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お嬢様、死ぬ

 あれが、アンデルさん。僕の前世。


 うーん、顔的にはやっぱりりんご丸の前世のような気もするけど。


「ん? でも、ここは異世界なんだよね? なんで、アンデルって人が違う世界にいる僕の前世になるの? 」


「……わからない。けど、そうなってるの」


 エリーナお嬢様も知らないのか。だったら、僕が理解できる余地もないよね……


 

 アンデルって人のおかげで、白の軍隊と黒の軍隊の戦いは、白の方がだんだん優勢になってきた。あの人、破壊の戦士と言われるだけあって、相当な力の持ち主だ。


 剣の腕は間違いなくずば抜けていて、いなずまのような筋を描きながら、「はっ! 」と迫りくる敵をわずか数秒で片づける。意表を突かれると、すかさず魔法を使って、何事もなかったように百熱の炎で卑怯者を粉砕。


 もちろん、仲間を助けることも忘れない。


 しかも、頭もいい。


 多分、彼は積極的に前線に出て戦うのとともに、指揮官的な役割もになってる。片っ端からある程度敵を葬った後は、すぐに近くにいる兵士たちを集めて、何かしら指示を下す。


 すると、さっきまでばらばらだった兵士の動きが統一されて、いっきに戦いの流れが変わる。


 (いや、これ僕どころかりんご丸の前世ですらないでしょ)


 

 それからしばらくして、戦いの流れはほぼ完全に白い軍隊の方に味方したような感じになった。黒の方は満身創痍(まんしんそうい)の状態で、僕が最初に見たころに比べると、もうだいぶ数も減っていた。


 正直、ここから挽回できるとは思えない。白の方はどんどん士気上がってるし。


「なんか、アンデルさんの方、勝ちそうだね」


 と、僕はエリーナお嬢様を振り向いて言った。だけど、その時のエリーナお嬢様の表情は変わらず暗くて、「うん」とだけつぶやいていた。


 なんでなんだろう、この戦いで白の軍隊が勝った後、この街はまた平和になって、エリーナお嬢様は元気に僕がいる世界にスイーツ食べに行けるって話でしょ? そのためにスイーツ好きの僕のカノジョになってあげるよ~ってことでしょ?

 


「……これで終わればよかった。あいつさえ、来なければ」



 黒の軍隊が退避を始めるような体制に入ると、アンデルさんたちは剣を空に向けて突き挙げたりして、勝利した気分になっていた。赤く染まっていた空も、だんだんと晴れてきて、この街にまた光が戻るような兆しが見えた気がした。


 アンデルさんたちも、僕も、気が緩んで、少しだけ表情が優しくなる。まさにハッピーエンド! アニメみたいに、最後には、正義が勝つ――




「ん? 」


 僕が安心しきっていると、突然、アンデルさんが何か察したみたいに、黒の軍隊の方を振り返った。まるで、もっと恐ろしいものが後ろからきているような表情で。


 あれ? どうしたんだろう? ついさっきまで穏やかな表情でいたのが、急に。


 少し不思議に思って黒の軍隊を僕も見てみると、あいつらは全く変わらず、というかさっきよりも全然退避していた。何が気になったんだろう、本当に。


 そう思って、僕は一旦、空を見上げてみた。


 ほら、見てよ。さっきまで地獄みたいに赤かったのが、今はこんなにも晴れて……


 え?


 太陽、青空が見え始めていたと思っていた空に、僕が見上げると、この短時間で異常なほど黒い雲がまた光を覆いかぶせていた。


 ようやく明るくなったと思える街が、もう一度闇に染まる。


「なんか、また天気が悪くなってきた……」


「天気だけなら、まだよかった。今再来してるのはね、地獄」



 街が黒い雲に完全に覆われると、次の瞬間、黒の軍隊の中から、ひとりの、フードを被った顔が見えない男性が出てきた。ゆっくりと、何を考えてるのか分からないのが歩く姿は、結構不気味。しかもさらに不気味なのは、彼の服装。


 この世界では中世ヨーロッパ風、だいたいそれくらいの時代の雰囲気があるのに、彼が着ているのは、僕たちの、現代よりももっと新しい? 服装。


 明らかにこの世界の人じゃない!


 僕がそう思った瞬間、男性の体全体から突然大量の銃が飛び出してきた。それはまるで戦闘モードに入ったSFのロボットみたいで、あたりが、一気にしーんとなった……



 彼が開いた手を握りしめると、地獄は始まった。


 あの体から生えている大量の銃が、一斉に発射されたんだ! それも一発、二発じゃない、マシンガンみたいに連続で!


 ――ドドドドドドドドド! ――


 するとまず周りの建物はあっという間に壊滅して、多分、生存者もいない。銃弾の嵐は止まらずに、白の軍隊、黒の軍隊とか関係なしに、その命を奪っていった。兵士たちの悲鳴が響き渡る。


 がれきの山が数えきれないくらい出来上がると、ようやく銃弾は止んで、フードの男性は一旦落ち着いた。



 さっきまでの王国は見る影もない。そして僕の目の前には軍隊の無残な姿たち。一瞬にして、この王国は滅ぼされたんだ。


「……」


 僕が何も言えずに突っ立っていると、隣ではエリーナが泣き崩れていた。


 あれ? でも、これまでの登場人物の中に、エリーナいないけど……


 ふとそう思ったとき、フードの男性のそばに、謎の召使? 忍者? みたいなのががれきの山を踏み分けて駆け寄ってきた。そいつは、両腕に誰かを抱えていた。白いドレスで、ピンク色のロングのきれいな髪に、目をつぶっている表情も美しい……??


 よく見ると、召使が抱えているのはエリーナお嬢様だった。


 僕は隣にいるエリーナお嬢様を二度見して、それからまた彼らを見た。


 

 召使がフードの男性にエリーナお嬢様を渡すと、お、おい……


 フードの男性は彼女に手のひらから生えた銃の銃口を、その心臓めがけて突き出した。な、なにしてんだよ……


 銃口が、だんだんと明るくなってくる。


 すると、そのタイミングで、がれきの山から、かろうじて生きていたアンデルさんが顔を出した。そして、今にも殺されそうな、眠っているエリーナお嬢様を見ると、アンデルさんは「止めろー! 」と叫んで剣を抜いた。


 けど、フードの男性はお構いなく、銃口を動かすこともなくただ走ってくるアンデルさんを見つめるだけで。


 次の瞬間、ドン! というかなりでかい音が鳴り響いた……



 僕は思わずその光景から目をそらして、エリーナお嬢様を見つめた。


 そのとき、彼女は打たれた自分を見て



「私は、死んだの」


 とだけつぶやいた。


 


 


 


 



 

読んでいただきありがとうございます。

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