表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/119

62.旦那には言えない秘密

 俺たちは早々に旅の準備を済ませ、早くもカルマルの町を出る体制を整えていた。

 冒険者からすれば旅なんてモノは日常の一部だ。上位ランクであればあるほど、例え長旅であろうと準備はサッと終わらせる事ができる。



「それじゃあ俺はハルネさんに挨拶だけしてきます。沢山お世話になってし、お土産も買ってくるって伝えておきますよ」


「あぁ、じゃあ私も一緒に行くよ。お世話になったのは私の方だからね」



 ハルネといえば、この町で生鮮食品を扱う店を営む老婆のことだ。

 彼女は昔クローブ王国で働いていた上に、今でも貴重な”ステータス開示”の魔眼スキルを持っている。


 そして何より町に根付いていた"ナツキさんが赤竜の女王"だという誤解を解いてくれた恩人でもある。

 できる限りのお礼はしなければいけないという部分は、どうやら俺たち2人の共通意識として合致していたようだ。



「ハルネさん、いる~?」



 旅の格好に着替えた後、俺たちはその足でハルネさんの店へと赴いていた。

 あいかわらず暗い店内だが、扱っている食品はどれも鮮度のいいモノばかりだ。



「その声は…………サン・ベネットか。そうか、やっと目覚めたんだね。今日は何を買いに来たんだい?」


「おぉ、久しぶりハルネさん。色々と助けてくれてありがとうね!実はこれからまた旅に出る事になったから挨拶をしにきたんだよ。まぁしばらくすれば戻ってくる予定だし、その時はお土産も買ってくるね」


「そうかいそうかい、わざわざソレを言いに来てくれたのかい。若い内は色んな景色を見て、色んな経験をするべきじゃ。死なない程度に冒険してきなさい」


「ありがとう!俺たちもカルマルで鍛冶屋をやる事に決めたから、またその時は色々と相談させてね?」


「ふん、売上の8%をコッチに流してくれるなら考えてやらんこともないよ」



 そう言ってハルネさんは悪い笑顔を浮かべていた。だがそれとは正反対の温かい目は、俺達をいつも安心させてくれる。

 ………しかしこの商売根性、さすが王都で働いていただけの事はあるな。シッカリお礼はしないと怒られそうだ。、



「じゃあ気をつけて行って来るんだよ。あんたらが死ぬと町のみんなが悲しむよ」


「ありがたい事だね。でもナツキさんがいるから大丈夫だよ。なにせ世界最強の冒険者なんだから!」



 するとすかさずナツキさんが口を開く。



「サンよ、自分の身は自分で守れ。もう私は助けないぞ」


「えぇ、急に突き放された……!!」


「くだらない事を言いに来た訳じゃないだろ。ほら、挨拶を済ませたならとっとと出ていってくれ。私は1人でハルネさんにお礼を言いたいのだ」



 そしてナツキさんは俺の服の襟を掴み、そのまま俺を赤子のように店の外へポイッと放り出すのだった。


 まったく、なんと酷い扱いなのだろうか!?今度作る料理には、ナツキさんが苦手な野菜を3割増しで入れておいてやろう。


 だがそれにしても、1人にならないとお礼を言えないなんて、ナツキさんも相変わらず子供っぽいなぁ。恥ずかしがらずに俺の横で言えば良かったのに……。


────


「なんじゃ?1人にならんと言えない感謝など、ワシがされる覚えはないぞ?」


「…………サンには聞かれたくなかったのだ。彼が寝ている間に見てもらった”神力”についての事だからな」


「あぁ、どうせそうだろうと思ったよ。ワシのスキルで見た嬢ちゃんの”神力の割合”の事じゃな」


「そうだ。今はどうなってる?」


「…………残念ながら神力の割合はさらに減っておる。つまりは魔力に対する抵抗力も弱っておるという事じゃ。強い悪魔族の技を直に受けた影響じゃろう、前に見た時よりも遥かに速いスピードで神力が減っておるな」


「そうか、そうだろうな。ありがとうハルネさん、より気を引き締める決心ができたよ」


「旦那には言わんのか?」


「あぁ、心配をかけたくないからな。サンは病的に私に好意を寄せている部分がある。もし言ってしまえば、旅を中止にしかねない」


「そうかい……。とにかく無茶な戦闘方法だけは避けるんだよ」


「肝に銘じておくよ。きっとすぐに忘れてしまうだろうがね」


「まったく、強き者の悪いところじゃ。気をつけて行くんだよ」


────


 カランカラン……


 乾いたベルの音が響く。ようやくナツキさんが店から出てきたようだ。だがその表情はいつもより少し真剣に見える。



「なんの話をしてたんですか?」


「心配するな、君の悪口を言っていただけだ」


「え、もう離婚危機って事?」


「最後の旅になるかもな」



 そしてキョトンとする俺をよそに、ナツキさんは迷いなく旅の一歩を踏み出していた。

 まぁこんな冗談を言えるような機嫌なら、ちゃんとハルネさんには感謝を伝えられたみたいだな。よかったよかった。


 え、よかったよね?アレ…………?



「………え、本当に冗談ですよね?俺、結構メンタル弱いから5時間ぐらい引きずりますよ?」



 こうしてナツキさんの適当なウソの影響で、俺は旅の目的地である【城塞都市テザール】への道のりが少しだけ長く感じるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ