41.第2ラウンド
「ぶっっっっっ飛べぇえええ!!!」
俺は魔眼スキル【魔力感知・解】とは別の”2つ目のスキル”使って、アテラ達を思いっ切りぶん投げていた!
そのスキルの名は【重量知覚軽減・解】
文字通り、触れたモノの重量を本来の重さよりも軽く扱えるようになるスキルである。
だがこのスキルの肝はあくまでもスキル所有者だけが軽く感じるようになる事だ。
つまり言い換えると、実物の重さ自体は一切変わらない。
いわば俺だけにしか感じられない架空の重量を操れるようになるのだ。
ちなみにスキル解放は終わっているので、感じる重さは本来の1,000分の1。
……仮に剣竜アテラの体重が200トンだったとすれば、俺はアテラを実質200キロの重さで思いっきり投げ飛ばす事ができる!
洗練された俺の魔力肉体強化を踏まえれば、200キロの物体を投げ飛ばすのは容易な事だからな(正直ちょっとだけ重いけど)
さぁ……このまま街の外までぶっ飛んでいけ剣竜アテラよっ!!!
◇
「なんだ!何をされたのですアテラッ!?」
突然アテラが凄まじい速度で移動を始め、仮面男は何が起こったのか理解できていない様子だった。
それもそのはず、仮面男の位置からではアテラの腹部に入っていた本体の俺の姿は見えない。
まさに奇襲に近い投げ飛ばしになっていたのだ。
……まぁ普通は刀剣とか魔法の技を使うと思うよね。
まさか人間が100mのドラゴンを投げ飛ばすなんて予想出来ないよね。
ま、それも含めての奇襲だったんだけど。
「クソ、アテラ止まりなさい!翼を大きく動かして止まるのですっ!!街から離れるなっ!!」
【ギュゥオオオオオ!!!】
一瞬にして遠くへ投げ飛ばされていくアテラだったが、さすがに仮面男の指示に従って大きな翼をバサバサと動かし始める。
徐々にスピードは落ちていき、再びカルマルの街へ戻る体勢を整えようとしているようだ。
だが俺がそれを悠々と見過ごすはずがない。
スグに雷の分身達を消滅させ、再び愛刀・百雷鳴々に魔力を込める。
そして鋒の1点に集中させた雷のエネルギーを、アテラに向けてここぞとばかりに解き放った!
「雷突ッッ!!!」
────刹那
光のような速さで鋒から放たれたのは、一直線に伸びる雷の線だった。
美しくブレる事のない直線の雷撃は瞬時にアテラの元へと届き、そして……。
【グゴァアアアア!!!!】
体勢を整えようとしたアテラを、さらに奥へ奥へと突き飛ばしていくのだった!!
まさに追撃一閃。
今後一切カルマルの街に近づけないという意志を証明するような一撃だった。
◇
「さぁ、ここからが本当の勝負だな」
俺は再び体に雷を纏い、高速でアテラの元へと向かう。
そこはカルマルとチーリン山脈の間に位置する広大な草原。
陽が沈んでいるので分かりにくいが、俺の雷によって照らされた地面には綺麗な植物が沢山生えていた。
「死ぬには最高の場所じゃん、良かったな仮面野郎」
「クソ……クソクソクソッ!!街から離しただけで調子に乗るなよサン・ベネットォォ!!!」
────さぁ、第2ラウンド開幕だ。
◇
俺はここまでの戦いで気付いた事があった。
それは魔力感知スキルを持つ俺が、コイツらから魔力を感じなかった原因だ。
「アテラの背中に刻まれていた薄い魔法陣。きっとアレが原因だな」
そう、雷分身で攻撃をしていた時に目に入ったアテラの背中。
そこには見えにくいようにカモフラージュされた強力な魔法陣があったのだ。
おそらくあの魔法陣を刻んでいるのは仮面男。
アテラを誰にも見つからず自由に行動させる為に、きっとヤツが事前に作っていたのだろう。
……とはいえここまでは全て憶測だ。
実際に魔法陣を破壊してみない事には、真相は分からない。
「雷身兵団ッ!!」
俺は再び雷の分身達を発現させる。
これだけのサイズの敵だ、1人で戦うには作戦面で限界があるからな。
「クソ、また鬱陶しい分身ですかサン・ベネット!?
アテラ、早くこんな虫など消し去りなさいっっ!!なんの為にわざわざ復活させたと思っているのですかぁ!?」
最初に比べて余裕の無くなり始めた仮面男が、アテラに攻撃の指示を出す。
だがあまりにも雑な指示だ、アテラは特に考えのないまま口の中でエネルギーを集中させる。
おそらく最初に放ってきた閃煌という強力な固有ブレスを放つつもりだろう!
だけど……。
「もう当たらないって、そんな大技!」
俺は再び分身に紛れて分散し、アテラの周りを高速で移動し続けていた。
閃煌はとてつもない威力だが、放つ際の準備時間は長く、攻撃も口から一定方向にしか放てない。
つまり周りを飛び回って狙いを定めさせなければ、特別恐い攻撃ではないのだ!
ましてやここは街から数キロ離れた広野、市民が巻き込まれる心配もない。
【キュィィイイン……ドガァアアアン!!!】
「どこに撃っているのだアテラァ!!この使えない神竜め……!」
案の定アテラはまったく別の方向へと閃煌を放ち、俺にはカスリもしていなかった。
そしてようやく出来た大きなスキを、俺は絶対に逃さない。
「雷身兵団!一気に攻め入れッッ!!!」
俺は数体の分身を率いて、一斉にアテラの背中へと集結していた。
そして分身達を百雷鳴々にギュゥ……と吸収し、そのまま勢いよく背中に向かって電撃を放つっ!!
「雷突ッッッ!!!」
再び鋒から放たれた一直線の雷突は、ズレる事なくアテラの背中の魔法陣にピンポイントで直撃していた!
【バチバチィィィィイ!!!】
そして間違いなく魔法陣の一部は完全に消し飛び、俺の予想通り”隠されていたアテラの力の源”が、とうとう世界へと溢れ出すのだった。
────それが絶望の始まりだとも知らずに。
「………なんだよ、この感覚は!?」