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11.居候の日々

「到着~!日帰りなのに長旅を終えた気分ですねナツキさん!」


「当然のように付いてきたな君は……」



 現在、俺達2人は寒さ厳しいチリーン山脈を登り、中腹の鍛冶小屋へと戻ってきていた。

 相変わらず人が住むには適していなさすぎるこの場所には、俺たち以外の人間は見当たらない。


「さーて何しますかナツキさん。とりあえずメシでも食いますか?」


「君は食べることしか考えていないのか!?さっき食べたばかりだろ?」


「育ち盛りなもんで……」


「ベネット。非常に申し訳ないが、もうそれ以上成長するとは……」


「は?今なんか言いました?もし身長の事を言ってるなら、今すぐアナタの身長を奪い取りますよ???」


「とんでもない暴挙だな……。申し訳ないが、私はスグにでも刀作りを再開しないといけない。腹が減ったのなら自分でどうにかしてくれ」


「はーい……」


 そう返事をした俺は、刀作りの準備を始める彼女を横目に、外に保管しておいたグランドボアの熟成肉の元へと向かった。


 おそらく前回食べた時よりさらに熟成された肉は、想像するだけでヨダレが溢れるほど柔らかく、コクも深くなっているんだろうなぁ……。


 ぜひナツキさんにも食べてほしいなぁ……。


【ボッッ】


 すると小屋の中から火床(ほど)に火がつける音が聞こえた。

 ナツキさんがこれから刀を温め、それを打って鍛えていくのだろう。もはや刀を叩く音は、俺にとっての日常に変わりつつある。

 


【カンッ、カンッ、カンッ】


 そして再び彼女は刀作りの世界へと入っていた。

 最初ここに来て話しかけた時は“無視された”と思い込んでいた俺だが、今となっては"ナツキさんが集中しすぎて"俺の声が聞こえていなかったのだと理解する。


 なぜなら普通に話せるようになった今ですら、彼女は俺の声には反応しないのだから。


「凄いな。これが職人ってヤツか」


 気付くと俺は、ひたすら刀と向き合うナツキさんを座って見つめていた。前回は気付かなかったが、彼女のまつ毛はとても長く、鼻も高い。

 まさに“高貴”という言葉がピッタリ合うような美しさだった。


 別にこれは恋心ではないと思う。

 ただこの人のことをもっと知りたいという欲が、いろんな情報を取り込む事に繋がっているだけなのだと、自分で納得している。


 それに俺は少しずつ刀作りにも興味を持ち始めていた。なにせナツキさんが洋館を吹っ飛ばした時に使っていた刀、あれは凄かった。

 多分弱い魔獣ならあの刀を見ただけで戦う事を諦めるような、そんな底知れない魔力を感じたのだ。


 それに加えて今打っている刀すらも、今までの人生で5本も見た事のないレベルの魔力圧を発している。

 もうこの事実だけで、俺は刀鍛冶に対して興味が尽きなくなっていたのだ!



 だが彼女は突然刀を打つ事を止め、額から流れる大粒の汗を手で拭った。


「ふぅ……。とりあえずこれで一晩様子を見よう」


「あれ、完成したんすか?今回の作業は早かったっすね」


「いや、完成はまだ先かな。とりあえず今日取ってきた魔物の残骸から注釈した魔力を流し込んだんだよ。元々作っていた嵐天龍(らんてんりゅう)の刀にね。

 これが定着してくれれば、最後にもう1度魔力をしっかり閉じ込めて完成だ」


「へぇ~……ふふっ……」


 すると俺は自然に笑顔をこぼしていた。


「何がおかしい?私の顔に何か付いていたか?」


「いえいえ、いつも通り綺麗な顔ですよ。けど俺の料理を食べてあんなに幸せそうな顔してたナツキさんが、今は物凄い真剣な顔をしてるギャップが面白くて……」


「面白くないだろっ!まったく君は変な所ばかり見る男だな!」


「褒めていただき光栄です」


「褒めてないっ!本当に君という男は……」


 そう言いながら怒りで顔を赤くしているナツキさんは、打ち終えた刀を水の中に入れていた。

 おそらくAランク冒険者でも使いこなすのに10年近くはかかりそうな逸品、どんな風になるのか俺も楽しみだ。


——————俺にもあんなの作れたりするのかな?


 そんな事を、ふと考えてしまうような夜だった。



「さて、私はそろそろフロに入ろうかな。さすがに刀作りに集中しすぎたようだ」


「ナツキさんの風呂ッッッ……!!?」


 突如俺の鼓動はかつてないほど高まり始めていた。



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