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103.美味なのじゃ

「………少し話を戻しますが、神子様は甘いモノはお好きですか?」

「アマイモノ?なんだそれは?」



 俺の質問に対し、キョトンとした表情で聞き返してくる平和の神子。

 あぁそうか、食事をしない彼女にとっては"甘い"という感覚自体が分からないのか。


 そういう事なら実際に食べてもらった方が早い。この俺のポケットに入っていた自作の”キャラメル”をねっ!!



「実は神子様、たまたま俺のポケットに食べ物が入ってました。本来は妻の為に持って来ていたオヤツでしたが、ここは神子様に差し上げる事にします」

「なんじゃ、上から目線だな。まぁよい、食べてやらんでもないぞ?」



 すると神子様は途端に目をキラキラと輝かせ始めていた。一応は腕を組んで落ち着いた態度を見せようとはしているが、口角がピクピクと上がるのを我慢している所を見れば、内心とても嬉しいのだろう。



「なんじゃその茶色の物体は?人間の(ふん)か何かか?」

「初対面で糞食わせようとする人間に見えたんですか?違いますよ。これはキャラメルといって、元々こういう色なんです」



 そう言いながら俺は、丁寧に包んだ袋から長さ3cmほどのキャラメルを取り出していた。うん、表面がテカテカしていて美味しそうだ。

 ちゃんと作った時にも味見はしたし、これが神子様の口に合えばいいんだが………。



「はいどうぞ。そのままパクッといっちゃって下さい」

「おぉ、これが”きゃらめる”か。キラキラとして、宝石のようじゃな」



 小さな親指と人差し指でキャラメルを掴む神子様は、本当に幼女にしか見えなかった。しばらくはキャラメルを食べず空に向けてみたり、匂いを嗅いでみたりする仕草は本当に子供のようだ。



「それでは、食べてみるかの?」

「どうぞどうぞ、自信作ですので」

「………………えいっ!」



 そして神子様はようやく口の中にキャラメルを放り込む。少しだけ食べる事が怖かったのか、しばらくは目をギュッと閉じながら、モグモグと口を動かしている。まるで酸っぱいモノを食べているかのようなリアクションだ。


 しかし3秒後、その表情は一転する。



「こ、これは………!!!?」

「あ、あれ?もしかして美味しくなかったですか………?」



 急に目をピカンッと見開いた神子様に対して、俺は恐る恐る尋ねる。だが彼女から返ってきたのは、俺にとってはとても嬉しい言葉だった。



「なんじゃコレはぁ!!美味しいっ!これが美味しいという感覚なのじゃなサンよっ!?」

「え、えぇ?あ、多分そうだと思います。良かった、お口に合ったみたいで安心しましたよ!」

「なんなのじゃ、この噛めば噛むほど滲み出てくる美味い液体のようなモノは!?なんの魔法を使っておるのじゃ!?」

「魔法は使ってません。牛乳と砂糖とバターを使った、シンプルな製法ですよ」

「ぎゅうにゅう?さとう?なんじゃそれは!分かった、神術(しんじゅつ)か何かかじゃろう!!?」

「いや、だから………。いや、もうそれでいいです」



 俺は説明を諦めた。

 説明した所で、きっと完全に理解してもらうのは不可能だと悟ったからだ。


 そんな事より今は、俺の作ったお菓子を幸せそうに噛み締めている神子様を見ているのが一番楽しい。

 確かに人類が初めて砂糖を手に入れた時も、みんなで”何だコレは!?”みたいにビックリしていただろうからな。きっと今の神子様の頭の中も、甘さという多幸感で一杯になっているのだろう。



「ちなみに神子様、キャラメルはまだありますけど、食べm………」

「食べるっっ!!」



 俺が全てを言い終える前に彼女は勝手に俺のポケットに手を入れて、そのまま3個のキャラメルを奪い取っていた。なにこの人、完全に盗賊じゃん。

 まぁ可愛らしいから怒るに怒れないんだけど。



「ゆっくり食べてくださいよ?喉に詰まったら大変ですから」

「オイオイ小僧、なめるなよ?ワシは平和の神子じゃぞ?どんな事が起ころうとも、全て元の状態に戻す事が………ゲ、ゲホッ………!!!」

「ほら、言ったそばから詰まらしてる!!」



 結局俺は、神子様の背中を叩いて、さすって、ゆっくり食べさせて………。

 まるで介護のような時間を過ごすのだった。



「はぁ、なんと幸せな時間だったのじゃろう。人生の半分、いや、九割は損しておったな………」

「さすがに言い過ぎでは?でも満足していただけたようで良かったです」



 俺が持ってきていた全てのキャラメルを食べ終えた神子様は、目を細めながら自分のお腹を撫でていた。その顔は何とも幸せそうで、見ているこっちも自然と口角が上がってしまう。



「なあサンよ、もっと他に食べ物はないのか?ワシはまだまだ満足しておらんぞ?」

「えぇ!?もう無いですよ。そんなに食べたいなら、やっぱり地上に降りてくればいいじゃないですか」

「じゃからワシが地上に行ったら、この天空展地が放ったらかしになると言ったじゃろ!………じゃがキャラメルとやらを食べたせいで、放ったらかしにしてでも地上に行きたくなってしまったな」



 神子様はそう言いながら、アゴに手を当てて考え込んでいた。どうやら相当キャラメルの美味しさが衝撃的だったようだな。


 だがしばらくすると、彼女はハッとして何かを思い出す。



「いや待て。その前にやる事があるんじゃった。サン、お主の願いを聞いてなかったの。何が願いだ、言ってみろ」

「願い………ですか?あぁ、そういえば”強い願い”が無ければ、この場所には来られないとか言ってましたね。でも俺自身がそんな強く願った事なんて……………あっ!」



 その瞬間に俺もハッとした。この場所に来たのは俺一人では無いという事を、たった今思い出したのだ。



「神子様、実はもう二人この場所に来ているんでした。もしかしたら、そのどっちかが”何か”を強く願ったのかもしれません」

「二人?二人も生命反応はなかったはずじゃがな。とりあえずもう一人に関しては、そやつの事で間違いないか?」



 すると神子様は、当然のように俺の後ろを指差した。まさかと思い振り返ると、何とそこにいたのは………。



「ダ、ダオタオ!?いつの間に………!?」

「えっ!?サンさん!?いつの間に………!?」



 全く同じような反応を見せた俺たちは、目を大きく見開いてお互いを見つめていた。

 だがそれもそのはず、俺たちの距離は約5m。神子様に出会うまでに歩いた距離から考えれば、明らかに異常な近距離に変わっていたのだ。


 そもそも先ほどまでダオタオと親父さん、そして小型飛行艇は俺の背後には見えなかった。やはり平和の神子、人智を超えた現象を当たり前のように起こしてくる。



「さて、それでは改めて聞き直そうか。………お主らの願いはなんじゃ?」


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