4 夏季訓練合宿
皆可愛は医務室で応急処置を受けてなんとか一命を取り留めた。
その後、すぐ学園外の大病院に移送され集中治療室で植物人間状態になってしまった。
皆可愛はこの日付けで休学処分となった。
皆可愛を病院へ見送った後、俺は理事長に呼び出された。
「用件は何ですか?」
「皆可愛の件だ。皆可愛は何者かによってアンチデバイサー粒子を浴びせられていた」
「アンチデバイサー粒子とは?」
「デバイサー粒子を解体する作用を持つ粒子だ。
アンチデバイサー粒子はデバイサーがデバイサー粒子の拡散によって実在の武器兵器を解体するのに拮抗する。
よって、今まで作れなかった実在の武器、兵器が再生成が可能となってしまう。
そんなデバイサー粒子の作用を打ち消す粒子がデバイサーの人体に流入してしまったんだ」
「流入するとどうなるんですか?」
「手持ちのデバイサー粒子が常に切れた戦闘不能状態になる。さらにアンチデバイサー粒子を浴び続けると生命力が減衰しやがて死に至る」
「じゃあアンチデバイサー粒子を使ったテロリストは皆可愛を殺そうとしたんですか?!」
「そうだ。これは立派な殺人未遂だ。しかしアンチデバイサー粒子の存在自体を表沙汰にはできない。
デバイサー粒子によって秩序保たれる平和を脅かす粒子が存在する事自体知られてはならない。
そこで君に指令を下す。
皆可愛を襲ったテロリストを見つけ出して私の前に突き出すのだ」
「サーイェッサー! もちろん、手がかりが一切なかろうがテロリストを探すに決まっているじゃないですか。皆可愛は助かるんですか?」
「医療デバイサーが今、皆可愛に侵襲したアンチデバイサー粒子をデバイサー粒子で対消滅させてる。しかし回復までには1ヶ月かかる」
「1ヶ月もかかるなんて重症ですね」
「数ヶ月も攻撃を受けていたせいで精神もやられてる。しかし、この件に対し感情的になるな。ノウイングス(コードを知る者)32番。周りに悟られるのが一番相手の思う壺だ。学園生活では普段通り立ち振る舞え」
「サーイェッサー」
ちくしょう。皆可愛をこんな酷い目に遭わせやがって! 絶対にテロリストを炙り出して理事長につきだしてやる。
テロリストはおそらく俺と同じ学生だ。皆可愛を寝たきりにしておきながら今ものうのうと学園生活を送っているだろう。
許せねぇ!
○
テロリストを炙り出す。
しかし、普段のルーティン通りの学園生活だと1000人近くいる学生の中から犯人を見つけ出すのは容易ではなかった。
チャンスがあるとすれば学園外に出る唯一のタイミングである夏休みの強化合宿だろう。
素粒戦専の学生は学生自体が国家軍事機密そのものなので長期休暇も基本的には寮と学園から出られないし、インターネットも監視されている。
そんな学生達が唯一学外に出れる行事が近隣の海辺の研修施設で行われる訓練強化合宿だ。
強化合宿といっても息抜きに海水浴やキャンプにバーベキュー、スキューバダイビングなどありとあらゆる楽しいレジャーが用意されている。
この強化合宿中なら自由に動けるので犯人が得意な挙動をみせれば特定ができるかもしれない。
そして夏季訓練合宿1日目。
一応訓練合宿なので研修施設に到着し荷物を置いてすぐ、最初の訓練カリキュラムだ。
ひたすら潜水と遠泳。
まず基礎訓練でスタミナをつけるのがこの学園のやり方だ。
「学園では走り込み、合宿では遠泳。持久力をつける訓練ばっかでしんどいよ!」
りんが嘆く。
「SWOC戦闘の要はサステナビリティ(持続可能性)だからな。最後まで戦場で立っていたSWOCデバイサーのいる国が軍事的勝利となる」
「本当に私達って戦いの駒なのね」
「そう悲観するな。勝っても負けても俺達SWOCデバイサーは死ぬわけじゃない。戦意を喪失するだけだ」
「でも自分の生まれ故郷の国を失うかもしれない」
「だから俺達はこうして必死に遠泳をしているんだろうな。負けたくないから」
「私、たとえ人が死ななくても戦争なんて大嫌い」
「戦争を起こさないための平和な武力。それがSWOCだ。大国同士がSWOCで睨み合っているのがずっと続けば戦争は起こらない」
「最初っから世界中の国々が仲良しだったらいいのに」
それは絵空事だよ。
と俺はりんに言いかけたが躊躇した。
彼女はまだ10歳なのだ。
「だといいな」
「まこと先輩!潜水と遠泳が終わったられいなと海上模擬戦やるんで立ち会ってもらえますかー?」
と、あやかが言った。
「別にいいけど元気だなお前ら」
「海での最強は私だって事を証明しますの」
と、れいな。
「いや陸海空全て私の方が強いね!」
あやかはれいなに負けじと豪語する。
こうしてあやかとれいなのSWOC海上模擬戦が行われる事になった。