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109.元義部隊隊長・ツァンツィー

 案内された龍宮城の中では、意外にも宴会に近い様子が見受けられた。案内された宴会場はとても広く、タテに100mほど伸びた木材中心の造りになっていた。

 そして木の床に胡坐(あぐら)をかいている穿天様を真正面にして、そこから5列の食事がタテにズラァッと並んでいる。どうやらその食事の前に龍族や招待された客人達が座り、共に食事をする流れのようだ。


 すると宴会場の入り口で立ち止まったリィベイが、ナツキさんだけを見て口を開く。



「姉様、こちらに。サン・ベネットは廊下で逆立ちでもして待っていろ」



 そう言ってナツキさんだけを席に案内するリィベイ。その席は穿天様から15mほどしか離れていない、比較的前の方の席だった。

 ちなみに穿天様に最も近い席辺りには、親龍族と見られる者達が黒い装束に身を包んで座っている。そう考えると、ナツキさんの座る位置はかなり優遇されているように思えた。


 だが問題は俺だ。リィベイのやつ、相変わらず俺だけには冷たい態度しか見せないのだ。するとその様子をみかねたのか、ナツキさんがリィベイに警告を出す。



「おいリィベイ、いい加減にしろ。サンは私の大切な人だ。それ以上迷惑をかけるなら私も黙ってはいないぞ?」

「……………失礼いたしました。サン・ベネットもそこに座れ。いいか、絶対に穿天様に迷惑をかけるなよ」



 そう言い残したリィベイは、ナツキさんとの別れを名残惜しそうにしながらその場を後にしていた。そのままどっかいけバーカバーカ!ナツキさんはお前になんか興味無いんだよ!そのアホヅラで穿天様に媚び売ってこいチビ助!アホー!



「はぁ。不快な思いをさせて済まなかったなサン。戦って分かったのだが、リィベイも悪い奴では無いんだ。多めに見てやってくれ」

「いえ、僕も大人なんで大丈夫ですよ。むしろリィベイの心境の変わり具合に驚きっぱなしです」

「それには同意見だ」



 俺は精一杯のクールな表情で答えていた。先程は内心で子供じみた罵声をリィベイに浴びせていたという事実は、墓場まで持っていく事になりそうだ。


 ………だが本当にリィベイの態度の変わり様には驚いた。それだけ逸れ龍・ツァンツィーの討伐は凄まじい戦いだったのだろう。



「何かナツキさんが尊敬されるような事をしたんですか?」

「いや、私はただいつも通り戦っただけだよ。だがそれがリィベイの目には特別に映ったらしい。彼が言うには”自分が目指す強さの到達点を見た”って話だよ」

「へ、へぇー………。リィベイも十分強いだろうに、さすがナツキさんですね!」



 すると俺の賛辞を聞いたナツキさんは、少しだけ口角を上げて喜んでいるように見えた。よし、これはリィベイには見せない表情だろうな。俺の勝ちだリィベイ。ざまぁみろ。


 だけどまぁ、ナツキさんの強さを理解して尊敬している所は素晴らしいな。そこだけはリィベイに共感する。きっと俺達なら”ナツキさんのココが凄い!”っていうトークテーマで朝まで話せるだろう。



「サン、少し機嫌が良くなったか?」

「そうですかね?まぁナツキさんのファンが増えたって考えれば、悪い気分ではないですよ」



 ナツキさんは不思議そうな顔をしていた。





「集まったかぁ?それじゃあ始めるかぁ!?あぁぁん!??」



 少し間が空いた頃、とうとう穿天様が大きな声で確認を取っていた。用意された席は大方埋まっており、いよいよ”式典”のようなモノが始まるようだ。



「あぁ、今日集まって貰ったのは他でもない。お前らも知っている通り、俺の息子・ツァンツィーが逸れ龍として討伐されたぁ。まずはその討伐に参加した戦士達を労いたい。おい、今日龍宮ノ遣(りゅうぐうのつかい)に乗っていた奴らはその場に立てぇ!!」



 それを聞いた数人の龍族と人間達は、その場にスッと立ち上がる。もちろん俺の隣に座るナツキさんも、その内の一人だ。

 だが俺は立ち上がらない。いや、立ち上がれなかった。なにせ今回の戦場における俺は、まったくの役立たずだったからだ。ただ墜落する船から離脱して謎の天空の大地に辿り着き、見た目は少女の老婆にキャラメルを渡してきただけなのだ。



「おいサンッ、なぜ立たない?」

「いや、無理です無理です………俺何もしてないじゃないですか………」



 ナツキさんの質問に対し、周りには聞こえないように小さな声で答えた俺。だが俺が立ち上がらない事に気付いた”あの方”は許してくれなかった。



「おいサン・ベネットォ!?お前も乗ってただろぉ!?ああぁあん?」



 なんと胡座をかいて座っている穿天様も、俺に向かって立つように言ってきたのだっ!すると当然、宴会場にいた数百人の視線は俺に向けられる。もはやこの状況で「いや、僕は遠慮しときます」なんて言えるはずがなかった。


「は、はいぃぃ………」


 申し訳なさそうに立ち上がる俺に対して、リィベイだけは鬼のような形相で俺を睨んでいた。アイツとは目を合わせるな。合わせたら俺の命は無いぞ。無視だ無視。

 そして立ち上がった俺を見て、穿天様は続ける。



「まずはお前らご苦労だったなぁ。老いたワシに代わって大変な役回りを受けてくれて、感謝している。おいリィベイ、ツァンツィーとの戦いはどうだったぁ?」

「そうですね………」



 するとリィベイはスッと表情を変え、壮絶な戦いを思い出し始めていた。俺の知らない、最強の逸れ龍との戦いだ。



「ツァンツィー叔父様は………常に極限の強さを求める人でした。しかしその求める強さの方向は、我々誇り高き龍族の強さとは一線を画すモノ。今回の叔父様の強さは、私がかつて憧れた叔父様の”芯の通った強さ”とはかけ離れたものでした」



 リィベイはどこか遠くを見つめながら、かつてのツァンツィーという龍を思い出しているように見えた。その細めた目には少し哀愁が含まれている。



「叔父様は言いました。”魔王の再来”こそが今の世界に必要なのだと。かつて4大陸の統治目前まで勢力を整えた、あの魔王に私がなるのだと、そう強く訴えていました。私もその時点で悟りました。”あぁ、もうこの人は私が憧れた芯を無くしてしまったのだ”と。

 そこからの戦いは、ほとんど覚えておりません。ただ命をかけて、そこに立っていらっしゃるナツキ姉様と共に叔父様の首を切り落としました」



 するとリィベイは、戦いの記憶を振り返ると同時にナツキさんの方へと視線を移していた。すると当然ながら、宴会場の視線が全てナツキさんに集まっていく。

 だがナツキさんは特に何かを言うわけでもなく、少し恥ずかしそうに戸惑っていた。そこから何とか絞り出した言葉は……………



「首は結構、太かった………です」



 静まり返る宴会場。途端に赤くなるナツキさんの顔。

 首を切った感想を述べるなんて、一体誰が想像していただろう。



「そ、そうですね。太かったです。骨も太かったです………ね」



 よく分からないリィベイのフォローのせいで、さらにナツキさんは体温を上げていた。隣の俺から見れば、ちょっと湯気が出るほどに上がっていた気がする。


 結局、変な空気を室内漂わせたまま、リィベイの一人語りはしばらく続いたのだった。



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