42 使用上の注意
「さっきも言った通り、此処を横にずらせば入り口が開く。
そして逆にずらせば入り口を閉じることができる。
中にも同じものがあるから、同じようにずらせば開け閉めできるからな」
ナターシャとリーナは、首肯しながら俺の説明を聞いている。
「このままだと、雨が降った時にはテントの中が水浸しになってしまう。
本来なら、雨が入らない様に上に掛けるものがあるんだけど、今は飲み水の確保の為に使っているんだ」
「最後に、一番気を付けて欲しいことがあるんだけど……これは、一寸、俺の口からは言い難い事なので、実際に見て欲しいんだ」
そう言って、俺はナターシャにテントの中に残って貰い、リーナと共にテントから距離を取った。
「最後の注意って何だい?」
「此処からテントの方を見てくれないか?」
「ナターシャが居るだけだろ? 何もおかしなことは無いと思うけどね」
「ナターシャ。
少し動いてみてくれないか?」
「この様な感じで宜しいでしょうか?」
ナターシャの動きに合わせて、テントに映し出された影も動き始めた。
「こんな感じで、影ではあるけれどテントの中が……な」
「あぁ、そう言う事かい。
あたしは気にならないけど、ナターシャには少し酷な事かも知れないね。
防ぐ方法は無いのかい?」
「簡単なことだよ。
外からの光の方が強ければ良いんだ」
そう言うと同時に、LEDランタンの明かりを灯してテントへと向けた。
「だから、日中は気にする必要は無い。
夜だけ気を付ければ良い」
「成程ね。
お~い、ナターシャ。
こっちに出て来いよ」
「分かりました」
「どうするつもりだ?」
「ナターシャにも見せた方が話が早いだろ? あたしが中で火を灯せば分かるだろう?」
「だから、さっきも言っただろ? 火は厳禁だって。
テントが燃えてしまうぞ」
「あ、そっか。
すっかり忘れちまっていたわ」
「本当に貸しても大丈夫だろうな?」
「大丈夫だって、今度こそきっちり覚えたから」
そう言いながら、リーナは俺の肩を叩いた。
力があるのか、少ないながらも今まで肩を叩かれた中では一番痛く感じた。
まぁ、我慢できない程ではないのだが……
「そうなると、代わりの明かりが必要だな。
ってことで、そのライトを貸して貰えないか?」
「あぁ、良いよ」
「ありがとうな。
これで、中で明かりを灯した時のナターシャの顔が目に浮かぶぜ」
リーナは黒い微笑みを浮かべながら、ナターシャの到着を待っていた。
(俺は、間接的にでもリーナの悪戯に加担したことになるのだろうか?)
そんなつもりは、全くなかったのだけど……いや、ナターシャだけではなく、リーナも同様の反応を示すかも知れない……と心の片隅にはあったのかも知れない。
勿論ながら、大半は親切心から行ったものではある……筈だ。
ナターシャ到着までに、LEDランタンの使い方(と言っても、点け方、消し方だけだが)を教えた。
その後は予想通りの展開となり、何故か俺がナターシャに頬を叩かれた。
(解せぬ……)
そう思いながらも、日中は大丈夫だと言う事を伝えた。
腹を抱えながらリーナが此方へと帰って来たのは、その説明が終わった頃だった。




