誘拐犯とすごろくの嵐
「え、ええええええええ! 」
ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、何やってんの? どこで捕まえてきたの?
だいたいなんでうちに入れてるの?
「あ、あの~エリーナ様、そちらの方は? 」
「なんだよ~知ってるくせに!! さなちゃんだよ! 二回も名前言わないとわからないの? 」
「違う。どうしてうちに連れてきたの? 」
というか、今日君が一緒に下校したのって、さなじゃないよね? 百パーたまたま歩いてたとこ誘拐したでしょ。
すると、エリーナは突然、指を口にくわえてまるでえさを欲しがる子犬のような表情をしてきた。絶対なにか言う気だろうけど、多分、まともな言葉は飛んでこない。つぶらな瞳をしてるけど、こういうときの彼女はいろいろおかしい。
「実はね、さなちゃんが、元気ないんだって」
知ってるけど……それを僕にどうしろと?? そもそもなんか僕に怒ってるみたいなんですけど。今日の放課後あたりから。
「そう、私ね、そんなさなちゃんを元気づけられるの、ゆうきだけだと思うんだ、ね!? 」
意味不明なことを言ったあと、彼女はさなのことを見てウインクをした。一応、僕はさなの方がどういう表情してるのかなってことで、さなを見てみた。
すると、これは当然の反応で、さなは僕と目が合うと、嫌そうな顔でこういってきた。
「最低……」
「ごめんなさい!! 」
一階のリビングで、僕は土下座した。エリーナには、どうにか説得してさなにかけられた変な魔法を解いてもらった。だから、さなはもう縛られてない、自由の身。
「……」
ああ、さな怒ってるよなあ。犯罪だもんなあ。僕の印象最悪だよ。
「もう! 情けないなあ! ほら見て、もうさなちゃん怒ってないよ! それに、あなたは何もしてないんだから、別に謝ることないでしょ~」
と言って、エリーナは僕の顔を優しく持って、さなの方に向けてきた。彼女はまだ不機嫌そうな顔でいたけど、確かに、怒っては、いなさそう?
「ねえ」
「はい! 」
さなが低い声で言ってた。
やばい、お叱りが来る!
「二人って、付き合ってるんだよね」
え?
「うん! もちろん! 」
僕が言うより先に、エリーナがまた元気そうに言った。いや、君はなんで毎回毎回そんなにハイテンションなわけ?
「あ、でも! 」
すると、何故か落ち込んだような顔をするさなにわざわざ抱き着いて、「まだ、そんなに愛し合ってはいないかな~! 」とつぶやいてきた。
なに!?
そうなの?
「どういうこと? だって、もう一緒に暮らしてるんでしょ? 」
「うん! でもね、私たち、確かに見た目はカップルだと思うけど、心の底から好きっていう気持ちは、まだ私にも芽生えてないし、ゆうきからも感じられない! ね!? 」
とか言って僕に話を振って来たけど、なんか突然後ろから針を刺されたような感覚だ。もちろん、彼女は心の底から好きって思ってないってのはショックだったけど、よく考えてみたら、僕の方も、そんな熱い気持ちがあるかというと、少し微妙かもしれない。
どちらかというと、初めて出来た親友、もしくは妹みたいな感覚に近かったかも。
まあ、そもそも僕たちが付き合うのは理由があるし、会って3日くらいしかたってないから、当然か。
「もしかしたらこれからベタベタ、イチャイチャになってくるかもしれないし、ツーン! って冷めちゃうかもしれないよ! 」
え……
「だから、さなちゃんも大丈夫! 」
そう言って、エリーナはさなの小さな頭をなでた。
いや、何が大丈夫なのって感じだけど、さなは初めて、僕の前で微笑んだような表情になっていた。
「何か、おわびしますよ」
「ゆうき! 」
「はい! 」
「敬語! 」
「……なにか、おわびするよ」
僕、なんかの特訓でもうけさせられてるの?
悪いことしちゃったのは変わりないし、なんか今日怒らせてばっかりだから、せめて飲み物くらいはさしあげたい。
「待って、それなら私が決める」
「決めるって、おわびを? 」
「うん」
そっか、そうだよね。おわびなんだし、彼女が好きなものをリクエストするのが筋か。
「わかった。好きなもの持って帰って」
そういうと、彼女は台所に向かうのかと思いきや、突然、リビングの奥の物置をあさり始めた……ってわああああ!
――ガサゴソ、ガンガン!! ――
さなは物置にある道具やら段ボールやらを荒々しくあさり始めた! するといろんなものが宙に舞って、リビングはどんどん散らかっていく!
うそでしょ。これ片づけるのに何時間かかるんだろうってくらいにリビングが小道具やらなんやらでがれきが積み重なるように埋まっていく。
これおわびっていうか、復讐!?
やばい、なんか涙出てきそう。隣のエリーナは嬉しそうな顔で「うん、うん! 」とか言ってるし。何? 二人ともグル?
「あった! 」
しばらくすると、さながなんかの箱をかかげて、大声でこう叫んだ。彼女が手に持っていたものは、なんと、なんと!
「すご」と僕。
「ろく? 」とエリーナ。
そう。彼女が宝探しのごとく物置をあさって掘り出したのは、物凄くボロボロで、すごく小さいころにおじいちゃんと遊んだ覚えのある、すごろくだった。
「えっと、さなさん? 」
僕が呆然として首をかしげてこういうと、さなは手に持っているすごろくを僕たちに突き付けてきて、こう言った。
「すごろくで遊んで! 」
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