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29.団長は忙しい

「ファッハッハー!我、完全復活なりぃぃいい!!!」


 先ほどまで右半身が傷だらけだったアスロット(ゴリラ)は、今となっては綺麗な体に戻っていた。

 あれは彼の持つスキルの1つ、【身体回復・解】のおかげだろう。


 解放前であれば、大体”初級回復ポーション”程度の回復力を持つスキルだが、彼のような解放状態になってしまえば常に体には”最上級ポーション”が流れているような状態へと進化する。


 軽い内臓損傷ぐらいなら数分で完治する、まさに歩くポーションとでも言っておこうか。

 俺はアイツのこと、話せるゴリラとしか思ってないけどね。



「この刀、次の戦いまでにシッカリと使いこなせる様にならんとなぁ!

 下手をすれば、戦う前にワシが死んでしまうわ!ファーハッハ!!」



 とりあえずアスロットは元気そうだった。

 相変わらず彼の黒い刀は禍々しい魔力を纏っているが、最初に比べれば幾分かマシにはなっている。


 悔しいがアスロットは強い。俺が認めるだけの実力を持っている。

 きっと数日もあれば、あの刀すらも服従させてしまうのだろうな。


 ……なんて事を考えていると、刀の作者・ナツキさんも口を開く。



「気に入ってもらえて何よりだ。

 なにせ使っているのは危険度Sランクのハグれ龍・嵐天龍だけではない。ベネットと共に回収したAランクの魔者の素材も使っているからな。おそらく君のような魔力量を持つ戦士でしか扱えないだろう」


「フンッ!使いこなせた時が楽しみだなぁ!?ベネットも素晴らしい刀を作る手助けをしてくれたのだな。感謝するぞ!」

 

「お前が素直に感謝するなんて、何か恥ずかしいな……」



 こうして俺は苦笑いのような、照れ笑いのような、どちらにも見えるような顔で笑っていた。



「そういえばアスロット、さっき”次の戦い”って言ってたよな?また何か始まるのか?」


 お互いに帰り支度(じたく)を始めた時、俺はアスロットに向かって質問をしていた。

 もう冒険者を辞めた身とはいえ、やはり騎士団長が出るほどの大きな戦いには興味があるのだ。



「あぁ、始まるぞ。お前にも関わり深い”第2次悪鬼(あっき)討伐戦”がなぁ!」


「悪鬼討伐……!」



 知っての通り”第1次”の悪鬼討伐戦で仲間を守った俺は、見事に王都を追放されて冒険者の資格も失った。

 そして取り逃した悪鬼頭領は、いまだに拠点である【セイリュウ国】において戦力を整えていると聞いていた。


 その悪鬼族を、彼らグローブ騎士団が再び討伐に向かうというのだ。



「……元Sランク冒険者の俺がいなくても、倒せる見込みはあるのか?」


「それに関しては、今ハッキリと伝えておこう」



 するとアスロットは大きく息を吸って、俺の質問に再び答え直す。



「分からんっっ!少なくともベネットのSランクパーティがいない状態では、かなり作戦として頼りないのが現状だ!」


「じゃあ何で、こんな短期間の内に2回目の遠征に……?」


「お前なら……いや、お前たちなら分かるだろう。これは我がクローブ王国の国王の命令なのだ!」


「またアイツか……!」



 そう、クローブ国王といえば俺を追放しただけではなく、数十年前の魔王討伐後にナツキさんも追放した野郎だ。

 いわば俺たちにとっては、悪鬼よりも悪質な生物である。


「国王は何かに焦っておられる。おそらく悪鬼自体にではなく、その先にある”何か”だ。

 だが残念ながら団長のワシでもそれが何なのかは分からん。ただ国にいる家族や天竜の信者達を守るために、ワシは王の命令を遂行するしか道はないからな」


「あぁ、別にお前を責めるつもりはないよ。

 けど相変わらず横暴な国王だな。よく暗殺されずに、ここまで生きてやがる」



 俺は【王国騎士団】の団長の前で、とんでもない事を口走っている。

 彼らが最優先で守るべき存在の1つ”国王”に対して、暗殺などと言っているのだ。


 普通なら俺はここでアスロットに切られるはずなのだが……。



「王の近くには、ワシら騎士団とは別に王を守る精鋭たちが控えている。

 お前も聞いた事があるだろう、【神衛(しんえい)の4(けつ)】を」


「あー、そんなのいたな。お前たち騎士団よりもさらに近い場所で王を守る、所在一切不明の影の部隊だろ?確か魔王討伐以降に設立されたっていう。

 顔を直接は見た事ないけど、あんな王の事を"神"扱いするなんて違和感しかないよ」


「………彼らは1人1人が危険度SSランクの魔物に対応できる力を持っていると言われておってな。それが抑止力となって、王に手出しする者は”騎士団も含めて”おらんのだ」


「騎士団も含めて、ねぇ……」



 ここにアスロットが俺を切らなかった理由が詰まっていた。

 国王をよく思わない人間が多数いるのは、もはや周知の事実のようだ。


 すると……。



「そろそろ長話もこの辺にしておかないか?キッドマンも忙しい身だろう」



 俺たちのそばで話を聞いていたナツキさんが、いいタイミングで入ってきてくれたのだ。


 確かに目に見えない話を長々としていても、時間がもったいない。

 俺たちは帰り支度を終えて、いよいよ砂漠をあとにしようとしていた。



「ベネットよ、最後に少しだけいいか?ナツキは先に行っていてくれ。ここからは男同士の話だ」



 アスロットが俺を呼び止めるまでは……。




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