14.格の違い
「うわぁああ!!クソ、離せこの魔獣め!!あぁ、足が……!」
【スパァアン……】
ブラックウルブに足を噛みつかれている男が見えた俺は、0.1秒以内にウルブの首を切り落としていた。
さすがに光ほどのスピードを出す事はまだ叶わないが、この程度の魔獣なら相手に死んだ事すら気付かせない程には早く倒せる。
「おっちゃん、わりぃ!ちょっと魔獣の血飛んじゃった。早く医者に足のケガみてもらっといて」
「え、えぇ!?あ、ありがとう!一体いつ攻撃したんだ……?」
だが俺はその声が鼓膜に届く前に、すでに再び走り出していた。
ちなみに後に語られた事だが、室内から街の様子を見ていた住人たちの間では、この時街中を走る雷を見た人が続出したという。
「はい、あと3体!次は……お前だ」
2秒経過せずに辿り着いた3体目のブラックウルブにも、すかさず雷撃で攻撃をしかける。
【キャウンッ!!】
全身を切り刻む千刃の雷撃で、一瞬にして身動きを取れなくしてやった。さぁ、あと2体!
……だが実を言うと、ここからが問題だった。
なにせ残りはBランクのブラックウルブ2体だからな。おそらく知能もそこそこ持っているだけに、狡猾に人間を襲っているに違いない。
なによりヤツら2体は”魔力を隠す技術”を持っていた。
実際”魔力感知・解”の魔眼を持つ俺でさえも、まだヤツらの完璧な位置までは分からない。
「市場の方に魔力は感じるんだけどな……。距離を詰めるしかないか」
以前この街で立ち寄った市場の方向から感じる、微かな魔力。
おそらく9割以上の冒険者や騎士団員でも気付かない、遠くの微かな魔力残滓だ。
とりあえず俺はその方向に向かって、再び雷を使った高速移動を始めようとした。
——————だがそんな矢先だった。
【タッ…】
何かを蹴ったような音が俺の耳に響く。
後ろだ、後ろからこの違和感のある音が聞こえた。
「まさかこの瞬間まで気付けなかったなんて。結構強いじゃん……!」
そう、後ろを振り向くとそこには……。
Bランクのブラックウルブ1体が、俺に向かって鋭い牙を向け跳んできていたのだ!
先ほどの音は、どうやらブラックウルブが屋根の上から飛び降りた時の音だったようだな。おそらく屋根の上から俺の様子を伺っていたのだろう。
「つまり市場の方の魔力は、もう1体の魔力だったか。そしてお前は魔力を極限まで隠し、俺の背後に迫っていた!」
【グゥルルル……バウッ!!】
火属性の魔力を全身に纏いながら俺に牙を向けているコイツは、相当”狩り慣れて”いると見た。
向かってくるスピードもかなり速いし、Bランク冒険者程度ならおそらくこの奇襲で確実に死んでいただろう。
……だが狙った獲物が”俺”だったのは運の尽きだな!
「四蝶雷伝ッ!」
俺は即座に刀から”網状になった雷”を生成し、ブラックウルブを優しく包み込むように捕らえる。
そんな網の四隅には雷で出来た蝶が羽ばたいており、彼らが網を形成してくれているのだ。
ちなみに殺傷性はかなり低い部類の攻撃なのだが、もちろんコレには理由がある。
というのも、おそらくコイツが群れのボスなのだ。
俺は念の為生きたまま捕獲して、このカルマルの街に引き渡そうと考えていた。
◇
そして俺の雷の網に触れたブラックウルブだが……。
【ガ……ギャォォオウウ!!】
触れている間は止まる事のない電撃の激痛に苦しみ、気付けば気を失っていたようだった。
それにしても、これぐらいのサイズの魔獣には使いやすい便利な捕獲技は本当に助かる。
コスパ良いし、考えた俺マジ天才!
「さーて、あと1体もサッサと片づけるか」
……気を取り直した俺は、市場の方に向かって再び高速移動を始めようとする。
だが幸いボスの魔力が喪失した事に気付いたのか、最後の1体は向こうからやって来てくれていた。
【ビュオンッッ!!!】
そこらの人間じゃ肉眼で追えないスピードで俺に向かって来る、最後のBランクブラックウルブ。
けど魔力の流れが可視化できる俺にとっては、もはや視界に入った生物の全ての動きが認識・及び予測可能だった。
【ガウゥッッ!!!】
俺のスキを作る為に、不規則な動きを経て襲い掛かって来たウルブ。
だがその向かって来る体に対して上手く体勢を変えた俺は、ピンポイントでウルブに対して刀を下から振り上げた!
シュパァン……
特に切り落とした音も響かせないほどの切れ味。
俺の愛刀は今日も異次元の強さを誇っています。
【ボトッ】
そして鈍い音を立てて地面に落ちたのは、ブラックウルブの首だった。
——————とまぁ、こんな感じで俺が街入ってから約15秒、魔獣達の早朝襲撃は幕を閉じたのだった……。