えんぴつくん(2)
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「異形」は「異形」だ。著しく成長した動物もいれば、自己改造をくり返したのではないかと疑いたくなるくらいのメカみたいな怪物もいる。人型もいる。人型は賢い、ヒトなのだからあたりまえだ。では、あたしたちはどうしてそんな危なっかしい「異形」と戦うのかというと、「異形」専門の部隊だからだ。政府からすれば捨て駒だ。死んだっていいのだ。自衛隊を使うよりは安価だし、国の防衛がしきりに叫ばれている昨今にあっては、できるだけ彼らを使いたくはないわけだ。理解できる理屈だ。そう。あたしたちはいなくなったってかまわないのだ。
えんぴつくんを家に招いた。あたしはラフどころか下着姿なのだけれど、えんぴつくんはまるで欲情したところを見せない。あたしに魅力が皆無なのだろうかと疑いたくなる――そんなことはないのだろう。唇がエロいとか言われたことがある。その言葉を信じたい。
テラスでテーブルを挟み、あたしらは向き合っている。
「えんぴつくんはどうして『異形』と戦うの?」
「姉が殺されたんです。『鬼』と呼ばれる『異形』に」
「『鬼』?」あたしは身を震わせた。「それってヤバい奴じゃん」
「犯されて殺されたんです。死んだあともそうされたという話でした」
あたしはまた背筋に冷たいものを感じた。
「やめなよ、そんなこと、敵討ちなんて、いまどき流行らないよ」
「姉を殺した奴が生きている。我慢できないんです」
強い意志だ。
えんぴつくんはやっぱりえんぴつみたいに細いけれど、思いはほんとうなんだ。
「えんぴつくん、じつはね? あたしも双子の妹を――」
「知っています。だからこそ、ぼくは『異形』を根絶したい」
「それは無理かもしれないよ?」
「ぼくはやり遂げてみせます」
「その自信は、どこから来るのかな?」
「心の底からです」
えんぴつくんは笑った。
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えんぴつくんの援護をする。それがあたしのもっぱらの仕事になった。ウチにもロケットランチャーなんかが支給された。「やれ」ということなのだろう。だからあたしは「やろう」と思う。次は戦闘ヘリでももらえればサイコーかな。
えんぴつくんが静かに突っ込む、巨大な蛇のような、うねうねした気色の悪い白い怪物に向かって。
えんぴつくん。
あなたは死んじゃだめだから。
先に死ぬのはあたしだから。
じゃなきゃもうやってられない。
あたしも一歩二歩と踏み出した。
来るなとえんぴつくんは叫んだけれどそんなもの、あたしは聞かなかった。