さなのいらだちとせんとの友達
さっきまで騒がしかった教室は、エリーナのたった一言で地獄みたいな沈黙した空間へと変わった。あの月光丸でさえ全く喋らなくなってしまって、もうそれだけで異常な事態だとわかる。それだけ、衝撃的な告白、なんだろうね。
『……え~~~~~!!! 』
あ、反応した。
みんなが一斉に「え~」の大合唱をやった後、次の瞬間に僕の机まで迫ってきて、まるで僕が質問攻めにあってる転校生みたいになった。
「本当に? 本当に? 」
「こんなやつが? 」
「ないない!! 」
いや、質問攻めっていうか、悪口大会みたいになってるんですけど。
まあ、気持ちはわかります。だって、想像できないもん。僕みたいな陰キャが、こんな美少女で、しかもめちゃくちゃ明るい子と付き合ってるなんて。僕も信じられない。
けど、ここは彼女の学園生活のために、どうにかして僕とは顔見知り程度くらいの関係ということにしておきたい。
でないと、エリーナまで僕と同じような目に会う……絶対……
「あの、実は、彼女は日本語の使い方がよくわかってなくて……ほんとは付き合ってるとかじゃなくて――」
「? 私、多分あなたより日本語うまいよ? 」
「え? 」
「だって、私はあなたの記憶からいろいろ読み取ったんだもの。こっちの世界のことも、言語も、食べのも」
わあああああああ!!
「え、エリーナ、エリーナ! 」
僕は小声で顔を真っ青にしながらエリーナにこう言った。いや、僕から記憶を読み取ったってのも気になるけど、たとえそんなことができるとしても、今ここで言っちゃダメだって!
「私ね、スイーツが大好きなの! でね! でね! 」
エリーナの暴走が止まらない。
「昨日、ゆうきにまたお店を紹介してもらったんだけど――」
誰か助けて。
こんな感じの雰囲気がこの日はずっと続いた。エリーナは聞かれたらなんでも答えるし、話しかけられると物凄く嬉しそうに対応する。僕は毎回ヒヤッとしたけど、彼女にはあまり関係ないみたいだった。
放課後になると、彼女は何人かの女子のグループから「一緒に帰ろう? 」と誘われた。エリーナが僕を見てきたので、僕は「どうぞ、一緒にいってあげてください」と目で訴えた。
なんか、僕が心配していたほど、僕のカノジョって言ったことはあまり気にしなくてよさそうだった。
それ以上に、彼女のすてきな人柄が、たくさんのクラスの人に好感をもたれたんだ。
放課後、クラスのみんながほとんど帰ってしまった、夕焼けに照らされた教室で、僕は帰る支度をしていた。今日は、何故かいつも嫌がらせに来る月光丸がいなくて、代わり? にりんご丸が残っていた。
あと、いつも残っている女子こと、さな。
僕はとりあえずりんご丸は置いといて、さなにお礼を言いに行くことにした。だって、今日の朝、僕の勘違いかもしれないけど、多分気遣ってくれたんだもん。
月光丸に嫌がらせを受けている僕を。
ということで、僕は彼女の席に向かった。
なんか、初めてまともに話しかける(もしかしたら自分から話しかけるのは初めてかもしれない)から、緊張する。
で、僕は彼女の近くに立つ。
けど、その時のさな、なんかおかしかった。
まるで地蔵のように固まってずっと下を向いている。それも帰る支度を済ませて、カバンを右手に持ったまま。
どうしたんだろ。
けど、別にそんなに深い関係でもないし、ちょっと感謝だけしてさっさと帰るか。
「さ、さな……さん。今日の朝は、なんか心配してくれたみたいで、ありがとうございました。おかげで……」
「……」
うーん。何も反応すらしてくれない。話しづらい。
本当にどうしたんだろう。やっぱ僕とは会話したくもないのかな。
と、またひとりで勝手にいろいろ考えていると、突然、さなが僕の顔を勢いよく見てきた。何故か、その頬は赤く染まっていて、目にはうっすらと涙が浮かび上がっていて、表情も、怒っているように見える。
にらみつけられてることだけはたしか……
「……! 」
彼女は何か言おうとした後、ガタンと音を立てて席を立って、それから走って教室を出てしまった。
……ぼ、僕、何かした???
それで、僕はそのまましばらく突っ立ったまま固まって、彼女が欠けていった方向を眺めていた。もう彼女の姿はとっくにないのに。
この様子を見ていたであろうりんご丸は、そんな僕の真横を通り過ぎて、「ば~か」とだけつぶやいて帰っていった。
本当に、今日は何でこんな意味が分からないことばっかり起こるの?
午後の5時ちかくになって、僕は気持ちの整理をつけてからようやく下校した。今日は、いつも通っている街は化け物が出たということで、破壊されたビルとかの撤去とか、修復とかがあるから立ち入りができなくなってる。
なので、今日はいつもとは全く違った、自然が多い方の道。多分こっちの方がザ、高校生の帰り道、みたいな道を通って帰ることにした。
周りは小さな木々に囲まれていて、狭い。でも、ちいかくに公園があって小さな子供たちが遊んでたり、青春って感じがする。
僕はおいしい空気をすいながら、その道を歩いている。
けどその道中、僕はとんでもないものを見てしまった。
「く、黒の軍隊の人??? 」
なんと、僕の目の前には、昨日みたのと全く同じ「黒の軍隊」の人が立っていた! そして、そのすぐ隣に、誰か人が立っている!
僕は一旦横の一本の木に隠れて、様子を見た。
どうしよう。今エリーナいないし、彼女携帯持ってないし、なんとかテレパシーで……
なーんて、そう簡単にいくわけないか……
――隠れてないで、出ておいでよ――
あ、そうそうこんな感じでテレパシ……え?
――ゆうき君、いるんでしょ? 僕の友達と一緒に遊ぼう?
なに? 今何が起こってんの? なんで僕の名前知ってんの?
え? またこの展開?
するとちょっとずつ足音が近づいてきて、僕は命の危険を感じた。
がくがくブルブル震えていると、そっと僕の肩に誰かが手をつける感触がして……
振り向いてみると……
「ぎゃああああああああああ!!!!!! 」
読んでいただきありがとうございます。