表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

「あたし」

えんぴつくん(2)

作者: XI

*****


 「異形」は「異形」だ。著しく成長した動物もいれば、自己改造をくり返したのではないかと疑いたくなるくらいのメカみたいな怪物もいる。人型もいる。人型は賢い、ヒトなのだからあたりまえだ。では、あたしたちはどうしてそんな危なっかしい「異形」と戦うのかというと、「異形」専門の部隊だからだ。政府からすれば捨て駒だ。死んだっていいのだ。自衛隊を使うよりは安価だし、国の防衛がしきりに叫ばれている昨今にあっては、できるだけ彼らを使いたくはないわけだ。理解できる理屈だ。そう。あたしたちはいなくなったってかまわないのだ。


 えんぴつくんを家に招いた。あたしはラフどころか下着姿なのだけれど、えんぴつくんはまるで欲情したところを見せない。あたしに魅力が皆無なのだろうかと疑いたくなる――そんなことはないのだろう。唇がエロいとか言われたことがある。その言葉を信じたい。


 テラスでテーブルを挟み、あたしらは向き合っている。


「えんぴつくんはどうして『異形』と戦うの?」

「姉が殺されたんです。『鬼』と呼ばれる『異形』に」

「『鬼』?」あたしは身を震わせた。「それってヤバい奴じゃん」

「犯されて殺されたんです。死んだあともそうされたという話でした」


 あたしはまた背筋に冷たいものを感じた。


「やめなよ、そんなこと、敵討ちなんて、いまどき流行らないよ」

「姉を殺した奴が生きている。我慢できないんです」


 強い意志だ。

 えんぴつくんはやっぱりえんぴつみたいに細いけれど、思いはほんとうなんだ。


「えんぴつくん、じつはね? あたしも双子の妹を――」

「知っています。だからこそ、ぼくは『異形』を根絶したい」

「それは無理かもしれないよ?」

「ぼくはやり遂げてみせます」

「その自信は、どこから来るのかな?」

「心の底からです」


 えんぴつくんは笑った。



*****


 えんぴつくんの援護をする。それがあたしのもっぱらの仕事になった。ウチにもロケットランチャーなんかが支給された。「やれ」ということなのだろう。だからあたしは「やろう」と思う。次は戦闘ヘリでももらえればサイコーかな。


 えんぴつくんが静かに突っ込む、巨大な蛇のような、うねうねした気色の悪い白い怪物に向かって。


 えんぴつくん。


 あなたは死んじゃだめだから。

 先に死ぬのはあたしだから。


 じゃなきゃもうやってられない。


 あたしも一歩二歩と踏み出した。

 来るなとえんぴつくんは叫んだけれどそんなもの、あたしは聞かなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)すげぇ。まさにザ・文学ですね。響く人には必ず響きます。 [気になる点] ∀・)作者様にも色んな葛藤があるんだなってところが滲み出ている気がした。 [一言] ∀・)「えんぴつくん」って…
[一言] えんぴつくんの戦う理由を知って止めようとする主人公。本当に彼を失いたくないんだろうなと思いました。ラストの展開が不穏で、もし続きがあったらどうなってしまうのかとハラハラしますね……。 この作…
[良い点] わー、あたし! 今回はえんぴつくんを死なせずに、自分が死ぬ気で?! えんぴつくん、あたしのために生きてくれ~! あたしはもうバディを失いたくないんだよ~! ペン(シル)は剣より強い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ