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53.素材集め中毒

「ナツキさん、とりあえずカルマルに戻りましょうか?」



 戦いを終えた俺は、ナツキさんに対してカルマルの街に戻る提案をしていた。


 一応街には防衛団と若い冒険者3人がいるので、取り返しのつかないような混乱状態にはなっていないと思う。

 とはいえケガ人は出ているはずだからな、俺が街に竜を呼び込んでしまった以上、最後まで責任を持って対応しなくては。


 ………だがナツキさんは予想外の返答をする。



「少し待ってくれベネット。アテラの素材を少しだけ貰っていこうと思うんだ。コレは最高級の刀の素材になるぞ?」


「ナツキさん、刀鍛冶中毒の悪い所出てますよ!?神の剣竜から素材なんて取ったらバチ当たりますよ!?」


「わ、私が倒したんだぞ?どう扱うかは私に権利があるとは思わないか?」


「………思わないって言ったら?」


「君を素材にしよう」


「よし、アテラごめん。ありがたく素材に使わせてもらいます!」



 まったく、刀のことになると一切周りが見えなくなってしまうナツキさんの悪いクセだ。

 いずれ本当に俺が素材にされてしまいそうでヒヤヒヤするよ……。



「案ずるな、私だってアテラに敬意は持っている。少しだけウロコと血液、足のツメをもらうだけだ。必要以上に痛めつけるような事はしないよ」


「もう好きにしてください!まだ俺には何の素材が最低限必要なのかとか分かんないんで!!」


「何を怒っているんだか……」



 そう言ってナツキさんは、首のなくなったアテラの死体から素材を回収し始めていた。


 とはいえ彼女の言葉にウソはない。

 丁寧に、そしてキレイに、アテラの体から様々な素材を回収していたのだ。


 必要以上に傷をつける事なく、最大限の敬意を払った上での作業だったように俺は思う。



「よし、あとは王都の知り合いに死体の回収は任せようか。きっと彼の帰るべき場所は王都のはずだからね」


「そうっすね。あとは任せましょう」



 そして俺たちはゆっくりとカルマルの方角へと歩き出すのだった。

 様々な色の灯りがキラキラと輝く、温かい街が俺たちを待っているのだから。


────


「ベネットさーーん!!リードさんーーん!!無事でしたかぁーー!?!?」

「凄い、本当に帰ってきた……」

「ふぇぇ……ドラゴンって倒せるモノなんですかぁ……?」



 カルマルが間近に迫ってきた頃、正面から3人の人影が近づいてきていた。

 どうやら俺が夕飯をおごった若い3人の冒険者のようだ。



「おぉ、アクタ・リジェ・メイジー!お前らも無事だったか!!街の方はちゃんと守ってくれてたか?」


「もちろんです!防衛団の人達もいたので死人は無しです!!」


「よーしよし、よくやったぞお前ら!おかげでドラゴン退治に集中できたよ」



 するとそれを聞いた魔道士のメイジーは、相変わらずの震えた声で呟く。



「ベ、ベネットさん。身体中が血だらけじゃないですかぁぁ……?それに右手と左足なんて、もう焼け焦げてしまってるじゃないですかぁ……!?」


「え?あぁ、確かに感覚は無くなってるね……。でもこれぐらいなら大丈夫だよ、食って寝たら治る!!」


「治し方が原始的すぎますぅぅ~……!」



 傷口を見て涙を浮かべるメイジーだったが、彼女はそこで終わらなかった。

 なんと右手に持つ長い杖に魔力を込めたかと思えば、そのまま俺の体に向かって魔法を放ったのだ!



【ヒ、ヒーリングッ!!】



 すると驚く事に、俺の肉体は回復の兆しを見せ始めていた!

 もちろん感覚の無くなっていた右手と左足も少しだけ動かせるようになり、気付けば両足で立てるまでに回復していたのだ。



「す、凄いじゃないかメイジー!回復魔法なんて簡単に習得できるモノじゃないぞ!?

 それに君はいち早くアt……ドラゴンを見つけていたし、本当に素晴らしい冒険者になると思うよ」


「そ、そんな!?恐れ多いですぅ……」



 そう言いながらも、メイジーは嬉しそうに顔を赤くしていた。実際彼女が優秀なのは本当のことだ。彼女のおかげで身体中の痛みに耐えながら歩く事も、ここで終わりにできそうなのだから。


 ……しかしここで剣士のアクタが、とうとう我慢できない様子で叫びだす。



「あの!そろそろカルマルの街の人達にも会いませんか!?みんな街のために戦ってくれたお2人の事を心待ちにしていましたよ!!」


「どうしたアクタ、急に大きな声を出して……。でもお前の言う通りだな、とりあえず街の様子は確認しておきたい」



 だがそこで俺は気付いた。

 少し後ろを歩いていたナツキさんの様子がおかしいという事に。



「ナツキさん……?」


「……あ、あぁ、大丈夫だ。カルマルに行くんだろ?私はここで待っているよ」


「もしかして、まだ赤竜の女王って呼ばれる事を気にしてます?」



 するとナツキさんは、ゆっくりと首をタテに振っていた。

 どうやらこの数年、カルマルの人達にずっと”赤竜の女王”と呼ばれ恐れられてきたトラウマは相当深いようだ。


 でも……。



「大丈夫ですナツキさん、俺がちゃんと説明します!それに実際、街の人達はさっき倒したドラゴンを”赤竜”と思ってる様子だったんで、それを倒したのがナツキさんだって言えば大丈夫ですよ」


「だが私が倒した証拠など………あっ!」



 その瞬間ナツキさんは気付いたようだった。

 彼女の右手に握られている茶色い袋に入ったアテラの素材が、何よりの証拠になるという事に……。




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