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110.王の後悔

 そこからは龍族独特の文化を目撃する事になった。俺たち人間からすれば考えられないような文化の数々は、非常に興味深いモノの連続だったように思う。


 特に印象に残っているのは、討伐した逸れ龍・ツァンツィーの血を盃に入れて飲む事だった。ただしコレを飲むのは龍族のみで、俺たち人間に回ってくる事はない。まぁさすがに龍の血を飲んだらお腹壊すだろうし、ある意味助かったな。



「ワシらの中でツァンツィーは生きていく。ワシらの血が絶える事はない。新たな歴史の始まりに、乾杯ぃ」



 穿天様が乾杯の音頭を取った後、一斉に血を流し込む前方の龍族達。その飲んでいる間に流れた独特の静寂は、しばらく俺の記憶からは消えないだろう。



 色々な儀式や語りが終わってからは、普通の宴会と違いはなかった。確かに同族のツァンツィーが死んだ事を弔う時間はあったが、基本的にそれ以外は生きて帰ってきた戦士達を労う時間のようだ。



「おいサン・ベネットォ。ちょっとぉ来いぃ~」



 すると少し酔い始めている穿天様が、なぜか俺だけを呼び出していた。穿天様の周りには多くの龍族が囲んでおり、いつでも新しい酒を注ぐ準備を整えている。


 あそこに入って行くのは、さすがにハードル高くないか………?



「何をしているサン、早く来んかぁ?あぁぁん?」

「は、はいっ!!」



 もう二回も呼ばれてしまっては断る事もできない。俺は渋々穿天様の席へ赴く事にした。

 そもそも穿天様は体が大きすぎるんだよなぁ。座ってるのに5mぐらいあるの、普通に威圧感がありすぎて怖いんだよ。スキを見せたら食われてしまいそうな恐怖すらある。


 するとその恐怖心を知ってか知らずか、突然穿天様は酒を床に置いて周りの龍族に語りかける。



「おいお前ら、しばらく席外せぇ。サンとは二人で話す事があるからなぁ?」



 まさかのタイマン。マジで食われるかもしれない。



「お、おお、お待たせしました穿天様………」

「おぉすまんなぁぁサン、ちょっとお前に話しておきたい事がいくつかある」

「ヒィ………」



 自分の顔が青ざめていくのが分かる。だが意外にも穿天様は落ち着いた様子だ。



「お前ぇ、平和の神子と話しただろう?変な事を吹き込まれなかったかぁ?」

「へ、変な事ですか?うーん、そもそもあの状況自体が夢みたいでしたからね。変といえば、全部変でしたけど

………」

「そうかぁ?なら聞き方を変えるようか。ヤツは”神”について、何か言っていたかぁ?」

「神についてですか?………あぁ!なんかダオタオの親父さんを生き返らせる時に、本来は神に許可を貰わないといけないとか言ってました!それ以外は特に無かったです」

「そうかぁ、ならいいんだがぁ………」



 そう言うと穿天様は、大人一人が中に入れそうな程に大きな酒瓶を口に運んでいた。穿天様の質問の意図は分からないが、少なくとも何かを探っているように感じる。

 やはり平和の神子とは仲が悪いとか、そういう事なのだろうか?だとしたら俺から神子の話はしない方がいいのかもしれない。


 だが俺の予想とは反して、なぜか穿天様はこれまでの経緯を語り始める。



「実は俺は天空展地にお前らを迎えに行ったのは、たまたまじゃねぇ。あの神子が俺に迎えに来いと念じてきたからだぁ。アイツが俺に話しかけてきたのなんて、数千年ぶりの事だったからなぁ?つい神子とサンには、何か特別な関係があるのか気になっただけだぁ」

「そうだったんですね………。でも関係も何も、僕が神子様に会ったのは今日が初めてですよ。というか、いまだに彼女の存在を信じきれていない自分すらいるので、ほぼ無関係に等しいかと」

「そうかぁ。まぁヤツと関係があった所で、別にダメって訳じゃねぇ。ただ気になっただけだぁ」



 そして穿天様は俺の方を見て、グッと大きな顔を寄せてくる。こんな至近距離で龍神王の顔を見る事になるなんて、数日前までは予想もしていなかった。

 そして穿天様は、神妙な面持ちで俺だけに聞こえるように語り始める。それは俺にとって空想の物語のような内容だったが、今後の人生に大きく関わる重大な”忠告”だった。



「だけどこれだけは覚えておけぇサン。平和の神子と争いの神子。神の四天竜と呼ばれる四体の竜。そして龍神王の俺。これらは全て一つの”神”から生まれてきた。天空展地は、いわばその神へと繋がる玄関みたいなもんだ」

「は、はい………?」

「だからサンよ、あの場所と神子の事は他言無用で頼めるかぁ?この世界の根幹に関わる事だからなぁ??」

「わ、分かりました………」



 どうやら穿天様は俺に口止めをしたかったようだ。だが決して恐ろしい圧をかけてきた訳ではない。あくまでも”お願い”みたいな事のようだ。

 そして穿天様はどこか悲しそうな表情で続ける。



「それにワシは後悔しているんじゃぁ。四天竜たちが封印される前に人類と話し合えなかった事、そして最初の人魔会戦で世界が混乱している時に、人間を愛して戦いから逃げた事。ワシはこの後悔を抱えたまま死んでいくんだろう。

 だからここからはお前やリィベイ達の時代だぁ。だから頼んだぞぉ?」



 そして穿天様は大きな右手で俺の左肩を軽く叩き、小さくうなずいていた。正直言って何が伝えたかったのか理解出来てはいなかったが、とりあえず俺も雰囲気に合わせてうなずく事にする。


 四天竜が封印される前?俺が生まれる前の人魔会戦?そんな事言われても想像すら出来ない。しかし穿天様の中では、きっと重要な事なのだろう。いつか分かる日が来た時の為に、頑張って覚えておきたいと思う。



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