3 皆可愛しのぐ
りんが現代にやってきて数週間が経った。
りんはデバイサーの始祖という事もあり、既に成績トップクラスのSWOCデバイサーになった。
そして、俺、棚花あやか、縁導れなのチームに入る事になった。
そして1週間後に実践模擬演習の期末試験を受ける事になった。
りんがチームに入れたのは実力の為だけではない。
前回の中間試験以降チームに欠員が出たからだ。
欠員となった元チームメイトは同級生の皆可愛しのぐ。
原因は不明だが中間試験以降不登校になってしまったのだ。
俺は週に一回、皆可愛の様子を見に女子寮に足を運んでいる。
ピンポーン。部屋のインターフォンを押す。
ウイーーン。
扉が開いた。
俺は部屋にお邪魔する。
「皆可愛ー来たぞー」
皆可愛は何もせず大人しく居間の座布団にちょこんと座っていた。
元々は明るい子だったのに、不登校になってからはいつも放心状態だ。
「……」
皆可愛は俺が来たにも関わらず、沈黙を続ける。
「来週、期末試験があるんだ。もう単位とか卒業の事とか気にしなくていいから俺達の演習の見学だけでも来てくれると嬉しいな」
「……」
「もちろん強制はしない。気が向いたらでいいんだ」
「……」
やっぱり、自分の活躍できない演習を観に行かせるのは酷だよな。
しかし、皆可愛がこのまま落第しても、演習見学して試験内容を知れば来年の試験で有利になると思ったのだ。
「……行くよ」
「えっ!?」
「私、見学、行くよ」
「ありがとう! 俺達の勇姿を期待しててくれ!」
「……うん」
「体調が悪い時とかは無理せず俺に相談してくれよ」
「……分かった」
「それじゃまた来るから」
「……」
俺が寮を出る時、皆可愛は無言で手を振ってくれた。
どうして皆可愛がこんなに大人しくなってしまったのか……。
俺はいくら考えても、教官や皆可愛の友達に訊いても分からなかった。
○
1学期末実戦模擬演習試験当日。
試験内容は人工知能であるAIが算出した敵の攻防のパターンに対処する戦闘シナリオシミュレーションだ。
敵を全員制圧した時点で合格となる。
制圧できず規定時間の超過、規則違反があると不合格、再試験になる。
チームは4人編成で全員デバイサーにオプションカードを5枚装填した状態からスタートする。
俺達A班のメンバーは沙遠りん、棚花あやか、縁導れな、そして俺恋澄まことの4人。
「それでは試験を開始する」
ブー!
戦闘開始のブザーが鳴る。
敵は4人5組編成の20人のSWOCデバイサーを模したホログラムで俺達の20メートルほど先に対峙している。
「よーし大砲で全員蹴散らしちゃえ!」
りんが早速攻撃を仕掛けようとする。
「ちょっと待て! 先制攻撃は憲法違反だ! 相手が先に攻撃するのを待つんだ」
「あっ! そうだった!」
りんはまだ戦闘に慣れていない。
国際世論(他の大国による解釈)では先制攻撃した方が悪とみなされ、制裁を受けてしまう。
「SWOCセット! マシンガン!」
民間人を装ったホログラムの敵がSWOCで武装し始めた。
こちらも応戦態勢に入る。
「SWOCセット! シールド」
俺はメインOCでシールドを展開した。
バシュンッ。
敵からの銃撃。
俺のシールドに当たった。
これで好きなだけ暴れられる。
「SWOCセット! ショットガン!」
と、あやか。
「SWOCセット! アサルトライフル!」
と、れな。
「SWOCセット! バズーカ」
と、りん。
SWOCは声に出さなくても生成できるが、声に出し五感の刺激で具体的に武器のイメージを固める事によって強固かつ強力さを増す。
加えてチームメイトへ自身の状況報告にもなる。
ババババババッ。
5組の敵集団が一斉に銃撃を仕掛けてくる。
物量差で圧倒しようという魂胆らしい。
「SWOCシールド! 全方位展開! 強化!」
俺はチームでは防御主体なので更にシールドを厚くする。
敵の銃撃の足並みが乱れた隙を狙い、右方からあやか、左方かられいなが左右から攻め入り攻撃態勢に入る。
敵が2人を狙い撃ちするも2人は弾幕を舞うように避けつつ、敵の急所を確実に撃ち落としていく。
その華麗で実力の高い戦闘スタイルから「戦場に咲く二輪の花」という異名を持っている。
「さすが名コンビだ」
俺は2人を褒めた。
「私達はコンビじゃない! 唯一無二の最強を目指しているの!」
「もっとも綺麗な花は一輪で充分ですのよ!」
バンバンバンバンッ。
2人は競い合うように敵を撃ち落としていく。
「あっ! ヤバい!」
あやかが一体仕留め損ねて、敵に銃口を向けられていた。
「シールド解除! SWOCセット! ハンドガン!」
俺は一旦シールドを解きつかさず銃に持ち替え、あやかを狙う敵を撃ち落とした。
「先輩! ナイスアシスト!」
あやかが俺に向かって親指を立てるハンドサインを送った。
この間、りんは俺の後方でデバイス粒子をSWOCに充填していた。
「SWOC! バズーカ! デバイサー粒子充填完了」
「あやか! れいな! 一旦捌けろ!」
「「SWOCサブシールド展開!」」
あやかとれいなはサブのオプションカードでシールドを展開する。
「SWOCバズーカ! 発射!」
バシュゥゥゥゥゥンッ!
ドガアアアアアンッ!
あやかとれいなが左右から一点に追いやった敵をりんがバズーカで一網打尽にした。
20人の敵がりんの一撃で殲滅したのだ。
ビー!
ブザーが鳴る。
「試験終了。タイム3分42秒。A班、合格」
「やったー」
と、あやか。
「予測シミュレーションの範囲内の敵の動きでよかったですわね」
と、れいな。
「ちゃんと当てれて良かったぁ!」
と、りん。
「あの充填量なら敵が50人いても勝ってただろうな。りんは凄いよ」
「えへへ」
「先輩のサポートと指示出しも迅速で素晴らしかったですわ」
「今回は指示役の皆可愛先輩がいなくて不安だったけどまこと先輩もやりますなぁ」
「そんな大した事ないけど、ありがとな。皆可愛の埋め合わせができて良かった。おーい! 無事クリアしたぞー皆可愛!」
俺は客席にいる皆可愛に向かって手を振った。
「……」
黒い日傘を差した皆可愛は無言かつ無表情だったが手を振り返してくれた。
「皆可愛先輩って学園に来なくなってから急に大人しくなったね」
あやかは心配そうに言った。
「まこと先輩も原因が分からないそうね」
とれいな。
「俺、他の班の試験が始まるまで皆可愛のところへ行ってくるよ」
俺は客席に行き皆可愛に声をかけた。
「よお! 皆可愛! 見に来てくれてありがとな!」
「……まこと君、気を……つけて」
バタッ。
皆可愛は客席の椅子から崩れるように倒れかけた。
俺は咄嗟に両手で皆可愛の両肩を支える。
「おい! 皆可愛! 大丈夫か!」
教官が駆け寄る。
「恋澄! 今すぐ皆可愛を医務室に連れて行け!」
「サー! イエッサー!」
俺は皆可愛を背負った。不気味なほど軽かった。
「教官。皆可愛さんは大丈夫なんですか?」
近くにいた女子生徒が教官に訊いた。
「見たところ軽い熱中症のようだ。医務室でクーリングと点滴を受ければ良くなる」
教官は周囲を安心させるために嘘をついていた。
何故なら今の皆可愛には脈拍がなかったからだ。
俺は足底飛行のSWOCを使い、医務室へ直行した。