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お嬢様のチュートリアル

「へ? 」


 思わず、というか普通に変な声出てしまった。何? 僕今どういう状況にさらされてるの? テレパシーに従って路地裏に来たら、意味不明な箱があって、それを突き破って美少女が現れた。


 そして、その美少女が近づいてきたと思ったら、次の瞬間、初対面なのに告白される……


 やっぱ、夢でも見てんのかな。


「ね? そういうことだから! 」


 と言ってから、当然のように、その美少女は手をつないできて、せっせと倒れている僕を立たせた。なんでか知らないけど、彼女はとにかくニコニコしてる。僕の方は正気の沙汰じゃない。


 ただでさえ、異性苦手なのに。


「私、エリーナ。ゆうき君たちが住んでいる世界とは違う世界から来ました! 今日からよろしくね! 」


「……あ、あの……」


「ん? なぁに? 」


「何故僕の名前を知っているのでしょうか。というか、僕のことも」


 冗談抜きでこれは気になる。あと、なんでこんなに馴れ馴れしいのかとか、急にコクってきた理由とか、違う世界? とかいろいろ聞きたいことはあるけど、恥ずかしくてあんまり話せないから、とりあえず一個だけにしよう。


 (本当に情けないよな~)


「えっとねえ」


 彼女の方は意外にも真剣に答えてくれそうな雰囲気で、ちょっとその辺をキョロキョロ見渡してから、また僕を見つめた。


「私……」


 ――ゴクリ――


「実は、この世界のスイーツを、いっぱい食べてみたかったの!! 」


 は?


「……っと、それは一体僕と何の関係が」


「だって、ゆうき君、私の世界では、生粋のスイーツ好きって有名なんだよ。だからだから――」


 そう言って、エリーナお嬢様はまた僕の両手を強く握ってきた。いや待って、僕ってぶっちゃけ近所ですらほぼ空気なのに、違う世界じゃそんなに有名だったの??


 まあ、スイーツ好きってのはあたってるけど……


 てか、それなら僕よりスイーツに関して狂気じみてる人たちもっとたくさんいるでしょ。


 こんな風に僕がごちゃごちゃ心の中で思考をめぐらしているしている間も、彼女はとりあえず空を見上げてひとりでなんかずっとつぶやいていた。


「~ねえ。でね、そんなゆうき君とカップルになれば、おいしいスイーツ食べ放題じゃん! 私の世界じゃスイーツなんて中々食べられないから、今日から楽しみ! 」


 そんなことのためにわざわざ違う世界から来たの? ねえ?


 

 ひと通りしゃべりつくすと、エリーナお嬢様は疲れたような目をして、自分のお腹を見つめた。そして「お腹すいた」と小さくつぶやくと、僕を笑顔で見てきた。


「な、なんですか」


「ゆうき君。私、あっちの世界を出発してから何も食べてないよ。さっそく、どこか美味しいお店にエスコートしてくれる? 」


 また大きな目をきらきら輝かせて……男の扱いを完全に分かってる。けど、僕は騙されない。だいたい、エリーナお嬢様、見た目的には、多分、僕と同じ16歳か、それよりちょっと下くらいでしょ。


 そんな思春期真っ盛りの美少女が、突然見知らぬ、しかも魅力もない僕みたいなやつに告白してきて、違う世界に住んでたと? 一体どこのファンタジーだよ。


 金目当てだ。面倒ごとにならないうちに逃げよう。


「ゆうき君? 」


「し、失礼します! 」


 ということで、僕は彼女のすきをついて、上手く走って逃げだした。っていう形にしたかったけど、その数秒後に片手で捕獲されてしまいました。


 エリーナお嬢様、動いてすらいません。


「ねえ、エスコートして、くれるよね? 」


 声に圧を感じて後ろを振り返ると、彼女の笑顔だけど暗い表情と目が合った。僕の腕をつかんでいる彼女の力は正直、クラスで一番強いやつのすでに何倍もある。青い瞳は光って、彼女の周りに青いオーラがまとっているような気がした。


「はい……」


 マジモンだと思い知らされた僕は、とにかくエリーナお嬢様に従うことにした。



 せっかくなので、僕がいつも行っているちょっとしたカフェに彼女を案内することにした。そこでは女性に人気なスイーツがたくさん売られていて、結構おいしい。コーヒーとのマッチがあるとよりいい。多分、喜んでもらえると思う。


 ちなみに、案内している道中、僕が助けを求められないように、エリーナお嬢様は変な超能力を使って、僕が大声を出せないようにしていた。



 カフェに着くと、僕はさっそく店内に入って、定位置の奥のテーブル席に座った。エリーナお嬢様には僕の向かい側に座ってもらう。「素敵! 」と彼女は両手を合わせて、カフェを見回した。


 ここはいわゆる古典的な個人経営のカフェで、アニメとかでよく見るようなオシャレな雰囲気。お気に召したかな?


「ゆうき君、何が一番美味しいの? 」


「えっとですね、今は、この季節限定パフェってのがおすすめかと」


 僕はかけている眼鏡をくいって上げて、若干格好つけて言った。


「美味しそう~!! 」


 うん、僕のことはあんまり、というか全く見てないね。


 そうしてちょくちょく心の傷を負いながら、僕たちは注文を確定させた。ちょうどその時、店員さん、多分バイトの男の人が通りかかったので、僕は手を挙げて、気づくまで待った。


 そんな僕を見て、エリーナお嬢様はすかさず首をかしげて、「呼ばないのですか? 」と言ってきた……呼べないんです、僕みたいなのは。


 店員さんが気づいて、こっちを振り向いて近づいてきた。けど、近づくにつれて、顔色がだんだん悪くなってきた。


 あ、これ僕もです。


 だんだん不快感が増してきてます。


 銀色の髪の毛で、青い瞳、気に食わないくらいのイケメン…


 こいつは――


「アンデル? アンデルなの? 」


 突然、エリーナお嬢様がこう叫ぶ声が聞こえてきた。


 何?


 すると彼女は涙を流し、我を忘れたように走って、何故かバイトの胸に飛び込んでいった……


 


 


 


 



読んでいただきありがとうございます。

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