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箱から出てきたお嬢様

「あ、すまねぇー」


 クラスの隅っこにある僕の机に、大量の水が洪水みたいに流れた。もちろん、そこに座っていた僕の顔にも、ちょこっとだけ水がかかった。……もう慣れてるから何も感じないけどサ。


 言っとくけど、これ、間違えてこぼしたとか、そんなんじゃないよ。絶対。だって、案の定、ペットボトルの水をひっかけてきたの、毎日欠かさずよく見る顔だもん。金髪で、微妙に制服を着崩してて、ヤンキーみたいな雰囲気。


 名前は確か、月光丸だっけ。


「校門で、と・も・だ・ちが待ってるんだ。わりぃが、後片づけしといてくんね? なあ、今度うまい店で奢ってやるからよ」


(そんなこと言って、一度も奢ったことなんかないくせに……)


「じゃ、よろしく頼むぜえ! 」


 そう言って、月光丸は教室を出ていった。扉を物凄く乱暴に閉めて、壊れたりしたらどうするつもりなんだろう?


 もうここには僕と誰か知らない女子しかいなくて、音も響くんだからやめてほしい。



 でも、当然だけど、彼が教室から離れてどっかいくと、途端に一気に静かになった。するとなんかいろいろ目が届くようになって、この教室ってこんなに広かったんだ、とか、夕方の教室って意外にきれいだよな、とか思う。


 あと、あの女子、よく考えればいっつも残ってるよな、とか。


 そう思って前の席の真ん中あたりに座ってる彼女を眺めてみると、何を間違ったか彼女の方も突然僕の方を振り返ってきて、目がばったりあった。かとおもえば彼女は「あっ」と言って顔を赤らめて、焦ったようにばたばた帰る支度を始めて、あっという間に教室を出てしまった。


 ……なんなの。


 彼女も去ったので、教室にはもう僕一人だけになった。いつまでもここにいて暗くなったら困るし、あともう少しだけ待って、僕も帰ることにした。



 家に帰宅するとき、僕はいつも、通りなれた街を歩くんだ。ショッピングモールだったり高層ビルが立ち並んでいる、僕には似合いそうもない街。


 車がよく通っていて、人も大勢いる、都会。


 だから歩いていると、いろんなところから人々の会話が聞こえてくる。


「元気? 」


「なあ、ラーメン食いにいこうぜ! 」


「ねえねえ、みんなでカラオケ行こ! 」


 学生、社会人、友達、家族。いろんな属性の人たちが、楽しそうに話をしている。そしてそれを積極的に聞いてるのは僕なのに、なぜか、すごい虚無感に襲われるんだ。


 僕、どこで人生間違えたんだろ……


 僕には、安心できる居場所も、心から語り合える友達も、いない。陰キャだから。


 こんなの、言い訳かもしれないけど、実際そうだし、もう、性格的にどうしようもないと思ってる。駄目なんだよ。僕には、憧れる楽しい人生なんて、送れないんだ。


 

 アニメでみるような、幸せな日常は、サ。



 こうやって心の中でブツブツ言ってると、いちゃいちゃしてるうぶそうなカップルが目に入った。僕と同じ高校一年生くらいで、お揃いのキーホルダーをカバンにつけている。で、話している内容がまたやばいんだろうな……


「俺、みーちゃんのこと、愛してるから。本気で」


「うん、私もたくみくんのこと、いつも思ってる」


「だから俺が転校しても――」


 全然違いました。わりと深刻な話してた。


 けど、この二人はたぶん、離れ離れになっても大丈夫かな。そんな気がする。お互い信用してて、頼りにしている感じがする。心強いだろうな。


 ……友達がいなくても、頼れる人がいなくても、カノジョとかがもしいたら、僕も違ったのかな。いや、そんな都合のいいことないだろうけどサ。


 もし、僕にもそういう人さえできれば、突然、人生が変わるような奇跡が起きたり……するわけないか。




     ――するよ! ――



「え」


 僕の心の中での適当な愚痴に、誰か少女の明るい声が返事をしてきたような気がした。いや、そんなことあるわけないじゃん。きっと脳が勝手に作り上げた幻聴……


  ――違うよ! 聞こえたんでしょ! それなら、早くこっちに来て――


 さっきの声はどんどん大きくなって、僕の耳に反響してきた。周りをキョロキョロしてみても、誰一人としてこの声を聞いてない。ひょっとして、マジのテレパシー??


 ――おいで、幸せになりたいんでしょー――


 ……うん……



 いきなり始まったこの怪奇現象に、されるがままに近づいて行った。そして声に従って歩き続けると、だんだん人気のなくて狭い路地裏にはいっていった。


 多分、声はこの場所から出ているはず。


 そう思うと、目の前で、がたがたと揺れているひとつの丸い箱があるのが見えた。その箱、他にあるごみ箱とは、なんか違う……


 その揺れる箱を眺めてると、だんだんと吸い込まれそうな感じがする。まるで、異世界に連れていかれるような……


 ――ガタガタ、ガタ――


 というか、なんか今にも壊れそう。大丈夫かな。


 ――ガタガタ、ガッシャ―ん! ――


 ……壊れた??


 

 箱の破片が飛び散って、あたりには煙がたった。僕は急にきた衝撃に腰を抜かして、路地裏の端っこで思いっきり倒れ込んでいた。


 一体、何がどうなってんの? 幸せにしてくれるんじゃなかったの?


 そう思って、顔を上げると、そこには、当然、壊れた箱があった。

 

 でも、そんなのどうでもいい。さらに目を凝らしてよく見てみると、煙の奥で、誰か、女の子? が立っている。


 煙が晴れてくると、よりその姿が鮮明に分かった。



 白いロングドレスに、長いピンク色の髪、瞳は大きいくて青色、なにより、そのはつらつとしている雰囲気……


 誰?


 その女の子は、僕を見るなり、突然その青い目を明るく光らして、なんかブツブツ言っていた。で、それが終わると、僕の方に迫ってきて、小さくてきれいな顔を近づけてきた。


 で、最初の第一声をどうぞ!


 「ふふ、ゆうき君だよね! 私と、付き合って? 」


 


 



 


 


 


 


 




 


 

読んでいただきありがとうございました。

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