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モブデバイサー  作者: 今宮僕
第1章 過去からきた少女とある夏の日
1/8

1 過去からきた少女


 俺、恋澄(こいずみ)まことの学園生活は退屈だ。


 なぜなら俺はこの学園においてモブのような存在だからだ。


 国立第一素粒子戦術専門特別教育校。


 略称・素粒戦専。


 20年前の第三次世界大戦時に新発見された万能素粒子ことデバイサー粒子。


 人体を通過するほど細かい粒子をデバイス(カードケース型端末)を介してデバイサーという異能者が自在に操れるようになった便利な世の中。


 素粒戦専は粒子の作用によって人体に傷つけず、戦意のみ消失させる力を行使するデバイサーを養成しあるいは準戦闘員として管理する学園だ。


 5年前、世界中の武器、兵器、軍事施設、軍用機材、ありとあらゆる武力は50人のデバイサーによって全て解体された。


 それ以降もデバイサー達が世界中にデバイサー粒子を散布し、武力の生成できないようにコントロールしている。


 武器や兵器を生成しようとしてもデバイサー粒子の作用によって勝手に分離、解体されてしまうのだ。


 これにより、高度な武力により誰も血を流す事のない平和な世界が訪れた。


 しかし国際情勢、特に五大国(大米合衆国、欧州連合国、アジア共和国、極北連邦、和雅国)のパラーバランスは大戦後から変わらなかった。


 デバイサー粒子を使って作られた安全な武器をプログラミングしたカード、セーフティウェポンオプションカード、通称・SWOC(スウォック)が登場したためだ。


 五大国各国に数万人単位でいるSWOC デバイサー達がSWOCを使用した戦闘で牽制しあい国際秩序は保たれている。


 せっかく武力がなくなったのに国同士のいがみ合いはまだ続いている。


 そんなSWOCデバイサーを養成と管理する学園で俺の成績は平々凡々。


 男子少子化のため学園唯一の男子であるにも関わらず一番目立たない存在、それが俺だ。


 そんな退屈な学園生活にある日、転機が訪れた。


 それは初夏の午前中、基礎体力訓練の最中の事だった。


     ○


 基礎体力訓練とは実質的にただの走り込みだ。


「ラスト2キロだ! ラストスパートをかけろ!」


 教官である切原先生が俺達に喝を入れる。


 俺は教官の指示通りペースを上げた。


 持てる持久力を使い果たさずに走り終えて少しでも余裕の表情を一度見せたものなら、教官から走り込み追加を命じられてしまう。


 残り300メートル……200……100……ゴール!


「うむ、恋澄。一応自己ベスト更新だな。しかしタイムはほぼクラス平均だ」


 良かった。平均を下回らなかった。


 劣等生にはなりたくないからな。


「ハァ……ハァ……」


 俺は教官に疲弊し切った表情を見せた。


 これで午前の基礎訓練は上がらせてもらえるだろう。


「恋澄はもっと体力をつけるべきだ。15分のインターバルを挟んでまた走ってもらうぞ」


「えー。そんなに走ったら太ももが破裂してしまいますよ教官」


「口答えするな! ランニング距離を増やすぞ」


「あれ? 先生髪切りました? 似合いますね」


「1ヶ月切ってない」


 くそっ。これくらいのおべっかじゃ通じないか。


「教官って胸大きいですよね。形もキレイで素敵です!」


 教官は呆れた表情を見せた。


「恋澄! それはもはやただのセクハラだ! 罰として10キロ走追加!」


「そんなぁ〜」


 やれやれ、参ったな。


 俺は15分後からの地獄へ備え、運動場脇の草木の生い茂った木陰で横になりインターバルの静養に充てる事にした。


 しかしその矢先--


 バサァァァッ!


 なんと、上空から俺の頭上めがけ小さな体躯の女の子が降って来たのだ。


 幸い生い茂る木々がクッションとなり落下衝撃は弱まっていた。


 俺はとっさに起き上がり女の子をお姫様抱っこでキャッチした。


 女の子は小学校高学年くらいの黒髪長髪ストレートヘアで目が大きくまつ毛も長く人形のように端正な顔立ちをしていた。


 俺は天使が舞い降りてきたのかと一瞬錯覚した。


 それくらいの美幼女だった。


 女の子は色白で華奢な肢体に陰毛がうっすらと生えかけていた。


 なぜそこまで分かるかというと彼女が全裸姿であるためであった。


 謎の全裸少女は目を覚ました。


「えっ!? ここどこ!? ギャー!!! ヘンタイ!!?」


バシバシバシッ。


 女の子は叫びながら俺の顔面に往復ビンタを食らわす。


「キャー犯される!」


「おい! 一旦大人しくしろ。周りに気付かれたらマズイだろ」


「マズイって何が? 恋澄君」


 クラスメイトの女子が背後から話しかけてきた。


 ……これはマズイ。


 非常にマズイ。


 クラスメイトの女子は俺が全裸少女を抱き抱えている事に気づく。


「キャー! 恋澄君のヘンタイ! ロリコン! タイホ! タイホですよ! 教官!」


「どうした。どうした」


 教官がやってきた。


 終わった俺の人生。


 俺は一応学園指定のトラックジャケットを脱ぎ、慌てて少女の身体を隠すように被せた。


「恋澄。こんなあどけない幼気な少女に手を出すなんて見損なったぞ。ヘンタイ……」


「誤解です教官! 俺は教官のようにバストが大きい大人の女性にしか魅力を感じません!」


「それはそれで私に失礼じょないかな」


 全裸少女に釘を刺された。


「そもそもお前は誰なんだ」


「私は沙遠(さとお)りん。2013年生まれの小学四年生!」


「2013年生まれ……だと!?」


 今から40年前じゃないか。


 2053年現在でさえタイムマシンなんて代物は存在しない。


「教官。これは一体……」


「想定外の事態だ。恋澄は至急、この少女を医務室に連れて行け」


「サーイエッサー」


 イレギュラーにより俺は追加の走り込みを免れた。


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