48.炎滅
魔力の限界は近かった。
おそらくコピースキルを複数発動させた事によって、一気に魔力の限界が近づいていたようなのだ。
こうなれば長期戦は不利、出来るならば一撃で決めるしかなさそうな展開だが……。
「攻撃する武器が……無いッッ!!」
そう、俺の愛刀・百雷鳴々は既に粉々に砕け散っていた!
でも言い方を変えれば、あの時に中途半端に使い切らなかった魔力のおかげで、今の俺は何とか生きているのだ。
とはいえ俺にとって最強の必殺技でも倒しきれなかった剣竜アテラ。
そんな化け物を、果たして刀無しでどうやって倒すんだ……?
魔力強化した素手でイケるか?
いや、いくらなんでも無理が過ぎるだろっ!?
かといって魔術は大の苦手だし、できる事はやっぱり肉弾戦しか残ってないという絶望……。
しかもそんな事を考えている内に、仮面男も何かを決心してしまったようだ。
「あぁ、もうこうなってしまっては出し惜しみは無しですアテラッ!ナツキ・リードの為にとっておいた神力も使って、確実にサン・ベネットを殺します。その後に一旦出直す事にしましょう」
えぇ~……?
まだ本気出して無かったのぉ……?
刀があれば善戦できたかもしれないけど、これまでよりさらに激しい攻撃を素手で対応なんて出来ないっすよ?
せっかく3つ目のスキルを手に入れたっていうのに、このまま何も出来ずに無駄死になんてゴメンだ。
考えろっ!頭を回せっ!まだ今の俺にできる事は絶対にあるはずなんだ!!
一度拾った命、絶命する瞬間まで希望を捨てるなサン・ベネット!!
「アテラ、全てを消し去りなさい!!出し惜しみなど不要ですっっ!!」
【ガァ……ア……ガァァアアアア!!!】
するとアテラは大きな翼を発光させていく。
そして翼自体を砲台のようにして、閃煌と見られる光線を周辺に放ち始めたのだっ!
「む、無差別攻撃かよッッ……!?」
翼をバサバサと動かしながら、360度に渡って閃煌を撒き散らすアテラ。
敵にこんな事を言うのはダメかもしれないが、正直この光景は美しかった。
夜の暗闇を切り裂くように辺りを破壊していく閃煌とアテラの姿は、まさに”神の剣竜”の名に相応しい美しさと気高さがあったのだ。
……って、見惚れてる場合じゃねぇだろ!?
避けろ、避けろ俺!こんな高密度の攻撃(しかも神力由来)に当たってしまったら、回復スキルでも間に合わないダメージになってしまうぞ!
仮面男の攻撃だって強力だ。全て避けろ、避けるんだ。
何とか避けながら、次の一手を考えるんだ。
【ガァアアア!!】
「この虫めがっ!とっとと国のために死になさいっっ!!」
気圧されるな、絶対に逆転の糸口はある!
俺が生かされたのには、絶対に理由がある。
だから諦めるな、脳を回し続けろ。
絶対に何か、何か希望の一手が………!
”ユラァ……”
その瞬間、俺の左目に何かが映ったような気がした。
左目には、元々持っている魔眼スキル【魔力感知・解】がある。
「この魔力は……」
あぁ、これは勘違いじゃ無い。
間違いなく俺の左目には、ドンドンと大きくなる魔力が映っている。
もちろんそれは仮面男の凶悪な魔力とは別の、温かくもトゲトゲとした強大な魔力だった。
「どうやら俺が戦う必要、なくなったかもな……」
────そう呟いた直後だった。
「炎國喪帝斬」
それは夜の平原に小さく響いた女性の声。
凛として艶のある声だったが、そんな彼女から放たれたと思われる”炎の斬撃”は、体長100m超のアテラの身体に向かって勢いよく襲い掛かっていたのだ!
アテラの体長8割程に匹敵する大きな斬撃は、まるで”炎で出来たの三日月”のような形をしている。
まさに国を一瞬にして灰に変えてしまうような、そんなレベルの強大な攻撃だったのだ。
【ズゥォォォオオンッッ!!!】
そしてその炎撃が近づいてくる事に気付いたアテラも、咄嗟に炎撃を避けようとしていた。
だが大きさだけではなく速さも兼ね備えていた炎撃は、とうとうアテラの背中に付いている左の翼へと直撃し、見事にソレを切り落としているのだった!
先ほどまで閃煌を撒き散らしていた大きな翼も、今となってはただの”翼だった”モノ。
戦況が大きく変わるのは明白だった。
「一撃で決めるつもりだったのだがな。思ったより手強そうだ」
そして強大すぎる炎撃を放った女性は、熱の残る刀をブンッと振りながら呟く。
そう、彼女こそまさに魔王を葬った伝説の冒険者……。
「炎滅のナツキ・リード………!?」
「薄汚れた口で気安く私の名を呼ぶな、仮面の者よ」
俺の見た事のない形相を浮かべるナツキさんが、そこには立っていた。