取り調べ?
「ゆうき君? なにかあったの……あれ? 」
お父さんの部屋でずっと一人でいるのが退屈になったらしく、エリーナが階段を下りて玄関まで僕を見に来た。彼女はもう完全にリラックスモードに入っていて、しっかり気の抜けた声でしゃべってるよ。
けど、ごめん。まあ、そういう反応になっちゃうのは全然わかる。
だって、普通考えないじゃん? さっきまで一緒に話してた人が、急に警察に逮捕されてるとか……
「どしたの? 」
「うーん……この通りです」
純粋なお顔で質問してくださったエリーナに、僕は人生で初めて自分の手にかかった手錠を差し出した。この銀色の美しい金具(普通に手錠の事)は、僕の両手首を固く捕まえて、多分何やってもとれない。
脱出不可能。
「……」
エリーナは、その手錠をじーっと隅々まで目を光らせながら見つめていた。いや、そういうのいいですから、何か僕をねぎらう言葉をください……
「何これ……かっこいい!!! 」
ですよね。
「ねえねえ、ゆうき君! これなになに?? 凄い! 第二形態? 」
「いや、これは――」
「なんだあああ! 魔法使えるなら言ってよ! 」
そう言って、彼女は好奇心を押えられない表情で僕の貧弱な肩を叩きまくったあとに、またただの拘束具をじっくり分析し始めた。
お願い、誰か助けて。
「これ、成分は鉄? 空気中の元素を組み合わせて、鉄を瞬間的に生成して、それを想像力でこういう形にしたのかな? 手首にぴったりと合ったフォルム、よくこんなの思いついたね。凄いじゃん!! 私できないよ……お? 」
――カシャ――
っと、彼女があれこれレビューしている間に、怖い刑事はもうひとつの手錠を用意して、その手首をとらえた。捕獲された彼女は、今何が起こったのか理解できてないからか、首をかしげて、手錠をガチャガチャやってる。
あ、エリーナも逮捕されるんだ。
「私にも魔法かけてくれたの? 」
エリーナは花のような笑顔で、僕の顔を見てそういった。
うん、かけてくれたよ。
刑事が。
ということで、僕たちはパトカーに連行されて、仲良く刑務所にぶちこまれましたとさ。チャンチャン!
て、なってたまるかあああああ!
――ウイ―――ン(パトカーのサイレン)――
僕たちの見ていた風景は急に変化し、さっきまでの心地よさは一気に消え去った。まるで冷たい鉄に支配されたような空間で、ただただ時間が過ぎていく、感覚。
手錠は取れたけど、一つの机を囲んで三つの椅子が設置されているという小さな世界では、まだ拘束されているのと同じ。
僕と、隣に座っているエリーナは、黙って向かい側の席に座るであろう鬼が来るのを、静かに待つ……
普通に、今、取調べ室にいます。
「ねえ、私たち、なんでこんなとこに連れていかれたの? 」
「多分、空飛んだからかな」
「え? 」
まあ、意味わからないよね。空飛んだだけで捕まるとか。
けど、エリーナからしたらたまったものじゃないだろうけど、こうして、静かな場所で二人になれる機会ができて、よかったかも。だって、いろいろ聞きやすいから。
「……え、エリーナ」
「ん? なあに? 」
「どうして、最初、嘘ついたの? 」
「嘘? 」
「うん。この世界に来た理由が、スイーツ食べたいからだって。僕と付き合うって言ったのは、僕がスイーツ好きで、毎日おいしいスイーツ食べられるかもしれないからって。僕、そんなウソつかなくても、協力したよ? 」
あれだけつらい思いをしたのに、そんな風な冗談を言えるものなのかな。気遣ってくれたんだと思うけど、どうなんだろ。
「ふふふ……」
「え? 」
「やっぱり、優しいね。ゆうき」
そう言って、エリーナは僕の顔を覗いて柔らかく微笑んできた。困ったような笑い方で、どういう感情なのかはわからないけど。
だけど、君づけじゃなくなって、よびすてで僕を呼んできたとき、なんか鼓動がはやくなって、同時に、僕を信頼してくれたような、久しぶりに感じる安心感があった。
「私、本当は凄く心配性な性格なんだ。この人は本当に信じていいのかな、私の事、大切にしてくれるかな、世界の命運を決めるようなこと、頼んじゃって、一緒に頑張ってくれるのかな、とか」
……わかる。中々、そういうのって自信持てないよね。
「でもね、ちょっとあなたといるだけで、どういう人なのか、すぐわかったよ! ゆうきはいい人! 」
そう言って、エリーナは僕の頭をなでてきた。
なんだろう、今度は、全然恥ずかしくならない。
「それに、間違いなく、アンデルの生まれ変わり……私がそう思ったんだもん」
……これについても、言った方がいいかな。
「……そのことなんだけど――」
――ガチャン! ――
「え」
「よお、元気か」
「……」ああああ。
「……いらっしゃいませ」エリーナ……違うって、感覚ずれてるよ。
また悪いタイミングでこの刑事は……
ということで、さっそく待っていた鬼がやって来た。僕と同じで眼鏡をかけてるけど、顔は僕とは比べ物にならないくらいに怖くて、黒いスーツに身を包んだ身長の高い刑事。
でも、ちょっとストップ! なんか、カツ丼持ってない? しかもめっちゃうまそう。
僕たちの目の前に座ると、刑事はお盆にのせた三つのカツ丼を机に置いた。僕と、エリーナの分。あとは、自分の分??
と、困惑している僕をほったらかしにして、刑事はカツ丼を食べ始めた。
「な、なに、この状況」
「ああ、なんだ? 食わねえのか。その年で食欲もねえなんて情けねえなあ」
いや、ここ取り調べ室なんですけど。こんな刑事ドラマみたいなこと本当にあるの? いや、ドラマでも普通本人は食わないよ!!
ちょっと、エリーナさんも突っ込んでよ!
「いただきまーす!! 」
「……」
そういえば、この人そんな人だったね。
「どうだ? うまいか? 」
「うん!! すごくおいしい!! こんな料理があったなんて! 」
「当然だ。これは俺が作ったからな。ほしいなら、おかわりもあるぞ」
ねえ、これツッコミ待ちなの? ボケ二人に対してツッコミひとりのコント? マジで何やってるの?
「なんだ、お前たちは兄弟か? にしてはあまりにも似てないが。つーか、お前のその髪の色どうなってんだよ、ピンクて」
まあ、わかる。
「しかもなあ、15歳くらいのねーちゃんがコスプレして夜中に歩き回ってるって通報が何件もきてんだ。 なんだそのシンデレラのコスプレみたいな衣装は。どこで売ってんだ。教えろ。今度娘に着せるから」
いや、そんくらいで通報しないでよ。つーかもしかしてこの刑事こんな顔して娘大好きパパ?
シンデレラみたいなのは同意だけど。
「それに比べて、男の方はなんかひょろひょろして垢抜けねえなあ。ちゃんと飯は食ってんのか? 」
心配された??
「とにかく、お前らが何もんなのか吐くまで、ここから一歩も出さねえからな? 」
「え! でも学校が」
「関係ねえよ。大体お前ら、子供だけで暮らしてんのか? 親は? 」
「それは……事情がありまして」ごにょごにょ
「ああ? まあいいや、とにかく、話す気になったらいえよ。ずっといるからさ」
いや、そういうのマジでいい。
「でも」
とここで、カツ丼をもう食べ終わったエリーナが口を開いた。
「私たちをずっと拘束してると、大変なことになっちゃうよ? 」
「あ? 」
意味不明なことをエリーナが言うと、突然、廊下の方から誰かが急いで走ってくる音が聞こえてきた。そして勢いよく扉を開けて、「刑事! 」と叫んだ。
刑事! って呼ぶんだ……
「どうした? 」
「大変です! この近くの街で、謎の超巨大生命体、通称ドラゴンが現れて、暴れています! 市民も混乱状態です! 」
「何!? 」
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