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お嬢様は空を飛ぶ

 えっと、これは一体どういうことなのでしょうか……


 さっきたまたま会った異世界のお嬢様と、バイトやってる不良男子高校生が目の前でハグしている。え? 僕と付き合うって言ったのは一体……


 うそでしょ。僕もうさようならですか?



「おい、誰だこの女? 」


 体を固めてただ座って呆然とこの光景を見ていた僕に、バイトの高校生がなぜか助けを求めるような目で僕を見てきた。


 いや、助けてほしいのは僕なんですけど。


「あ、あの……お知り合い? 」と、一応湧き上がる感情を抑えて笑顔でこう返してみたけど……逆効果だったかもしれない。


 この言葉を聞くと、バイトの高校生は僕をにらんできた。


「お前なあ、知り合いなわけねえだろ。こんなコスプレイヤーみたいな奴、見たこともねえ。むしろ宮本、お前は知り合いなのか? こいつと」


 で、こんな感じで怒鳴られた。まあ、真っ白なウエディングドレスみたいなの着てるし、美少女だから、コスプレイヤーに見えるのはわかる。


 ていうか、ごめん。僕の名前わざわざ覚えてくれてるのに、僕の方が彼の名前全く思い出せない。顔はちゃんとわかるし、クラスが一緒ってのも知ってるけど。


 あと、意味不明な不快感。


 誰だっけ?


 

 しばらくエリーナお嬢様が抱き着いて離れないで、バイトの高校生がもがくという構図が続いた。けど、ある時、突然彼女がバイトの高校生にうずめていた顔を外して、ちょっと首を傾げた後、何故か今度は敵意のある表情でバイトの高校生を見つめ始めた。


 バイトの高校生の方は訳も分からず、ただ疑問符をうかべるだけだった。


「私、わかったよ」


 なんか急にエリーナお嬢様がしゃべりだした。


「な、なんだよ? 」バイトの高校生が相づちをうつ。


「あなた、偽物だね? 私をだますために、アンデルの姿を真似してたんだ! 」


「はあ? 」


「だって、だって――」



「この人からは、ダイヤモンドのような、バラの花が舞うにおいがしないのだもの!! 」


「……」


 なんか久しぶりに僕に話してきたような気がしたけど、どう反応すればいいんだろ。ていうか、それって一体どんなにおいなの? 


「なんだそれ! 俺はそのアンデルとかいうやつじゃねえし、そんな気持ち悪そうな匂いはせん! 」


「まあ失礼! 気持ち悪い? お手入れもしてなさそうな体のくせにそんなこと言わないでよ! 」


「うるせえな、誰だよマジで」


「エリーナだけど! あなたは? 」


「俺はりんご丸だ! 」


 あ、そういえばそんな名前の人だったね。今思い出した。


 というか、なんで僕のクラスにいる人たちは名前に丸をつけたがるの? さっきの月光丸もそうだし、なんか「犬可愛い丸」とかもいた気がするけど。


「おい! 」


「は、はい!? 」


 頭の中でいろいろ考えていると、エリーナお嬢様との口喧嘩を終えたらしいりんご丸が僕に接近してきていた。表情を見る限り、多分まだ物凄く怒ってる。


「あいつなんなんだ? お前にあんな生意気な女子高校生とのかかわりがあったのか? 」


「いや、女子高校生っていうか、あれは」


「容姿は端麗だ。俺らの学校にいたら、男子たちから毎日告白を受けるだろう。そんなやつとてめえに関係があるなんて、ありえない! 」


 実は、そういう人から告白を受けたんですよ。今さっき。本当かどうかは知らないけど。


 そんなことより、カフェではお静かに……


「おい、もしやお前、あまりにモテないからって、誘拐でもしたのか? 」


「そ、そんなことするわけ」


「そうだ、間違いない! イケメンな俺に嫉妬して、友達も一人もいない、休日は遊ぶ相手もいないから常にひきこもる。そんな毎日を変えたくて、犯罪に手を染めたのか? 」


「ち、違う」


「強がるな。本当のこと言えよ」


「だから」


「ちょっと! 私の王子様をいじめないでよ! 」エリーナお嬢様が乱入。


「ああ、だからなんなんだお前」


 (はやく、注文取ってくれないかな……)



 


 カフェで二時間くらい過ごしたあと、僕たちはまた帰路に戻った。日はすっかり暮れていて、自宅近くの住宅街に着いた頃には、もうあたりは真っ暗になっていた。


 人気もなくて、静かで遠くの電車が走る音までよく響き渡る。


 うん、これくらい穏やかな方がいい。


 そう思っていると、まだまだ元気なエリーナお嬢様がいきなり僕の目の前にひょこっと顔を出して、可愛い声で呼びかけてきた。


「ねえ? 」


「な、なに? 」


 心の中ではツッコミをいれたりしてるけど、現実の僕の返事はこんなもん。まだ、一応異性を相手してるから、緊張はとれてないみたい。


「ゆうき君、私ね、今日、楽しかった! 」


「そう? 」


「うん! パフェ美味しかったし! でも、やっぱりちょっと、あのりんご丸はうざかったなあ」


 エリーナお嬢様は、空を見上げて、今日の思い出を振り返るように言った。こういう姿見ると、この人は、本当にお姫様なんだろうなって思っちゃうな。なんか、印象に残るよね。


 けど、やっぱり、それ以上に、僕には印象に残ってることがある。


 そう、りんご丸のこと。アンデルとか言ってたけど、そんなに似てる元カレでもいたのかな。


「え、エリーナお嬢様。あの、さっきのことだけど、アンデルって」


「ん? ああ、うん。そうなんだよね。あのりんご丸って人、アンデルと、顔がそっくり。おかしいなあ、アンデルの生まれ変わりは、あなたのはずなのに」


「え? 」


「ううん、なんでもない。それより、ゆうき君、お城にはまだつかないの? 」


「お城って、僕の家はそんなに豪華じゃないけど……まだ、歩かないと着かないよ」


 やっぱりついてくるんだね。


「え~しょうがないなあ! 」


「へ? 」


 この瞬間、僕の顔はこれまでにないくらい赤くなった。心臓の鼓動が、はちきれるくらいに早くなって、体が震えだした。


 何してるんだろう。エリーナお嬢様。


 道の真ん中で、彼女は僕の体を、さっきのりんご丸以上に強く抱き寄せ、おでこを厚くくっつけてきた。彼女の温かみが伝わるくらい。


 この妙な体験が終わると、僕は変な顔で、彼女を見た。


 エリーナお嬢様はすこし照れてるような表情をして、「やっぱり、同じだ! 」と言ったと、今度は両腕で僕の体をがっちり持った。


「え? 」


「いい? 今からあなたのお城まで飛ぶよ! 」


 そうエリーナお嬢様が言った後、突然体が浮き始めた。


 そしてどんどん空に上がっていて、あっという間に、街全体が見渡せるくらいの高さまで飛んだ!


「ええええええ! 」




 




 


 

読んでいただきありがとうございます。

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