09 動くもの
(取り敢えず、竹林の際を進むか……)
竹林に沿って歩き始めると、目の前に見慣れた草を見つけた。
(これは……ヨモギか?)
地球に居た時は、そこら中で見かけたヨモギ。
お浸しや天ぷらでにして食べたり、焚き火に入れて虫除けにもなる。
怪我をした時には止血の為に使ったりなど、色々と利用価値の高い野草だ。
ただし、それは地球にあったヨモギならばと言う話だ。
ここは地球ではないし、ヨモギによく似ているだけの全く別の物かも知れない。
最悪の場合、毒草なのかもしれない。
地球の物と同じだと考えてしまうのは、危う過ぎる。
(食べられるかどうかは後で考えるとして、焚き付けの代わりには出来るだろう……)
ヨモギの様に、葉には細かい産毛の様なもので覆われている。
火付きが良いかもしれないし、虫除けの効果もあるかも知れない。
手袋をしたまま、そのヨモギらしきものを摘み取りリュックから取り出した袋の中へと詰め込んでリュックの横にぶら下げた。
もしかすると、この先にも生えているかも知れない。
だが、焚き付けにするのならば乾燥させなければいけない。
少しでも早く地面から切り離しておけば、それだけ早く乾燥が進む。
ヨモギらしきものを摘み終えた所で歩き出そうと立ち上がった時に、風が草を揺らす音とは違う草音が俺の耳へと飛び込んできた。
(何か居る? 大型の動物ならヨモギ? を摘む前から見えていたはず。
小さい動物だとは思うが、イノシシとかなら厄介だな……)
イノシシはそれ程大きい動物ではないが、突進による攻撃は非常に危険だ。
俺は物音を立てない様に、リュックからナイフを取り出して音のした方へと注意を向ける。
あちらも動かずに、こちらの様子を覗っている様だ。
その膠着状態が30秒程続いたかと思うと、あちらから再び草に触れる音がした。
その音はどんどん遠ざかって行く。
(行ったか……何だったんだ?)
俺は立ち上がり、音のする方へ注視する。
それは草を揺らしながら、どんどんと遠ざかって行き、少しだけ顔を出していた岩の前へと着いた様だ。
そして、その音の正体は岩の上へと飛び乗った。
茶色の、ウサギの様なものと目が合った。
(あ~、その内、ああ言うのも食べるようになるんだろうか?)
動物愛護協会が聞いたら卒倒するかもしれないが、生き残るためにはそんな事は言っていられない。
食べられるものを食べないと死んでしまうのだから……動物愛護とかは、生活に余裕があるからこそ出来るんだろ、と心の中で悪態を吐いていた。
(まぁ、非常食として飼っておくのも良いかも知れないな……)
捌けるかどうかは分からないが、多少周りが汚れたって肉として切り分けることぐらいは出来るだろう。
そんな甘い考えを持ちながら、このヨモギ場を後にした。