44 食事のはじまり
「まぁ、今はとりあえず食っておけ。
魔法が使えなくても、これまで生きて来れたんだ。
俺達が帰ってくるまでだって、大丈夫だろ」
ザガンが木の器に何かスープみたいなものを入れて渡してくれた。
他の皆には、違う鍋で作られた食べ物を木の器に入れて配った。
自分に与えられた食事と他の皆に配った食事が違う様だと何回か見比べていたところ……
「ユウタは此処の所まともに食べていないんだろ? そこへこんな食事を分けたら、お腹を壊しちまう。
今は、それで我慢しておいた方が身体の為なんだ。
決して嫌がらせとかじゃないから、勘違いしないでくれよ」
そう言えば、遭難とかで何日もまともな食事を摂れなかった時には、助かった後もすぐに普通の食事はしてはいけない、と聞いたことがある。
長期の栄養失調状態から急に栄養を摂り過ぎた場合は、死への階段を1歩1歩登っている様なものだと。
今の俺はまさにそれで、ここで栄養を摂りすぎてしまうと言う事は、死へと一直線へ向かう事に他ならない。
「ありがとう。
俺もこんな状態の時に、皆と同じものを食べたら死んでしまうって聞いたことがある。
俺は、こっちを喜んで食べさせてもらうよ」
「分かってくれたようで、嬉しいよ」
「それでは……」
ナターシャが両手を胸の前で組み、両眼を閉じた。
他の皆もナターシャと同じポーズをとる。
「神よ、貴方の慈しみに感謝します。
ここに用意されたものを祝福し、わたしたちの心と体を支える糧としてください」
俺があたふたしている中、ナターシャの祈りの言葉は終わっていた。
一呼吸おいて
「さぁ、食べようか」
アレスが食事の開始を宣言した。
(さっきのは食事前の祈りなんだな)
此方の世界でも、食事の前には祈りを捧げるようだ。
「ユウタさんも食べましょう」
「あぁ、そうだな……」
俺は両手を顔の前で合わせて、軽くお辞儀する。
「いただきます」
生粋の日本人である俺は、お祈りの言葉などは分からない。
小さい頃から、『いただきます』『ごちそうさま』の世界で生きてきたのだから、今更どうしようもない。
郷に入れば……ではあるが、これまでも併せる必要は無いだろう。
案の定、アレス達は驚いたような顔をして此方を見ている。
「それは、何ですか?」
アレスが疑問を口にする。
「これは、日本で食事の前にする挨拶みたいなものだな。
この『いただきます』って言うのは、元々は食べ物となった命に対して感謝する言葉だったかな? 確かな意味は知らないけれど、この『いただきます』って言うのは習慣になっていたんだ」
「へぇ、随分と簡単なんだね。
でも、その方が食事が冷めなくて良いね」
「祈りの言葉で食事が冷める事なんて無いだろ?」
「いや、この前の王様の晩餐会ではスープが冷めちまっていたからねぇ」
「あれは、本当に長かったな」
「俺っちなんか、何度も薄目で周りを確認したっす」
アレスとナターシャは、何も言わずに苦笑いをしていた。




