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96.逸れ龍、討伐開始

 突如戦艦・龍宮ノ遣(りゅうぐうのつかい)の周りに張られた、薄い水色の結界。

 どうやらこれがウワサの”大龍防護壁(たいりゅうぼうごへき)”というやつのようだ。


 まるで風船のように龍宮ノ遣の周りを囲い始めた結界は、目視でも相当な硬度を持っているのが分かる。

 クローブ大陸では見た事のない結界だし、おそらくこれも”龍神術”とやらで作られたのだろう。


 おそらく並みの攻撃では、傷すらつかなそうな結界。

 それこそナツキさんでも、一撃で粉砕するにはかなりの魔力を使うかもしれない。

 そう考えると、空の上でも安心すぎる設計だ。



 しかもこの結界、常に360度船の周りにくっついたまま移動する結界なので、どこから攻撃されても大丈夫!

 さらに外側からの攻撃を弾いてくれる一方で、内側からの攻撃や人の移動は通す事の出来る、とてつもないチート効果も持っているのだ!


 まさに空中戦における最強の盾である事は、誰が見ても間違いなかった。



「五体の龍まで、距離五百メートル!間も無く衝突っ!!」



 そんな盾に守られている艦内だが、既に船に乗る総員に向けて逸れ龍の続報が共有されていた。

 さぁ、いよいよ本格的な戦いが始まるようだ。



「ナツキさん、逸れ龍討伐の開始ですよ!いっぱい素材集めましょうね」

「あ、あぁ。それは分かっているが………」



 だがなぜかナツキさんは少し不安そうだ。

 いや、不安というよりは、何かが引っかかっているって感じだろうか?


 もしかすると俺と同様に、逸れ龍の種類に対して疑問を抱いているのかもしれない。

 なにせ俺は、てっきり逸れ龍は一体だけだと思っていたのだから。


 そういえば、なぜか今思い出した事がある。

 それは俺の体を治療してくれた龍族の美女・ロンジェンさんが言っていた言葉だ。



 ”今回の逸れ龍は過去最強よ”



 あぁ、そうだ。そうだった。

 もし五体の逸れ龍が最強なのだとしたら、あんな言い方はしなかったはずだ。

 きっと”今回の逸れ龍【達】”と言っていただろう。


 ………という事は、もしかしてこの五体は今回の最終目標ではない!?

 じゃあ最終目標の龍は、一体どこに………。



「来たぞっ!!さぁ俺たちの時間だぁあ!!」

「乗れ乗れ!!俺が最初に龍の首を取ってやる!!」



 だがそんな俺の疑問など露知らず、甲板にいた冒険者達は一斉に船の端に足をかける。

 もういつでも龍を狩ってやるという、そんな熱気と殺気に包まれているのだ。


 すると、まるでその状況を待っていたかのように、龍宮ノ遣もさらなる真価を見せ始める。

 なんと龍宮ノ遣のサイドやフロント部分から、長く伸びる足場が現れたのだ!!


 その黒く厚い立派な足場は、板のように船の四方八方から飛び出し、空を飛べない冒険者達に新たな足場を形成する。

 そう、コレはまさに戦闘用のステージ。

 遠距離攻撃を得意とする冒険者や戦闘員達は、ここから攻撃が出来るようになるのだろう。


 だが真価はこれだけでは終わらない。

 なぜなら龍宮ノ遣の側面からは、続々と”アレ”が出発していくのだから!



「さぁ飛ばせ飛ばせ!最高速で行こうぜ!!」

「遅れるな!俺たちも最高速で航行しろ!さぁ久しぶりの龍退治だ」



 なんとブゥオンブゥオンと音を鳴らしながら飛び出していったのは、小型の飛行艇軍団だった!

 しかも羽には龍神術特有の薄ピンクの焔も付いており、通常よりもさらに早い速度で航行している。


 その数、五……十……十五……。

 ドンドンと空へ飛び立っていく様子は、まるで祭りのようだった!


 ちなみに飛行艇を操縦しているのは、龍宮ノ遣で働く乗組員達。

 おそらく後ろに乗る冒険者達に急かされているせいか、船の側面から見える発着場よりドンドンと絶え間なく出発していく。



「やばいっすよナツキさん!俺たち何の作戦も考えてなかったじゃないっすか!?今からでも飛行艇を借りにいきますか?」



 完全に出遅れた事に気付いた俺は、焦ってナツキさんに問いかける。

 だが幸いナツキさんに焦る様子は見られなかった。


 いや、違う。俺は馬鹿か?

 冷静に考えれば”焦る必要がない”のだ。

 ナツキさんが刀を持ってしまえば、もはや視界に入る全ての範囲が殲滅可能区域になる。


 彼女に必要なのは、準備ではない。

 ただ”斬る相手”だけだ。



「サン。何度も言うが、今の君には武器がないだろう?いいからそこで見ておけ。素材は全て私が回収してくる」



 そう言い残したナツキさんは、すでに一秒後には船首に向けて走り出していた。

 相変わらずの魔力効率を活かした、非常に早い移動である。


 そして、いよいよハッキリと目視できる範囲に入った逸れ龍。

 続々と攻撃を仕掛ける冒険者達をよそに、ナツキさんはゆっくりと刀を抜いていた。



「………スゥ」



 そしてゆっくりと息を吸った彼女は、刀身全体に高密度の炎を(まと)わせて、魔力圧を高めていく。


 ちなみに魔力感知眼を持っている俺だから分かる事だが、彼女の魔力の質は異常だ。

 なぜなら、誰しも必ず魔力にはムラがある。

 言葉では言い表しづらいのだが、とにかく魔力のところどころに穴のような、揺らぎのような、そんな形が俺には見えるのだ。


 だがナツキさんは違う。

 ナツキさんの魔力は、言うならば”壁”である。


 穴のない、ただ一枚の分厚い壁のような密度の濃い魔力が、常に全身を流れているのだ。

 そんな質の高い魔力から放たれる攻撃は、この世の誰よりも強く、固く、恐ろしい。

 どうやら五体の逸れ龍もナツキさんの魔力に気がついたようだが、もう遅い。


 気付いた時点で既に死んでいるのと同然………ってやつだ。



炎國喪帝斬(えんごくそうていざん)ッッ!!」



 ナツキさんから放たれた炎の三日月は、冒険者達の間を綺麗に避けながら、逸れ龍二体の体を切断していた。


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