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16.赤竜の女王

「あ、お兄さん!こんな所にいたんだっ!」


「えーっと……ネスタだっけか?」



 カルマル市場を一通り回った俺は、最初にブラックウルブから助けた少年・ネスタに見つかっていた。

 数時間前には魔獣に対して命を懸けていた少年なのだが、特にトラウマになっている様子とかが無さそうなのが凄い。


 普通ならビビってしばらく動けないと思うけど、まったく最近の子は強いわね……。


「どうしたネスタ、お礼でも言いに来てくれたのか?」


「うん、それもあるけど……」


 するとネスタは少し恥ずかしそうな様子で地面を見つめたが、スグに意を決したように俺の顔を見上げる。


「俺を弟子にしてくださいっ!俺も強くなって街を守りたいんだ!!」


 その目は力強く、冗談を言っているようには見えなかった。

 ならば俺もその気持ちにはシッカリと答えなければいけないし、軽い気持ちで返事はできない。


「……さっき君の父親のマグナクスタさんに聞いたけど、この街は”防衛団”ってのがあるんじゃないのか?自警団なのか何なのかは知らないけど、まずはそこを目指すべきなんじゃないか?」


「いや、防衛団は領主様が作った部隊なんだよ。そこに入るには家柄もいるって聞いた事あるし……。だから師匠に刀を教えて欲しいんだ!師匠みたいな強い戦士になるために!!」


「もう師匠って呼ばれてるッッ!?!?」


 だがキラキラした目の少年の願いは、あまりに純粋かつ強力すぎて重い、重すぎる。

 色んな魔者や魔獣と戦ってきた俺だが、過去1番重い攻撃かもしれない。


「……うーん、俺はずっとこの街にいる訳じゃないんだぞ?来るとしても"たまに"だし……」


「じゃあその時に教えてください!何なら僕が師匠の家に修行しに行きます!」


 そう意気揚々と答えるネスタだが、もちろん俺が居候している雪山の鍛冶小屋に彼がたどり着けるはずはない。

 なのでここは”たまに”剣術を教えるって事で妥協してあげるか……。


「ネスタ、見えるか?俺の家はあのチーリン山脈の中腹にあるんだ。強い魔獣が沢山いる場所にね。

 だからまぁ……俺がたまに来た時に少しの時間だけ教えてあげるよ。それでいいか?」


 これに対してネスタは、当然首をタテに振ると思っていた。

 思っていたのだが、なぜか様子がおかしい。


「え……?お兄さん、あの山から来たの?あの”赤竜(せきりゅう)の女王”が住むチーリン山から来たの!?」


「赤竜の……女王???」


 俺は聞いた事のない異名を耳にして、その場で固まってしまった。

 なにせあの小屋に通い始めて1週間近くになるが、そんな竜など見た事も聞いた事もない。

 きっとこのカルマルの街に伝わる伝承か何かだろうか?


「うん!赤竜の女王はね、たまに山から降りて来て僕らが悪い事をしていないか見に来るんだよ!降りてくる時は人間の姿をしていて、真っ赤な長い髪の毛で、すっごい背が高いんだよ!!」


「う、うん……?」


「それで刀?みたいなのを持ってて、汚れたエプロン着てるんだ。大人はみんな”近づいたら食われる”って言ってるから、僕も遠くからしか見た事ないけどね」


「おーん……それは……」


 俺は薄々気付き始める。

 いや、もはや確信なのかもしれない。


 多分その”赤竜の女王”ってやつ、間違いなくナツキさんだよね!?!?

 赤髪の長髪、長身、鍛冶で汚れたエプロン。あまりに共通点が多すぎるでしょ!?


「ふ、ふふ……食われるって……ハ…ハハハハッ!!」


 そしてとうとう俺は、笑いを堪えきれなかった。

 なにせあの心優しいナツキさんが、この山の下の街では”竜”として恐れられて、挙句の果てには”子供を食う”と思われているのだ!!


「これは良いお土産ができたな……!」


「え、何で?もしかしてお兄さん、赤竜の女王の仲間なの!?悪いやつなの!?」


「いやいや、そんな事はないぞ。仲間なのは本当だけどね。あそこに住んでるのは、ちょっと人見知りの綺麗なお姉さんだから、また今度連れて来てやるよ」


「えぇ!?街を襲ったりしない……?」


「……怒らせなければ多分大丈夫」


 この瞬間俺の頭の中には、前に洋館で見せたナツキさんの恐ろしいほどに強い斬撃を思い出していた。

 あれでも力は抑えていたっぽいので、おそらく全力で振ればこの街の広さぐらいなら一瞬で消し飛ぶだろうな。あーコワイコワイ。


「じゃあ次に俺が来るまでに沢山食べて、沢山遊んで、沢山人を助けておけよ。それが最初の修行だ」


「わ、分かりました師匠!じゃあ女王様も連れてきてね」


「じょ、女王様……?お、おう。ムチでも持たせて連れてくるよ」


「むち?」


 こうして子供の教育に悪い事を言い残した俺は、食材を持って街の出口へと向かっていくのだった。



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