35.不審者
「おーーい!!君たちどこ行くのー!?」
俺の呼びかけに反応した若い3人の冒険者は、その場で足を止める。
だが夕日を背負って近付いてくる俺を見る視線は、かなり警戒しているようだ。
そりゃそうよね。ここは優しく優しく……
「ねぇねぇ、どこ行くの?俺はカルマル行く所なんだけど、君たちは冒険者か何かかな??」
俺はできるだけ笑顔で彼らとの距離を詰める。
だがなぜかリーダーっぽい男の子は、背中の剣に手をかけていた。
え、俺そんな怖いかな?
クローブ王国で1番優しい笑顔(自称)だと思うんだけどな……。
「だ、誰だアンタ!!それ以上近づいたら……き、切るぞ!!?」
「アクタ、そのまま警戒しろ!盾の俺が前に出る!!」
「わ、私はどうすれば……?とりあえずバフはいつでもかけれるよ……」
こうして3人の若者冒険者は、教科書通りに陣形を組んでいた。
焦らずシッカリと体勢を整えるその姿勢、エライッッ!!
それだけで生存率はグッと上がるからね!
━━━いや違うだろ俺っ!!
メチャメチャ魔者だと思われてるじゃん!?
俺そんな不審者か!?
急に知らない人が後ろから話しかけだけじゃん!
「ベネット、ちょっと下がれ……」
すると呆れた様子のナツキさんが、とうとう俺の後ろから声をかけてきた。
さすがにこの状況を見かねた様だ。
「驚かせてすまないね君たち。別に私たちは敵じゃないんだ。辺境に暮らす元冒険者なんだよ。この辺りで若い冒険者を見るのが珍しくてね、つい話しかけてしまったんだよ」
「あぁ、そういう事ですか……」
ナツキさんが優しい笑顔で語りかけると、彼ら3人はようやく警戒を解いていた。
その聖母のような笑顔、普段俺には全然見せてくれないのにね。
初対面の若い冒険者には見せちゃうんだ。ふーーん。
「……なんだベネット、何か言いたそうだな」
「別に。助けてくれてありがとうございました!!?」
「なにを怒っているんだ、まったく……」
引き続き俺に対しては呆れた様子のナツキさんだったが、それを遮ったのはリーダーっぽい男の剣士だった。
「……え?今ベネットって言いましたか?元冒険者のベネットってもしかして……雷霆のサン・ベネットさんですか!?!?」
「え?何で知ってるの?」
「あ、当たり前じゃないですか!!クローブの剣士にとって、サン・ベネットさんは憧れの存在ですよっ!?
攻撃が早過ぎて、何が起こったのか分からない内に戦いが終わってしまう。まるで雷の様な早さと強さを兼ね備えた最強の剣士が故に、雷霆のサン・ベネット。
お会いできて光栄ですぅっっ!!!握手してくださいぃぃい!!」
「あ、ありがとう……。君メッチャ早口だね」
さすがの豹変ぶりに驚いた俺は、若干引きながら握手に応じる。
まぁ尊敬していると言ってくれているので、悪い気はしないけどね!
「すごい、本物だ……」
「ふぇぇ……オーラがすごいよぉ……」
そしてどうやら後ろの2人も俺の事を知ってくれている様子だった。
盾の少年は羨望の眼差し、魔導師の少女は緊張の面持ちに見える。
よし、とりあえず握手するか。
「ありがとうございます!!」
「うぅぅ手が硬いぃぃ……」
ふっふっふ、どうですかナツキさん。
あなたの旦那、結構有名人みたいっすよ?
「……なんだベネット、その顔は」
「ただのドヤ顔です~。は~、有名過ぎてごめんなさい~」
「なんとも腹の立つ顔だ……」
結構辛辣な言葉を吐いたナツキさんは、改めて場を整える。
「改めてにはなるが……君たちはカルマルの街に行くのか?」
すると剣士の少年が意気揚々と答え始めた。
「はいっ!難しいCランクのクエストをクリアしたので、料理が美味しいって聞いたカルマルに寄っていこうって話してたんですっ!!!」
「そうか、いいパーティーだな」
「もちろんですっ!俺たち小さい時から一緒に過ごしてきたんで、チームワークも最強っすよ!!」
そうキラキラとした笑顔で答える剣士の顔は、まさに未来への情熱に満ち溢れている。
いいねぇ。あんな時期が俺にもあったら、もっとここまでの人生楽しかったかもなぁ……。
……いやいや、これからそういう人生を歩んでいけばいいだろ!
ナツキさんと一緒だから、きっと大丈夫だ。
「よーーっし!じゃあ今日は元Sランク冒険者の俺が、お前らに沢山奢ってやるぞぉおおお!!好きなモノを好きなだけ食って良いぞぉぉおお!?」
「「「やったぁあああ!!!」」」
こうして今日1番の歓声をあげた若者3人は、嬉しそうに街へ向かう俺の背中に着いてくるのだった。
「まったく、これだから男は……」
そう言うナツキさんの顔も、少しだけ嬉しそうな苦笑いに見える。
さぁ、カルマルの街の食材を全部食い尽くしてやるぜっ!!!
持ってくれよ、俺の財布ッッッ!!!