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99.命を捨てる覚悟

 俺は目を細めながら、落ちていく龍宮ノ遣(りゅうぐうのつかい)を眺めていた。

 先ほどまでは無敵だと思われていた戦艦も、いまやただの鉄屑でしかない。


「とんでもない事になったな………」


 俺はそう呟き、空を駆ける小型飛行艇のエンジン音を聞いていた。



 そんな俺を含めた三人が乗っているこの飛行艇だが、運転しているのはダオタオの父親であり、龍宮ノ遣の艦長。

 そしてその後ろにタテに並ぶ形で、ダオタオと俺が座っている。


「まさか龍宮ノ遣が一撃で沈むなんて………!今回の逸れ龍は強いって聞いてましたけど、まさか数十キロ先の場所から大龍防護壁を破壊してくるなんて予想外でしたね!!」


 そう興奮した様子で話しているのは、俺の前に座る青年・ダオタオだった。

 生命の危機を脱した直後とは思えないほどに、彼の目は活き活きとしている。


 さすがの俺も疑問に思い、その理由を問いかけてみる。



「ダオタオ、なんでお前はそんなに元気なんだ?俺たち、空の上で死にかけたんだぞ?」

「そんなの決まってるじゃないですか。僕ら船員は、すでに龍宮ノ遣に乗った瞬間から命を捨てる覚悟をしています。死んだら仕方ない、生き残ったらラッキー、ただそれだけの話ですよ!!」



 なるほど、どうやら俺はこの男を見縊(みくび)っていたようだ。

 死ぬ事なんて考えず船に乗った俺たちとは全く違う覚悟を、彼ら彼女らは常に持っていたのだ。


 生き残ったらラッキー。

 確かに彼の言う通りかもしれない。


 ナツキさんも船から離脱できていたし、逸れ龍ごときにやられるとも思えない。

 うん、そうだよな。俺もそろそろ気持ちを切り替えないといけない。



「ごめんなダオタオ。お前のこと、ただの親のコネだけで成り上がるタイプの生意気な大人子供だと思ってた」

「えぇ!?そんな事思ってたんですかぁ!?心外ですよぉ………」

「今は思ってないよ!むしろ少し尊敬し始めてるぐらいだから」

「本当ですか?うーん………」



 意外にも疑心暗鬼なのか、そのままガクッと肩を落とすダオタオ。

 さすがに言い方が悪かったかな?

 でも確かに、目の前に父親がいる訳だしな。さすがに俺の方にデリカシーが無さすぎた。


 このまま無事に地上へ帰れたら、出来るだけダオタオに恩返しをする事にしよう。

 そう思っていた。



 ────だが不幸にも、事態は急変する。




【ガタンッッ!!】


 突如大きく傾き始めた機体。

 風の影響か?いや、そんな強風が吹いているようには見えないが………。


 だが即座にダオタオが何かに気付く。



「………親父?おい親父!?どうしたんだよ!!?」



 明らかに焦った声色で、飛行艇を操縦する親父の肩を叩くダオタオ。

 だがそれに対しダオタオの親父さんは反応を見せなかった。


 それどころか機体はさらに大きく傾いていき、親父さんも背中を丸めて姿勢を悪くし始めていた。

 どうやらコレは、緊急事態が起こっているとみて間違いなさそうだ。



「すま………ない、ダオタオ………。意識が飛び………そう……だ………」



 エンジン音のせいでハッキリとは聞こえなかったが、ダオタオの親父さんは明らかに苦しそうな声で何かを語っていた。

 そしてそれを聞いたダオタオは、できる範囲で身を乗り出し、操縦席を覗き込む。

 するとそこに広がっていた光景は………。



「お、親父!?腹から血が出てるじゃないかっ!?もしかして龍宮ノ遣が攻撃された時から、そのケガを隠していたの!?」

「ぐっ………うぅ………」



 だが親父さんは、ダオタオの質問に答える事はなかった。

 いや、もはや痛みで答えられなかったというのが正しいだろう。


 そしてとうとう親父さんの手はハンドルから離れ、全身がダランと脱力する形へと変わってしまうのだった。



「おいダオタオ!何事だ!!?」

「親父が………親父が気を失いました!!しかも足元に血が溜まってるぐらい重症です!!あぁ、親父ぃ、なんでこんな所で、あぁ………どうすれば」



 ダメだ、あのダオタオですら完全に冷静さを失ってしまっている。

 さすがに死を覚悟して空へやってきたとは言っても、実の父親が目の前で大量の血を流しながら意識を失う状況までは想定していなかったか?


 ………もうこうなってしまっては、やれる事は限られている。

 俺が冷静さを失えば、本当に全てが終わってしまうんだ。


 起きた事実は変えられない。

 なら今できる最善を選択し続けろ!



「ダオタオッ!!お前はこの飛行艇を操縦できるのか!!?」

「は………はい!できますっ!!」

「なら俺が言いたい事は分かるな!?できる限りのサポートはする!!だから今できる最善の行動をしようっ!」



 するとそれを聞いたダオタオは、少しだけ冷静さを取り戻したように見えた。

 その証拠に、ダオタオは激しく傾き始めた機体の中で手を伸ばし、後ろからハンドルをしっかりと握り始めていた。

 そしてそれを確認した俺も、小さな体を活かして前へと乗り出し、意識を失っている親父さんの両ワキを掴んで、そのまま後ろへと引っ張り出す。


 この瞬間、俺は産まれて初めて自分の体の小ささを誇らしく思えた。

 もしかしたら、この時の為に身長は伸びる事を止めていたのかもしれないと、そう思えるほどだった。


 だがそんな呑気な考えは、親父さんの体からドバドバと溢れる赤い血を見て忘れてしまう。

 そうだ、ここは空の上だ。一瞬の判断の遅れが命取りとなる。



「ダオタオ、いけるな!?」

「………………はいっ」



 初めて聞いた、彼が本当に真剣になった時の声。

 それを聞いた瞬間、俺は機体の事は完全にダオタオに任せようと決めていた。


 なら俺がやるべき事は一つ。

 白く冷たくなっている親父さんの救命措置だ。



 ────完全に手遅れだとは分かっていながら、俺はダオタオの為に救命措置を続けるフリをするのだ。


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