なにか御用ですか?
「貴様、貴様ー! 」
エリーナお嬢様が殺されたのをまじかで見せつけられたアンデルさんは、その整った顔をこれでもかというほど歪ませて、大声で怒鳴った。さっきまでの冷静な態度は完全に失われて、獣のように目を吊り上げている。
……そうなるくらい、彼女と深い関係だったのかな。
「ああああああ! 」
剣を両手で握って、やけくそに振り回すようにひとりでフードの男性に突っ込んでいった。フードの男性はそれを見ても全く体制も変えず、余裕で棒立ちしている。
まあ、余裕って言っても顔見えないんだけど……その戦いぶりから、大体わかる。
アンデルさんが剣を振り上げると、フードの男性はそのすさまじく速い太刀筋をいとも簡単に見切っているようで、全く傷を負うこともなく、かわしまくっていた。そしてアンデルさんが消耗したところを、手のひらに生えてきた銃で撃つ。
どこからどう見ても、あのアンデルさんが戦えてすらいない。何もできてない。
軽く吹き飛ばされたアンデルさんは、崩壊した建物の残骸に強くたたきつけられた。顔だけでも傷がいくつかあって、赤い血が流れ出ている。もうだめだ、やられる!!
「お前なんかに、この王国を滅ぼされてたまるか! 」
「……」
フードの男性は、何も喋らないまま、ずっとアンデルさんを見つめている。けど、次の瞬間、彼は、目を二度と開けなくなってしまった、魂のない、フードの男性の腕に抱かれたエリーナお嬢様の方をゆっくり振り向いた。
表情は全然わかんない。けど、どこか哀れんでいるような気がする。
すると突然、フードの男性は後ろで待機している召使いとアイコンタクトをしてから、アンデルさんの方に歩いて行った。そしてアンデルさんの前までくると、腕に抱いていたエリーナお嬢様をそっと、アンデルさんに預けてから、初めて口を開いた。
「私は、愛の可能性を探っている。だが、一向にそれを見せてくれる生命体は存在しない。どこへ行っても、争いは絶えず、花は散る」
「……何が言いたい」
アンデルさんがつぶやくと、フードの男性はさらに顔を近づけた。そして
「お前は、私に証明できるか? 愛の、可能性を。愛にあふれた世界、そんなフィクションを実現できるか? 」
とだけ言って、フードの男性はそのままアンデルさんにとどめを刺さずに、また黒の軍隊がいた場所へと戻っていった。
そして召使いを連れて、気が付くと、その姿は煙のように消えていた……
「ごめんな、ごめんな、エリーナ」
すべてが終わって、残酷な静けさと、破壊された王国の中に取り残されたアンデルさんが、エリーナお嬢様の動かない体に、涙を流しながらつぶやいた。……なんか、辛いよ。
ん? 待って。じゃあ、今僕の隣にいるエリーナお嬢様って、何? 幽霊!?
スイーツの話は? 付き合って? とか言ってきたのは何? だいたい、エリーナお嬢様とアンデルさん、どういう関係?
「静かに」
「あ、はい」
……え? 心読めんの?
「俺さ、馬鹿だよな。恋人であるお前のことも、守れなかったなんて」
??? 恋人?
「あんな、訳の分からないやつらに……お前の人生が、終わらされていいわけないのにな」
アンデルさんは、エリーナお嬢様の手を握った。彼女の細くてきれいな五本の指と、彼の力強い指が糸のように交わる。そのふたりの姿は、なんだか、優しい。
本当に、恋人、だったんだ……
しばらくすると、アンデルさんは最後の力を振り絞るように倒れていた体を起こして、何故か、エリーナお嬢様の体に手をかざした。
「俺は、もうだめだ。封印していた禁断の魔法を使って、お前を異世界に転生させる。そうすれば俺の命は消え去り、この世界も消滅するかもしれない。だが、いいさ。どうせ、この世界には誰も残ってないんだから」
え! そんなことすんの!? できんの!?
僕が驚いている間に、アンデルさんは光のオーラを身にまとって、魔法を使おうとしていた。すると彼の体はだんだん薄くなっていって、代わりにエリーナお嬢様に力が与えられているような気がする。
「きっと、転生先の世界にも、あいつが攻めてくるかもしれない。でも、大丈夫だ。お前が、その世界で、恋人を作れ。俺なんかよりも、もっと愛し合って、誰にも負けないようなイチャイチャカップルを目指すんだ! 」
??? いや、少年漫画ですか……なに、イチャイチャカップルって。
「あいつが言っていた、愛の可能性とやらを引き出せば、何か奇跡が起こるかもしれない。……お前に、世界の命運をたくすことになって、すまない」
世界の命運て、え? エリーナお嬢様が僕と付き合うって言ったの、そういうこと?
……重いって!!
「でもさ、できれば、なんかその辺で出会った普通の奴よりも、そうだな、もし俺の生まれ変わりとかがその世界にいれば、そいつとイチャイチャしてやってくれ」
僕、多分その辺で出会った普通の奴だと思うんですけど――
「俺の生まれ変わりだからな、そいつはきっと優しくて、かっこよくて、仲間がたくさんいて、尊敬されていて、強くて、たのも――」
わあああああ! やめてえええええ!
「なんてな、とにかく、あとはお前に任せた。元気でやれよ」
最後にかっこいい声でそういった後、アンデルさんは大声を上げて
「行くぞ、封印された魔法を解き放つ! 異世界転生!! 」
と言って、あたりがとてつもない光に包まれた。
で、僕はそのまぶしさに目をつむって、次に目を開けたとき――
僕は、お父さんの部屋で倒れ込んでいた。
「こんばんは! 」
声のした方を振り向くと、エリーナお嬢様が上から僕をのぞき込んでいた。あ、駄目だ、直視できない。
ということで、僕は赤くなった顔を隠すように、エリーナお嬢様からそらした。
それを見たエリーナお嬢様は「あら、てれやさん」と言って、お父さんの仕事用のデスクの椅子に座った。
僕は体を起き上がらせて、ちょっとだけエリーナお嬢様を見つめてみた。
すると彼女は「なに? 」とニコッと笑っていった。まずい、ということで僕はまた顔をそらす。ねえ、見てよ。どう考えても僕アンデルさんの生まれ変わりじゃないって……
ってことを一旦聞いてみよ。
「ね、ねえ、エリーナ、お嬢様」
「エリーナでいいよ! 」
「え……エリー、ナ。僕って、本当にアンデルさんの生まれ変わりなの? 」
「うーん……勘!!! 」
何!?
「なんとなく、あなたっぽいなって。でも、違っててもいいの。要は、愛しあえばいいわけでしょ? そこに、誰の生まれ変わりかなんて、関係ある? 」
でも、僕はアンデルさんの生まれ変わりだってすごい言ってたり、強調してたりした気するんですけど……
「あ、あの、もしかしたら、アンデルさんの生まれ変わり、僕知ってるかも……」
「え? だれだれ? 」
「さっき会った、りんごま――」
――ピンポーン! ――
なんでこのタイミングでインターホン!! って、こんな夜遅くに?
「どうしたの? 」
「いや、何でもないよ。ちょっと待ってて」
ということで、僕は玄関に向かった。
扉の前で、念のために「どなたですか~」と聞いた。
「夜遅くにすみません! 警察です! 」
え
「ついさきほど、空を飛ぶ正体不明の物体をみたと通報が入りまして、現在このあたりの住宅を回らしていただいているのですが、少しお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか? 」
……絶対僕らじゃん。
どうしよう、ここで断ったら怪しまれそうだし、作戦を考えよう。
声を聞いたところ、結構優しそうな人っぽいし、ひとまず顔を出して、知りません! としらばっくれる! よし、それでいこう!
(というか、さすがに僕だとは誰も気づいてないはず)
で、扉を開けた。
けど、そこに立ってたのは声の持ち主みたいにさわやかな感じではなく
「警察だ。署まで来てもらおうか」
めっちゃ怖そうな刑事きた……
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