だがこの中で起こる事は自己責任だ!我々は一切の責任は負わないからな」


「あぁ分かっている。通してくれて感謝するよ」



 こうして俺たちは、案外簡単に警備兵の関門を突破する事ができた。”柳さんに雇われた”なんてウソ、まさか掘り下げられる事なく勝手に信じてくれるとは。


 ………とはいえ関門というにはあまりに拙い規制線しか張られてはいなかったのも事実だ。おそらく元々鉱山に入る事自体がさほど難しくないのだろうと推測できる。


 きっとその理由は一つ。

 それは”生存率が低すぎて、そもそも入ろうとする者がいない”という理由だ。


 一つ一つの事故に責任を負っていたらキリがない。だが放ったらかしにしておく訳にもいかない。

 その結果できたのが、先ほどのガバガバ警備だったように思う。


 まぁ入れたなら何でもいい。魔王軍の生き残りがいるという情報は本当なのだろうか?

 鉱山探索、スタートだ。



「柳先生の言っていた通りだな。ココに入って数秒足らずなのに、既に希少な鉱石が山のように埋まっているぞサン!」



 興奮を隠しきれない様子のナツキさんは、周りに警戒しつつも、辺り一面の鉱石を見て目をキラキラ輝かせていた。

 そう、今の俺たちはテザール鉱山の坑道へと足を踏み入れている。

 坑道は縦横10mほどしかなく、少し圧迫感で息が詰まるような空間だ。


 それに加えて、数多くの死者を出した魔物がどこから襲ってくるか分からないからな。常に左の魔眼で辺りの警戒をしなくては。



「サン、そう身構えるな。こんな浅い場所には魔物はいない。大抵は中層以降に集まるモノだよ」


「そんなモノですか?」


「あぁ。魔王討伐戦の時もそうだった。大抵鉱山やダンジョンに住み着いていた魔王軍の幹部は、皆最新部に居座っていたからな。もし今回の魔者が本当に魔王軍の生き残りだったとしたら、今回も最奥にいる可能性が高いだろう」


「さすが、経験値が違うぜナツキさんっっ!!」



 俺は尊敬の眼差しをナツキさんに向ける。だが彼女は周りの希少な鉱石に夢中で、俺の視線には一切気付く事はない。

 あぁ!少し寂しいけど、でも楽しそうならOKです!



「サン、別れ道が見えてきたぞ。右と左、どうするか…………」



 すると早速ナツキさんが坑道の変化に気付いた。彼女の言う通り、俺たちの先に続く坑道は二手に分かれているようだ。

 これはもちろん、2人一緒に同じ道を…………。



「よし、二手に分かれるぞ。私は右を行くから、君は左を頼む」


「えぇ!?なんでぇ!?一緒に行きましょうよぉぉ!!?」



 俺は思わず叫んでいた。もう最奥まで響き渡るほどに叫んでいた。

 さすがのナツキさんも、俺の声量にドン引きしているレベルだ。



「なんでって………。それは分かれた方が効率がいいだろう。君だって弱くないんだ、1人でも問題はないだろう」


「ありますあります大アリですよ!?ただでさえ狭い坑道で怖いのに、ナツキさんの顔まで見れなくなるなんて死んじゃいますよ!?いいんですか死んでも!?」


「おいおい、私は子供と結婚したのか?腹を括れサン!私はお前の母親ではないんだぞ!?」



 そしてとうとうナツキさんは、右の坑道へと進み始めていた。

 まったく、甘く見られているな。俺は重度のナツキ中毒だぞ?この程度で折れる訳なかろう。



「嫌だ嫌だ!うわぁあああああああああんん!!俺も一緒に行くぅぅぅううう!!」


「………………」


 1分後


「うぅ、あんまりだ」 



 結局のところ、俺はナツキさんに引き剥がされる形で二手に別れさせられていた。

 うぅ、もう隣にナツキさんがいないなんて酸素が無いのと同じやん。死ぬしか無いやん。


 あっ、なんか魔獣3体が襲ってきた。

 とりあえず狩ろう。柳さんが貸してくれた大利刀(だいりとう)ランクの刀を使って狩ろう。


 危険度Aランクのカトブリンパス3体か。体長8mぐらいか?

 グニョグニョと長い胴体に、赤く濁った一つ目がギョロッと俺の方を見ている。



「グギヤァァァアア!!」



 汚い鳴き声だなぁ。確かカトブリンパス2体に襲われたクローブ大陸の一国は、ものの8時間で壊滅させられたって話を聞いた事があったな。


 はぁ、それはそうとナツキさんの声が聞きたい…………。

 あ、あぶねっ。コイツ訳わかんない液体吹いてきやがった。


【シュパァンッ】


 とりあえず3体の首を落とした。赤い血が壁一面に飛び散っている。

 はぁ、それはそうとナツキさん大丈夫かな?俺がいなくて泣いていないだろうか?


 あ、また何かが来たな、次は人型の魔者だ。

 パッとみ危険度Aランクだが、スキルによっちゃSランクもありえるかな……。


 それはそうと、ナツキさんの今日の服可愛かったなぁ。初めて見る服だったけど、スタイルがいいから何でも似合うんだろうなぁ。今度一緒に服も買いに行きたいな。



「何者だキサマ、カトブリンパスを一太刀で仕留めるなど聞いた事が……」



 汚い声だなぁ。ナツキさんの声を脳内で再生してるのに、いきなり話しかけてくんなよぉ。

 あ、あぶねっ。コイツ手から高速の溶岩を放って俺を溶かそうとしてきた。


【シュパァンッ】


 とりあえず俺は高速で迫る溶岩を避けた後、手に馴染まない刀で魔者の首を切り落としていた。

 はぁ、それはそうと昨日の酔ったナツキさん可愛かったなぁ。ゲロ吐かれたけど、弱気なナツキさんも悪くなかったんだよなぁ。



 はぁ、何かナツキさんの事だけ考えてたら結構奥まで来ちゃったな。何か魔獣とか魔者を倒したような倒してないような、よく分からない気持ちだ。でも多分ケガはしてないから、誰とも戦ってないんだろうな。

 はぁナツキさんナツキさん、早く会いたいです。そちらのルートも安全でしょうか?



「って、あれ?」



 気付けば俺の視線の先には、これまでの狭い坑道とは全く違う広い空間が広がっていた。見るからに装飾されている様子の壁や床は、まるで王が鎮座しているような…………。



【ゾクゥ……!】



 その瞬間、俺の背中に悪寒が走る。これは何度も経験してきた”死”の感覚だ。

 もちろん原因は分かっている。それは目の前の玉座らしきモノに座っている魔者を見てしまったからだろう。



「どうやらこっちのルートが”当たり”だったか」



 俺はナツキさん中毒から一旦離脱し、握り慣れない刀の(つか)を強く握りしめるのだった。


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