37.厄災、飛来
カルマルは比較的小さな街だ。
しかし旅の冒険者に向けた商業を筆頭に大きく発展しつつあるおかげか、夜の人通りも少なくない。
「子供もいるしホント良い街だな。貧困の差も少ないし、過ごしやすそうだ」
そう1人で呟きながら歩いている俺は、市場で食材を買った帰りだった。
さすがにほとんどの露店が店じまいをしていたのだが、数少ない残り物を買わせてもらった。
まぁ腕一杯の量にはなったので、小屋に帰っても2日ぐらいは持つかな?
俺は大食いだから、チーリンの山で魔獣も狩る予定だけどね。
「おーいお前ら、少しはラクになったか~?」
そしてようやく俺は若い3人の冒険者の元へと戻っていた。
1時間弱ほどの買い物だったが、どうやらその間に彼らも多少顔色はマシになっているようだ。
「ベネットさん、おかえりなさい」
剣士アクタが俺に語りかける。
他の2人も、何とか普通に話せるぐらいまでには回復していそうだ。
「どうだ、デザート食える様になってきたか?俺は既に腹が減ってきたぞ?」
「うっ……もう勘弁して下さい……今度お会いした時に、もっと食べられる様になっておきます……」
「ハハッ、じゃあ期待しているよ。今度は俺の全財産を使わせてくれよ?」
既に夕飯を消化してしまった様子を見せた俺に、3人は若干引いている様にも見える。
まぁ確かに体の大きさ自体はそんなに大差はないもんな。驚く気持ちは分からないでもない。
けど次に会った時には、俺が驚くぐらい成長していて欲しいものだ。
「…………」
だがこのタイミングで、俺は魔導師メイジーの様子が変わった事に気付く。
少女らしいキュルンとした瞳と、少し青みがかったショートヘアーが印象的な可愛らしい子だ。
「メイジー、どうかしたか?」
俺は彼女に問いかける。
なにせ彼女は遠くを見つめたまま、しばらく動かなくなっていたのだ。
方角的には、ナツキさんの帰ったチーリン山脈の方か?
「いやぁぁ……アッチの山の方から何か飛んできているように見えたのでぇ……」
「何か飛んできた?どれだ?」
そう言って俺はメイジーが指差した方向を見上げる。
うーん……別に暗くなった空と、少しだけ見えるチーリン山脈の影しか見えないが……。
……あれ?
違う、確かに何か点のようなモノが動いて見えた。
だけど俺の魔眼【魔力感知・解】には、何も魔力は映らない。
という事は、誰かが気球か何かを空に何かを飛ばしたのかな?
こんな時間にどうして?謎は深まるばかりだ。
「まぁ多分大丈夫だろ、少なくとも魔物でない事は確かだ。
それよりも、そろそろ解散するか?お前たちはカルマルに泊まっていくんだろ?」
「そうですね!もう日が完全に沈んじゃったし、ここに泊まる事にします!」
そう元気に答えるアクタ。
盾のリジェも、彼に同意するように首をタテに振っていた。
……だが相変わらずメイジーだけは空を見つめたままだ。
不安そうに謎の物体から目を離さない。
「いやメイジーちゃん、そんなにアレが気になるかね!?大丈夫、俺の帰り道の方角だから、ちゃんと確認しておくよ」
だがそれに対してメイジーは、とうとう手を震わせ始める。
ドンドンと顔は青ざめ、呼吸のスピードも上がっていく。
━━━━そして震える声で、とうとう厄災の飛来を告げるのだった。
「ちち、違います……!あれは……あれは……ドラゴンですっっ!!!!」
それを聞いた俺は、驚きのあまりグッと目を見開く。
いやいやまさか、まさかね。
とりあえずもう1度だけ物体の方を見てみるけど……。
【バサァ、バサァ……!!】
あの物体は、先ほどまでより確実に”距離が近く”なっていた。
それはハッキリと視認できるほどの距離までに近づいており、まるで翼のようなモノを大きく上下に動かしていたのだ。
……いや、翼のようなモノではない。
あれは間違いなく翼だ。
「嘘だろ……?」
確実にカルマルの方角へと向かってくる大きな大きなドラゴンと、俺は目があったような気がしていた。